発表

1A-057

感情音声による年齢知覚

[責任発表者] 重野 純:1
1:青山学院大学

目 的
 一般に人は笑顔によって若く見せることができると考えられているようであり,それを確認した実験もある1)。その一方で笑顔は目元に皺ができやすいので逆に老けて見えるとする実験結果がGanel (2015)によって報告されている2)。
コミュニケーション場面では顔の表情と同様に音声も話し相手の年齢認知に重要な役割を果たしており,また電話やラジオでは音声のみから話者の年齢を認知しなくてはならない。顔については結果が分かれているが,声から年齢を判断する場合,幸せそうな声は若い印象をコミュニケーション相手に与えるのだろうか。Shigeno (2016)は音声に含まれる感情の種類と話者の年齢の知覚との関係を調べ,幸福な声の場合は実年齢よりも話者の年齢を若く判断することを見出した3)。
本研究の目的は,感情を込めた音声(感情音声)が話者の年齢知覚に及ぼす影響を,ニュートラル,幸福,悲しみの3つの感情間および話者の年代間で比較検討することである。
方 法
【実験参加者】 聴覚健常な40名の大学生(男性5名,女性35名)が実験に参加した(M = 21.5, SD = 0.82)。
【刺激】 話者は平均年齢が25, 35, 45, 55, 65, 75歳の6年代にわたる男女俳優24名(各年代とも4名ずつで男女同数)であった。刺激文は「本当ですか,信じられません」の文をそれぞれニュートラル,幸福,悲しみの感情を込めて発話したものであった。発話音声はMiniDVテープ (SONY, ME DVM60).に収録した。話者の年代と感情の提示順はランダムとした。実験は72試行からなった(3感情×話者24名)。
【手続き】 実験参加者は提示された音声をよく聴いて,話者の年齢を判断するよう求められた。発話刺激はPC(HP, ProBook 650G1)を用いて再生し,スピーカー(BOSE, 301V; 101MM)から聞き取りやすい大きさで提示した。
結 果
 まず刺激音声の感情がどのように知覚されているのかを確かめるために,別の実験参加者58名から同定判断を得た。その結果,ニュートラルは44.4%,幸福は83.7%,悲しみは60.2%の同定率であった。ニュートラルは種々の感情に同定されて同定率が低かったが,これは先行研究と同様の傾向であった。
図1は年代・感情ごとに4名の話者の知覚された平均年齢を表している。話者の年代と感情が話者の年齢判断にどのような影響を及ぼすのかを検討するために,感情(ニュートラル vs. 幸福 vs. 悲しみ) × 年代 (20代−70代)の反復測定の二元配置分散分析を行った。その結果,感情と年代の主効果および交互作用が有意であった(F(2, 114) = 36.27, p < .001, η2 = .389; F(5, 285) = 105.25, p < .001, η2 = .649; F(10, 570) = 21.76,
Figure 1. Perceived age of speakers when the emotions were  presented with their voices.

p < .001, η2 = .276)。さらに年代ごとに感情による違いを検討した結果,20代と70代以外の世代では幸福な声がニュートラルや悲しみよりも若く知覚されることが示された(p < .05)。
考 察
音声の感情は話者の年齢知覚を左右することが示され,20代と70代を除くと,幸福な声で話した話者の年齢は過小評価されることが認められた。声の高さを男女別に比較した実験結果では,一般に女性は男性よりも若く判断されやすいことが報告されている3)。幸福な感情音声は一般にピッチが高く4)5),また若者〈特に女性〉はピッチが高い6)。従って,感情音声が幸福であった場合に話者の年齢を過小評価した最も重要な要因として,「幸福な声はピッチが高い」という要因が考えられる。また加齢とともに人の声はしゃがれたり,呼吸機能の低下のために声の大きさが小さくなったりする。これらの要因も年齢判断に影響していると考えられる。
引用文献
1) Voelkle, M. C., et al. (2012). Psychol. Aging, 27, 265–277.
2) Ganel, T. (2015). Psychon. B. Rev., 22, 1671–1677.
3) Shigeno, S. (2016). Speaking with a happy voice makes you sound younger. Int. J. Psychol. Stud., 8, 71-76.
4) Murray, I. R. and Arnott, J. L. (1993). J. Acoust. Soc. Am., 93, 1097–1108.
5) 重野純 (2004). 心理学研究, 74, 540–546.
6) Russell, A., et al., (1995). J. Speech Lang. Hear. R., 38, 101–109.

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