発表

1A-056

保育実践が保育者の自己評価に及ぼす影響

[責任発表者] 伊藤 美加:1
1:京都光華女子大学

目 的
 京都光華女子大学こども教育学部こども教育学科の2年次の学生に対して,初めての実習である「幼稚園教育実習I(観察実習)」へ行く前後で,保育者としての自己評価がどのように変化したのかを,質問紙調査により検討した。

調査方法
 平成28年度「教育心理学」の初回(以下実習前とする)と最終回(平以下実習後とする)の授業時に調査冊子を配布し,各尺度項目について,受講生に評定してもらった。
 調査冊子には,順に,コミュニケーション・スキル,ENDCOREs,J-WLEIS,保育士適性尺度,保育者効力感尺度,自尊感情といった尺度が含まれていた。
 調査実施の際,冊子表紙に書かれた,調査協力の依頼と調査手続きについて口頭で説明を行った。プライバシーへの配慮や調査に参加しない自由の確保についても説明し確認を行った後,各質問項目への回答を始めるよう指示した。
 なお,初回と最終回の両方ともに出席し,調査実施に協力した受講生53名を分析対象とした。

結果と考察
コミュニケーション・スキル尺度
 大学生として習得すべきコミュニケーション・スキル尺度(伊藤,2013)の下位尺度別の評定値について,実習前後2(実習前,実習後)×下位尺度4(傾聴力,表現力,理解力,関係力)の2要因分散分析を行った。その結果,実習前後の主効果(F(1,52) = 4.80, p<.05),下位尺度の主効果が有意になったが(F(3,156) = 14.67, p<.01),交互作用は有意にならなかった。よって,下位尺度に関わらず,実習前後でコミュニケーション・スキルが有意に向上したことを示す。
 下位尺度別に,実習後の評定値から実習前の評定値の差(以下,実習による変化とする)を算出したところ,コミュニケーション・スキルのうち,関係力がそれ以外の力と比べて向上したことを示す。これは,実習へ行くことで,自分の考えや気持ちを,実習園の指導教員や園児といった多様な他者の立場を考慮しながらわかりやすく伝える等,他者との関係性を調整しようと心がけられるようになったことを意味すると考えられる。実習園では,園児にとっては先生として,指導教員や園児の保護者にとっては実習生として振る舞うことが期待されていることを理解し,その期待通りに振る舞おうとするのであろう。

ENDCOREs
 コミュニケーション・スキルに関する汎用型尺度(藤本・大坊,2007)の下位尺度別の評定値について,実習前後2(実習前,実習後)×下位尺度6(自己統制,表現力,解読力,自己主張,他者授業,関係調整)の2要因分散分析を行った。その結果,実習前後の主効果(F(1,52) = 12.29, p<.01),下位尺度の主効果が有意になったが(F(5,260) = 25.61, p<.01),交互作用は有意にならなかった。よって,下位尺度に関わらず,実習前後でコミュニケーション・スキルが有意に向上したことを示す。
 下位尺度別の実習による変化について見てみると,特に自己統制や自己主張で変化が大きく,続いて解読力や他者受容の変化が大きい。これは,実習において実習生としてあるべき態度や行動といった期待に応えることができたこと(自己統制),観察記録を取りながら,客観的な事実とそれに基づく主観的な考えを論じることができたこと(自己主張)によると考えられる。また,子どもと接しながら子どもの気持ちや考えを読み取る(解読力)やそれを共感的に理解し尊重することの大切さを,身を以て学べたことによると考えられる。

保育者適性尺度
 保育者適性(藤村,2010)の下位尺度別の評定値について,実習前後2(実習前,実習後)×下位尺度7の2要因分散分析を行った。その結果,実習前後の主効果と下位尺度の主効果が有意になったが(F(1,52) = 5.95, p<.05; F(6,312) = 19.95, p<.01),交互作用は有意にならなかった。よって実習前後で,下位尺度に関わらず,保育者適性は向上したことを示す。
 下位尺度別の実習による変化を見てみると,愛他性,行動力,養育性で変化が大きいことがわかる。実習を経験することで,保育者として子どもの立場に立って子どものためになるよう積極的に取り組もうとする特性を感じるようになるためと考えられる。

保育者効力感尺度
 保育者効力感尺度(三木・桜井,1998)の評定値について,実習前後2(実習前,実習後)×各項目15の2要因分散分析を行った。その結果交互作用が有意になったので(F(14,728) = 2.02, p<.05),下位検定を行ったところ,項目6・8・14で単純主効果が有意になり,項目6と項目14で実習前よりも実習後の方が有意に高く,項目8では逆に実習前よりも実習後の方が有意に低くなった。実習によって,子どもの発達や行動に対する理解が深まるにつれ,子どもへ適切な支援を行うことができると考えるようになると同時に,実際の保育者として担任の役割や責任の大きさを実感することで「うまくやっていけるだろうか」と不安感が増すためであると考えられる。

 以上まとめると,保育者に限定しない尺度では,実習前後で評定値が向上したものが多く,実習によって自己評価が高くなることが示された。それに対して,保育者の資質や能力,自信といった,保育者としての自己評価では,実習前よりも実習後で評定値が高くなったものと,逆に実習前よりも実習後で評定値が低くなったものが見られ,実習によって必ずしも自己評価が一律に高くなるわけではないことが示された。

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