発表

1A-064

漢字の文字情報が共感覚色の数に与える影響

[責任発表者] 宇野 究人:1
[連名発表者] 浅野 倫子:2, [連名発表者] 横澤 一彦:1
1:東京大学, 2:立教大学

目 的
 共感覚とは,ある情報入力に対し,一般的に喚起される認知処理に加えて別の認知処理も喚起される現象である。共感覚の中でも文字を見ると特定の色を感じる現象を色字共感覚と呼び,このとき感じられる色を共感覚色という。人口の1〜2%が色字共感覚を持つと推定されている(Ward, 2013)。
 これまで色字共感覚については,1つの文字や単語と1つの共感覚色が対応付けられることを想定した研究が一般的に報告されていた。しかし,英語を用いた近年の研究では,1つの語に対して複数の共感覚色が対応付けられている可能性が指摘されている。その中でもMankin, Thompson, Branigan, & Simner(2016)は,2つの独立した形態素が結びついて作られた語である複合語(例:rainbow)に対して感じられる共感覚色を最大2色まで回答させるという実験を行い,複合語の共感覚色の数は,複合語を全体的に処理するか2つの形態素に分解して処理するかのバランスを反映していると主張した。
 Mankin et al.(2016)が示したような1つの語と複数の共感覚色の対応付けは,文字単位でも存在する可能性が考えられる。もし個々の文字においても複合語と同様に,文字処理の全体・分解のバランスが共感覚色の数に影響を与えているのならば,形態的に分解できる文字はできない文字に比べて共感覚色の数が多くなると予想される。このことを調べるために,漢字を文字刺激として「偏と旁に分かれる漢字は分かれない漢字に比べて共感覚色の数が多い」という仮説を立て,漢字の形態が共感覚色の数に与える影響について検討した。
 また,漢字は形態情報の他に音韻や意味といった高次の文字情報を持つ。これらは共感覚色の色味の決定因となることから(Asano & Yokosawa, 2012),共感覚色の数にも影響している可能性が考えられる。音韻が共感覚色の数に影響するならば,読みが1つに定まる漢字は,複数の読みをもつ漢字と比べて共感覚色の数が1つになりやすいのではないかと考えられる。また,意味が共感覚色の数に影響するならば,具象物を示す文字は具象物から連想される色のイメージと文字が1対1で結びつくことで,具象物を示さない文字に比べて共感覚色の数が1つになりやすいのではないかと考えられる。以上の仮説について分析を行うことで,漢字の音韻・意味が共感覚色の数に与える影響についても検討した。
方 法
参加者 日本語を母語とする色字共感覚者10名(平均年齢23.7歳,SD = 6.17歳)。
刺激 偏と旁に分かれる漢字36文字と,偏と旁に分かれない漢字24文字の,計60文字を刺激として使用した。
手続き 参加者は全ての文字刺激について,最も印象の強い共感覚色を「1つめの色」,それに次いで印象の強い共感覚色がもしあればその色を「2つめの色」として,PC画面上に表示されるパレットを使って回答した。そして,各文字刺激に対して回答された色の数を分析に用いた。
結 果
 全ての分析は,線形混合効果モデルを用いて参加者の個人差をランダム変数に含めて行った。
形態の影響 共感覚色の数の平均値は,偏と旁に分かれる漢字群(36文字)では1.54(SE = 0.16),分かれない漢字群(24文字)では1.22(SE = 0.13)であり,偏と旁に分かれる漢字群のほうが有意に大きいことが示された(t = 3.20,β= 0.32, p < .05)。これは仮説を支持する結果であり,形態が共感覚色の数に影響することを示唆している。
音韻の影響 偏と旁に分かれない漢字のうち,親密度など,他の文字情報が統制された24文字を用いて,読みが1つの漢字群(12文字)と読みが複数の漢字群(12文字)で共感覚色の数に差があるか分析したが,有意な差は見られなかった(t = 2.04,β= 0.12, p > .05)。これは仮説を支持しない結果であり,音韻が共感覚色の数に影響していないことを示唆している。
意味の影響 偏と旁に分かれる漢字のうち,他の文字情報が統制された12文字を用いて,具象物を示す漢字群(6文字)と示さない漢字群(6文字)で共感覚色の数に差があるか分析したが,有意な差は見られなかった(t = 0.48,β= 0.03, p > .05)。これは仮説を支持しない結果であり,意味が共感覚色の数に影響していないことを示唆している。
考 察
 本実験の結果はまず, 1つの文字に複数の共感覚色が対応付けられる場合が存在することを示している。また,漢字の形態は共感覚色の数に影響するが,音韻・意味は影響しないことが示された。この結果は,文字の全体・分解処理のバランスが形態に基づく低次の視覚情報によって決められ,分解された単位ごとに共感覚色が結びつくことでその文字の共感覚色の数が決定する,というメカニズムの存在を示唆している。1つの文字に対する共感覚色の「数」の問題は従来の研究では無視されてきたが,本実験の結果は,共感覚色の数について検討することが共感覚全体のメカニズムを解明する手がかりの1つとなる可能性を示している。
引用文献
Asano, M., & Yokosawa, K. (2012). Synesthetic colors for Japanese late acquired graphemes. Consciousness and Cognition, 21, 983-993.
Mankin, J., Thompson, C., Branigan, H. & Simner, J. (2016). Processing compound words: Evidence from synaesthesia. Cognition, 150, 1-9.
Ward, J. (2013). Synesthesia. Annual Review of Psychology, 64, 49-75.

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