発表

1A-052

事象の非合理性が大人のマインドリーディングに与える影響

[責任発表者] 佐藤 賢輔:1
1:共愛学園前橋国際大学

目 的
 マインドリーディングでは,自己が知りうる現実に関する情報が,子どもだけでなく大人においても,その情報を持ち得ない他者の心的状態の推測を歪めてしまうことがある。このような自己中心的な推論バイアスを生起させる要因の1つとして,あと知恵バイアスの影響が指摘されている(Birch and Bloom, 2003)。あと知恵バイアスは,出来事の結果を知った後では,知る前と比較して,自己や他者が結果を事前に予見できた可能性を過大評価してしまう傾向のことで,推論において現在の自己の知識を完全には無視できないという点で,マインドリーディングにおけるバイアスと生起メカニズムを共有していると考えられる。
 佐藤ら(佐藤・実藤, 2013; 佐藤, 2013)は,大人におけるあと知恵バイアスが,結果に強い驚きが伴う場合に緩和されたり,消えたりするという知見(Hoch & Loewenstein, 1989)に注目し,強い驚きを喚起する非合理的な因果関係を含む事象の挿入が,幼児における誤信念課題のパフォーマンスに与える影響を調べた。結果,非合理的事象を含む誤信念課題の正答率は標準的な課題より高く,大人のあと知恵バイアスと同様,幼児のマインドリーディングにおいても強い驚きが推論のバイアスを緩和することが示された。
 本研究では,これまで未検討であった「事象の非合理性が大人のマインドリーディングにおいてもバイアス生起を抑制する」という仮説を検証するため,大学生を対象とした質問紙実験を実施した。

方 法
 大学生82名(男性32名,平均20.5歳)が質問紙実験に参加した。質問紙では,Maehara & Saito(2011)を参考に作成したイラストと文章からなるストーリーを用いたマインドリーディング課題1題を課した。イラストは部屋を表しており,4つの入れ物(左から紙袋,道具箱,リュック,おもちゃ箱)が配置されていた。
 ストーリーはイラストと文章を組み合わせたコマ4つからなり,1コマ目で男の子がラジコンを道具箱にしまい立ち去った。2コマ目では,女の子が部屋に来てラジコンを別の場所に移動させた。3コマ目で,男の子が部屋に戻って来て道具箱を探し,ラジコンがないことを知った。4コマ目で,参加者に,男の子が次に探す入れ物はどれかについて,合計が100%になるように残り3つの箱を探索する確率をそれぞれ見積もらせた。探索確率の見積もりをさせた後,参加者には,確率を推論する際にどのような文脈手がかりを用いたかも尋ねた。
 実験は授業時間を利用して一斉に実施され,2コマ目の女の子の行動のみが異なる3種類がランダムに配布された。2コマ目の女の子の行動は,(1)男の子にいたずらしようと思い紙袋に移動させた(合理的移動条件),(2)道具箱に戻したラジコンが紙袋にワープした(非合理的移動条件),(3)別の入れ物には移さず部屋の外へ持ち去る(不在条件)のいずれかであった。探索確率の合計が100%でない回答者を除外した結果,分析対象となった参加者は合理的移動条件27名,非合理的移動条件28名,不在条件25名の計80名であった。

結 果
 各条件におけるそれぞれの入れ物の探索確率の見積もりの平均値をTable 1に示した。条件による探索確率の差を調べるため,紙袋の探索確率の見積もりを従属変数とした分散分析を実施した。結果,条件の有意な主効果が認められた(F(2,77) = 3.21, p < .05)。多重比較の結果,合理的移動条件における探索確率が他の2条件よりも有意に高いことが示された(ps < .05)。紙袋にラジコンがあると知っている合理的移動条件と非合理的移動条件の参加者のうち,合理的移動条件の参加者のみにおいて,紙袋が探される確率が高く見積もられるという自己中心的な推論のバイアスの生起を確認できたことから,非合理的事象の挿入がマインドリーディングにおける自己中心的バイアスの生起を抑制するという仮説が支持された。
確率推論をする際に利用した文脈手がかりの数,種類には条件差は認められなかった。このことから,非合理的事象に対する驚きは,推論における無意識的なアンカリングに作用する可能性が示唆された。

考 察
結果から,非合理的な因果関係を含む事象の挿入が,後知恵バイアスと同様に,大人のマインドリーディングのバイアスも抑制することが示された。これは,マインドリーディングにおいても,後知恵バイアス課題と同様に,因果的に説明できない驚きがメタ認知的手がかりとして機能し,他者による結果の予見性を過剰評価する傾向が弱められた結果(Hoch & Loewenstein, 1989)であると考えられ,後知恵バイアスがマインドリーディングにおけるバイアス生起の一因であるとの仮説を支持するものである。また,非合理的事象の挿入は幼児の誤信念課題の正答率を向上させるという知見(佐藤, 2013)から,幼児の自己中心的なマインドリーディングのエラーは,大人のマインドリーディングにおけるバイアスと,部分的に共通の生起メカニズムを持つことが示唆された。

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