発表

1A-065

内集団バイアスがマインドリーディングに及ぼす影響 ヴァーチャルリアリティ空間の他者に対する最小条件集団パラダイムの効果

[責任発表者] 古見 文一:1
[連名発表者] Antonia Hamilton#:2
1:神戸大学/日本学術振興会, 2:ユニヴァーシティカレッジロンドン

目 的
 日常生活において,他者の心を理解する能力は非常に重要であると考えられる。他者の心を理解する能力は,心理学分野においては心の理論 (Theory of Mind) 研究として,数多く行われてきた。Wellman, Cross, & Watson (2001) のメタ分析の結果から,文化による多少の違いはあっても,定型発達児は4歳頃にこのような能力を獲得することが現在の統一見解となっている。また,自閉スペクトラム症児は心の理論が遅いということも明らかとなっている (Baron-Cohen, Leslie, & Frith, 1985)。近年は,研究対象となる年代が広がっており,心の理論に関しては,幼児期におけるその獲得について議論するものとし,広義における他者の心の理解の学術用語として代替案を用いることが提唱されており,マインドリーディングもその一つである (Apperly, 2011)。
 発達研究でこれまで用いられてきたマインドリーディングを測定する課題においては,参加者(児)に,課題に登場する他者の心を推測させるという手法が用いられているが,そこに登場する他者は,ほとんど情報のない中立的な他者であった。一方で,現実のコミュニケーションでは,コミュニケーション相手が情報のない中立的な他者であることはほとんどない。本研究では,コミュニケーション相手によってマインドリーディングの成績が異なるという仮説を検証するために実験を行った。具体的には,実験に登場する相手との心的距離を,最小条件集団パラダイムを用いて内集団・外集団を構成することによって操作し,ヴァーチャルリアリティにおけるコミュニケーション相手の違いがマインドリーディングに及ぼす効果について検討した。
方 法
参加者 英国University College London の心理学実験参加者データベースを使用して参加者の募集を行った。募集条件としては,30歳以下であること,英語が流暢であること,視力が正常(コンタクトレンズによる矯正は可としたが,VR機器の構造上メガネの使用は不可とした),精神疾患や薬物中毒の経験がないこととした。その結果,32名の女性が実験に参加した (M = 23.03, SD = 2.88)。本研究は Institute of Cognitive Neuroscience, University College London の倫理審査の承認を受けて行われた (ICN-AH-PWB-3-3-14a)。
手続き 参加者は,まず点数え課題を行った。点数え課題では,1秒間の注視点呈示の後,黒い画面に50〜250の白い点が表示される画面が2秒間呈示された。その後,点がいくつであったかを参加者が回答した。これを10試行繰り返した後,全ての参加者に,先行研究で人は点数え課題で多く見積もるか少なく見積もるかは一貫することがわかっており,あなたは少なく見積もる人だと判定されましたと呈示された。実験者はその時点で,少なく見積もるグループ用のシールとして青いシールを参加者に手渡し,参加者はそれを服に付けた。
 その後,服に青いシールを貼り付けたアヴァター(少なく見積もる人=内集団の人)と赤いシールを貼り付けたアヴァター(多く見積もる人=外集団の人)が参加者に紹介され,その2名とヴァーチャルリアリティ空間でディレクター課題(古見・子安, 2012) を行った。ディレクター課題では,九つに区切られた棚の中から相手に指定されたものを取り出す課題である。棚の幾つかの場所は相手からは見えないようになっており,相手がどれのことを指して指示しているかという意図を読み取る必要がある課題である。この課題を用いて参加者のマインドリーディングの成績を測定した。ディレクター課題には,内集団・外集団それぞれの条件について,相手の意図の読み取りが必要な実験試行と,自己中心的な回答でも正答できる統制試行が含まれていた。
結 果
 ディレクター課題の誤答率と正反応時間のそれぞれについてアヴァター(参加者内要因:内集団,外集団)x 試行の種類(参加者内要因:実験,統制)の二要因分散分析を行った。その結果,誤答率については,試行の種類の主効果(F (1, 31) = 10.85, p = .00, ηp2 = .26) と交互作用 (F (1, 31) = 4.49, p = .04, ηp2 = .13) が有意であった。単純主効果の検定を行ったところ,実験試行においてアヴァターの効果が有意であり,外集団のアヴァターが相手の時の方が,内集団のアヴァターが相手の時よりも誤答率が高かった (t (31) = 2.93, p = .01, r = .47 )。
 正反応時間に関しても,試行の種類の主効果(F (1, 31) = 20.75, p < .001, ηp2 = .40) と交互作用 (F (1, 31) = 5.37, p = .03, ηp2 = .15) が有意であった。単純主効果の検定の結果,実験試行においてアヴァターの効果が有意であり,外集団のアヴァターが相手の時は内集団のアヴァターが相手の時よりも反応時間が速かった (t (31) = 3.87, p = .00, r = .57)。
考 察
本研究では,全く同じ条件の2名に対するマインドリーディングの成績が,最小集団条件パライムを用いた内・外集団に影響されることが明らかとなった。この結果は,これまでのマインドリーディング研究では扱いきれていなかった,個人内のマインドリーディング能力の変動を示すものである。これまでの研究で,心を読み取る相手によってマインドリーディングの成績が異なる可能性は示されてきたが,条件によって正答が異なっていた (c.f. Furumi & Koyasu, 2014, 2015) か,正答が異なる可能性が示唆されていた (Lane, Wellman, & Evans, 2010)。本研究で用いた課題では,どちらの相手であっても,正答は同じであった。それにも関わらず,相手が内集団か外集団のどちらに属するかによって成績が異なることは重要である。また,内集団の相手に対しては,より正確な反応ができる一方で反応時間が遅かったという結果は興味深い。これは,内集団に属する相手に対しては,参加者はより慎重に相手の心を読み取ろうとしたという可能性が考えられる。このように内集団バイアスがなぜマインドリーディングに影響を及ぼしたのかを明らかにすることは今後の課題である。

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