発表

1A-051

飼い主が“あざむき”だと感じたイヌとネコの行動—ネコババするネコ・演技するイヌ—

[責任発表者] 仁平 義明:1
1:星槎大学

目 的
 動物の“あざむき”行動について、Whiten & Byrne (1988) は、霊長類のあざむきを5つの機能のクラスに分類,さらにそれらを下位の13の方法のクラスに分類した。
 本調査では、飼い主に対するイヌとネコのあざむき行動がどのようなかたちで存在するか、さらに種(イヌ,ネコ)による“あざむき”戦術の違いを明らかにしようとした。
方 法
 著者の2010、2011、2012年度の「比較心理学」を受講している大学生計120人に,伴侶動物のあざむき行動について詳細に記述するように依頼した.講義では,(1)Whiten & Byrne(1988)「霊長類の戦術的欺きに見られる注意の操作」について解説し,(2)平田聡(2006)「嘘とだましの進化—霊長類の嘘・だまし」(箱田、仁平編『嘘とだましの心理学』有斐閣)の内容と平田から提供を受けた映像を紹介した後,「自分が直接に見たり、自分の家族や友人などから聞いたりしたことがあるペットの“あざむき”行動だと考えられるものの例があれば、状況や具体的行動をできるだけ詳しく記述する」よう求めた. 
結 果
 結果の分析は,このうち(1)イヌあるいはネコの,(2)伝聞ではない自分が直接に経験した,(3)飼い主がまぎれのない“あざむき”行動だと感じたものに限定した.一人で複数のケースを報告しているものも含め,最終的な分析対象は,イヌ37ケース,ネコ25ケース,合計62ケースになった.
 “あざむき”行動は,Whiten & Byrne (1988)の13のカテゴリーにそって分類されたが,それらでカヴァーできないものには,新たに付加的なカテゴリーを設けた(表1参照).
【例】(記述を要約)
〇イヌ:「ふだん庭で飼っていて,たまにしか家の中に入れない犬.数日かまわない日が続いていたら,足を引きずっていた.家族で心配して声をかけても足を引きずるのをやめなかった.怪我をしたかと家の中で様子を見ることにして,抱き上げて足を拭いて家に入れた.床におろした瞬間,部屋をはしゃいで走り回った.足を見ても怪我はなく,その後も足を引きずることはなかった」  
(「偽りの自己状態イメージを提示(演技・状態偽装)」)
〇イヌ:「いつも散歩のときにウンチをさせる犬.散歩の後,またお腹を痛そうにしてウンチをするような様子をしたので二度目の散歩に連れて行ったが,嘘のようなおおはしゃぎで散歩コースを歩き,ウンチをすることはなかった」         (「演技・状態偽装」)
〇ネコ:「出かけている間に猫が仏壇のお供え物を食べていた.帰ってきたとき,扉の向こうで何かが落ちるような音がしたので不思議に思い部屋に行くと,猫が仏壇の下の何かを隠すように座った.猫の後ろには鈴が落ちていたので,さっきの音は鈴が仏壇から落ちた音だとわかった」              (「隠蔽—視界から隠す」)
〇ネコ:「テーブルにある食べ物を盗るために手をテーブルに伸ばす.母がテーブルの方に目を向けると手をひっこめ何もなかったように座り母の方を見る.また・・・」    (「隠蔽—注意の抑制」)
イヌとネコのあざむき行動の差 イヌとネコには,他の第三者個体を介在させた「社会的道具を用いた標的個体の操作」や「標的個体の注意を身代わりの方へそらす」などの,いわば高等戦術は出現しなかった(表1).また,イヌとネコには,あざむき行動のカテゴリー分布に有意な違いがみられた(Fisherの正確確率検
定, p <0.001).
ネコの優位なあざむき行動は「隠蔽」(48%)で,そのうち最も典型的なのが「注意の抑制(対象を見ない)」(36.0%)だった.イヌの優位なあざむき行動は「はぐらかし(注意の誘導)」(48.6%)「イメージをつくる」こと(40.5%)で,そのうち最も典型的なのが「偽りの状態イメージ提示(演技・状態偽装)」(37.8%)だった.
考 察
ネコは隠蔽・イヌは演技 ネコのあざむき行動では「隠蔽」が目立つ戦術であった.“ネコババ” (糞の隠蔽)という表現が存在するのも頷ける.イヌでは,望む行動の実現のために「演技・偽装」することが,最も基本的な方法だった.
あざむき行動の違いは,「ネコババするネコ・演技するイヌ」と特徴づけることができるだろう.
あざむき標的のちがい Whitenらによる“あざむき”のカテゴリーは,基本的に,標的となる個体が同種の「競争者」の場合のものである.イヌやネコで標的となる飼い主は,伴侶動物が目標を達成するための「協力者」だったり,直接に報酬や罰を与える「強化者」だったりする.Whitenらと今回の結果のちがいは,種によるちがいだけでなく,標的個体の役割のちがいについても考慮する必要がある.

【注】本報告は79回大会で発表予定だったが、前任白鴎大学の実験室が関東豪雨による床上1.2mの浸水被害のため取り消し、本大会で発表するもの.

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