発表

1A-063

金銭プライミングが顔認知に及ぼす影響 お金を見ると笑顔が真顔に感じられる?

[責任発表者] 永山 ルツ子:1
1:静岡英和学院大学

目 的
 金銭に関するプライムは,金銭関連行動に影響するだけではなく(Vohsら, 2015),感情表出や表情表出の判断にも影響することが報告されている(Jiangら,2014)。このように,金銭を見せたりイメージさせたりすると(金銭プライミング課題),その後の行動や感情に影響を及ぼすことが報告されているが,表情認知や魅力的認知の側面からは詳しく検討されていない。
そこで,本研究は,顔の表情や魅力判断に及ぼす金銭プライミングの効果について検討することを目的とした。実験では,以下の3点について検討した。1.金銭プライミングパラダイムを用い,表情判断や魅力判断の違いによる検討を行なった。具体的には,金銭プライミング課題の前後に,表情判断,魅力判断を実験参加者に課し,判断の違いについて検討した。2.金銭プライミングパラダイムの処理水準要因についても検討した。具体的には,形態条件(紙幣の判別),意味条件(紙幣の高価価値判断)を課した。3.価値志向性尺度を課して,尺度の高低により金銭プライミングの効果に違いが見られるかどうかについて検討した。
方 法
実験参加者 平均年齢21歳の大学生13名(男性5名,女性8名)が実験に参加した。
刺激 実験では,図1のような紙幣画像7枚(1万円札,5000円札,1000円札,10ドル札,100ドル札,10ユーロ札,100ユーロ札,100シンガポールドル札)と顔画像12枚を用いた。さらに,5段階尺度の価値志向性尺度(酒井・山口・久野,1998)を用いた(例:目先のことよりも長期的な損得を考えて行動する,買いたい物がある時はプラス面・マイナス面を考えて現実的に判断する,など)。
実験計画 価値志向性(2:高群・低群)×顔認知判断(2:表情判断・魅力判断)×金銭プライム課題(2:形態条件・意味条件)の3要因計画。価値志向性は参加者間要因,顔認知判断と金銭プライム課題は参加者内要因で,各要因の試行順序はカウンターバランスされた。
手続き 実験はPCで制御して行われた。図1のように刺激はプレターゲット,金銭プライム,ポストターゲットの順番でPCの液晶画面に提示された。その後,実験参加者自身の価値志向性に関する尺度を課した。金銭プライム課題 形態条件では,PCの画面上に紙幣を2枚提示し(2s),実験参加者にどちらが国内の紙幣かを判断してもらい,意味条件では,どちらの紙幣が高いかを判断してもらった。顔認知判断 プライム提示の前後に,顔認知判断(プレターゲットとポストターゲット)を行った。PCの画面上に笑顔か真顔を1枚提示し(2s),表情判断では,実験参加者に5段階評定で表情の強度を,魅力判断では,魅力の強度を評定してもらった。価値志向性尺度 プライミング実験後,5段階評定で価値志向性尺度を課した。
結果と考察
 まず,表情判断と魅力判断ごとにプライム前後の表情評定値と魅力評定値の差を抽出した(プレターゲット値-ポストターゲット値)。次に,価値志向性尺度の結果より,高群(6名)と低群(7名)に分けた。さらに,評定値の差をもとに,価値志向性(2:高群・低群)×顔認知判断(2:表情判断・魅力判断)×金銭プライム課題(2:形態条件・意味条件)の3要因分散分析を行った(表1参照)。その結果,顔認知判断に有意な主効果(F(1,11)=5.56, p=0.04)が認められ,価値志向性と顔認知判断間の交互作用は有意傾向であると確認された(F(1,11)=3.57, p=0.09)。
金銭プライム提示前より提示後の表情評定値が低くなったことから,金銭プライムは表情判断に影響を及ぼす可能性が示唆された。一方,魅力判断では金銭プライムの効果は認められなかった。また,価値志向性と顔認知判断の交互作用に有意傾向が認められたことから,金銭プライミング効果は,価値志向性が高い方が影響されやすいのかもしれない。しかし,金銭プライムの処理水準の違い(形態条件と意味条件)については,差は認められなかった。
本実験の結果より,金銭を見せられると,価値志向性が高い人ほど,表情判断で笑顔をより真顔と評定しやすい傾向が示された。感情的側面から検討したJiangら(2014)によると,お金を取り扱う際は,ビジネス的な観点から感情表出を抑制することを望まれているからだと考察している。つまり,損得勘定等に価値を置きやすい人ほど金銭が連想されると,表情認知にもバイアスが生じるのかもしれない。
引用文献
Jianga, Y. et al. 2014. Impact of money on emotional expression, Journal of Social Experimental Psychology, 55, 228-233.

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