発表

1A-049

先天盲の触覚による材質の知覚・記憶・識別

[責任発表者] 望月 登志子:1
[連名発表者] 鳥居 修晃:2
1:日本女子大学, 2:東京大学

目 的
 材料の質感研究では,視覚健常者による触感の構成要素が長年にわたり検討されてきた(Hollins et al., 1993, 2000; Klatzky et al.,1989; Yoshida, 1968).しかし最近,触覚による質感の精度に注目し,保有視覚を踏まえてそれを吟味する試みもある(望月・鳥居;2014, 2015, 2016).
 今回は,熟達した触覚による触感の精度と特性を,材質感の評価,短期記憶,材料の識別という3水準の課題を通じて吟味した.
実験参加者
・実験協力者:先天盲10名(平均年齢:52.7歳.眼疾患:先天性白内障,緑内障,視神経萎縮,網膜色素変性症など.保有視覚:光覚またはゼロ.教育歴:16.7年.小学校から盲学校で点字教育を受けた.職歴:盲学校の教諭として点字および教科・鍼灸の指導,点訳者・点字校正者として20~30年勤務. 視覚健常者7名(平均年齢:48.9歳).視力0.8~1.0.,教育歴:平均17.1年.職歴:大学の事務職員として20年以上勤務中.両群の年齢・教育歴に有意差はない.
実験1:質感の感性評価
・材料:円形または正方形に切りぬいた材料9種:コルク,皮革,木板,紙,ガラス,アルミ,鏡,プラスティック,布地(wool).直径・1辺:9~10cm,厚さ2mm程度.9種のうち1種を中央に添付した台紙をランダム順に提示した.
・走査の方法:材料上面の探索走査の方法と時間に制限は加えなかった.全員がeye maskを装用した.
・質感の評価:材料の上面を触りながら,6対の形容詞(硬い−軟らかい,温かい−冷たい,ツルツル−ザラザラ,重量感あり−軽やか,密度が高い−粗い,弾力あり−弾力なし)に対して-5~5の段階評価を行う(実験者が形容詞対を読み上げ,実験参加者は評価段階の数字を答える).
・結果:クラスター分析により,両群共に9種の材料は生物系(植物・動物)と非生物系(金属・合成材料)の2群に分類された(Fig.1-1,1-2).先天盲では木板が非生物系に含まれているが,最終段階での帰属であることから,材料の感覚要素的な質感評価に関しては両群に差異は認められない. 
 主成分分析により,質感評価は第1成分:表面の接触から受ける感覚(温度・弾力性,硬度・密度・滑度)と,第2成分:深部感覚(重量)で構成されていることが示された.
実験2:質感の短期記憶
・素材と課題: 学習phaseでは8素材が1つずつ提示され,その表面を5秒間閉眼で走査する.5分間の遅延時間後に行われる再認phaseでは新たに8素材を加えた16種がランダム順に提示される.学習phaseで触った旧素材には「あった」,新たな素材には「なかった」と答える.素材は木板,布,金属,皮革,紙,合成樹脂のいずれかに属するものである.
・結果: 再認の結果を信号検出理論に基づいて比較すると,false alarm率に差はなかったが,hit 率 (F(1,15)=11.76, p<.004)とd’( F(1,15)=9.93, p<.007)において,先天盲群の方が晴眼者群よりも高い再認精度を示した(Fig.2).
実験3:質感による材料の識別
・素材と課題: 実験1で用いた材料9種に対し,上面の感触要素を統括して,各材料を識別・呼称する.
・結果: 先天盲の識別正答率は約70%に達したが,晴眼者では約47%に留まった(Fig.3).触覚による要素的な質感の属性群を総括し,どれを一つの材料名で集約的に表現する本課題においても,先天盲群の方が有意に高い精度を示した(F(1,15=4.72,p<.05)).
要約・考察
 触覚を使用した専門職に長年携わっている先天盲の協力を得て,熟達した触覚による質感の特性を吟味した.材料の上面に触れながら即時応答的に下す要素的な質感評価では先天盲と晴眼者に精度の差はみられない.しかし,統括された質感要素の短期記憶に基づいて材料を判別する第2段階,統括された質感を材料の構造特性として捉え,名称を付与する第3段階では先天盲の熟達した触覚が優位性を示した.この差異は,質感処理の階層性を示唆するものと言える.
引用文献(一部)
望月・鳥居(2014) 日心第78回大会発表論文集,p.594.
望月・鳥居(2015) 日心第79回大会発表論文集,p.564. 
Mochizuki,T.&Torii,S.(2016) Proceedings of ICP, PS27A- 05-237.

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