発表

1A-047

蛇の回転バリエーション・双方向回転錯視の成立要因に関する研究(2)

[責任発表者] 富田 新:1
1:いわき明星大学

【問題】 富田ら(2012)は、北岡ら(2003)の“蛇の回転”錯視の円環状に配置された“青”または“黄色”の要素に、継時的な彩度変化を加え、時計回り・反時計回りの双方向に回転印象が生じる“双方向回転”錯視を考案した。“双方向回転”錯視は動画であり、静止画像による北岡ら(2003)の“蛇の回転”錯視とは基本的に異なるものであると考えられるが、回転(運動)印象が生ずるメカニズムは一部共通である可能性もある。富田(2015)は、(1)“双方向回転”錯視の刺激要素から“黒”と“黄色”(または“青”)を削除したとき、回転印象がどのように変化するか、また、(2)(1)の刺激に“黒”を加えたとき回転印象がどのように変化するか、を調べた。その結果、(a)“青”単独または“黄色”単独の彩度変化によって放射的運動印象は生ずるが回転印象はほとんど生じないこと、(b)(1)の単色の彩度変化刺激に“黒”の要素を付加することで回転印象が明確に生ずるようになること、を見出した。このとき“青”の彩度変化に“黒”を加えた時の方が、“黄色”の彩度変化に“黒”を加えた時に比べて回転印象は強かった。北岡ら(2003)の静止画による“蛇の回転”錯視の構成要素は“黒”、“青”、“白”、“黄色”(もしくは、“黒”、“濃灰”、“白”、“薄灰”)の4要素から成っている。これに対して、“双方向回転”錯視は“白”(背景色)、“青”(または“黄色”)、“黒”の3要素によって回転印象が生じている。また、“双方回転”錯視は、彩度変化する“青”(または“黄色”)の要素に、“黒”の要素を隣接させ付加したときに明瞭に知覚されるようになる。これらのことから、“双方向回転”錯視の成立要件として、彩度変化する“青”(または“黄色”)と、それに隣接する“黒”の存在が重要な鍵となっていることが示唆される。 
【目的】“双方向回転”錯視の“黒”の要素の役割について調べることを目的とした。“黒”の要素の幅(面積)を操作して“黒”の幅が薄くなる時(面積が縮小する時)と、逆に厚くなる時(面積が拡大する時)で、回転印象がどのように変化するかを調べた。このとき、彩度変化する色としては“青”のみを用い“黄色”は用いなかった。
【方法】刺激:錯視の作成手順に従い、何パターンかの“双方向回転”錯視刺激を作成した。まず、構成要素である“青”の彩度を、Adobe Illustrator及びAdobe Photoshopで100→90→80→…→20→10→0→10→20→…と系統的に変化させ、1画像当たりの呈示時間を0.1Sとして、GIFアニメーションに合成した。このとき、“青”に隣接する“黒”の幅を操作して、“黒”がない刺激(“青”のみ:刺激1)と、“黒”の幅が順に広くなっていく4つの刺激(“青”と“黒”:“黒”の幅がそれぞれ0.2、0.5、6、10の順に広くなる:以下刺激2、刺激3、刺激4、刺激5と表記)を用意した。数値は“黒”の幅(面積)の違いを示すために便宜的に用いられており、“黒”の幅(面積)そのものを示す数値ではないが、数値が大きくなるほど“黒”の幅は広くなる。評定:5つの刺激を見た時の“回転印象”を“はっきり見える”(4)~“全く見えない”(1)の4件法で評定させた。参加者:いわき明星大学生14名。手続き:参加者は、ノートパソコンに表示された刺激を見ながら、その運動印象を質問紙に回答した。刺激呈示は、“黒”の横幅が小さいものから徐々に大きいものになってゆく「上昇系列」のパターンと、“黒”の横幅が大きいものから徐々に小さくなってゆく「下降系列」のパターンの2種類用意し、参加者間でカウンターバランスさせた。観察距離については厳密な統制は行わなかった。各刺激呈示に先立ち、画面中央に注視点を提示した。装置:東芝dynabook,T451/57DW。
【結果】刺激1~刺激5の回転印象に差が見られるかどうかを検証した。1要因5水準の分散分析を行ったところ、刺激の種類の主効果が有意であった(F(4,52)=5.393, p=.001, ηP2=.293)。多重比較(Bonferroni検定)を行ったところ、刺激1(“青”のみ)と刺激3(“青”と“黒0.5”)の回転印象の平均値の間に有意差が見られたが(p<.05)、それら以外の刺激の組み合わせについては有意差は見られなかった。
【考察】各刺激の回転印象の平均値を比較した結果、“青のみ”の刺激1と“青”と“黒0.5”の刺激3の間にのみ有意差が見られた(評定平均値はそれぞれ1.8571と3.9286)。刺激1と他の刺激(刺激2~刺激5)の間でも、評定平均値の差は比較的大きかったため(刺激2、刺激4、刺激5の平均値は、3.3571、3.6429、3.2143)、多重比較で有意差は得られなかったものの、今後参加者数を増やすなどすれば、刺激1と他の刺激間でも有意差が生ずる可能性はあるものと思われる。また、実験結果からは、“黒”の要素の面積が増すと、全体的な回転印象が低下する傾向が確認された。これは、“黒”の要素の面積が増すことにより、“黒”の要素が固定された印象が強くなり、全体的回転印象が低下するため、と思われる。
本実験の結果から、回転印象の成立には“黒”の要素が必要であるものの、その幅(面積)はごくわずかでもよいことが分かった。“黒”の要素が、“青”の彩度変化に伴って生じる運動印象の起点(境界:エッジ)として作用しているのではないかと推察される。“双方向回転”錯視では、“黒”の要素の隣にある“青”の要素の彩度変化に伴い、“青”が濃くなる時には“黒”の要素から“青”の要素が出現してくるような印象が、また、“青”が薄くなる時には“黒”の要素に“青”が隠れていくような印象が局所的に生じる。それが円環状に繋がることで、双方向の回転印象が生じていると思われる。
しかし、刺激1において、背景の“白”と彩度0の“青”の間に彩度(もしくは明度)の境界(エッジ)が存在するにも関わらず(彩度0の“青”は背景色の“白”よりも濃く、コントラストは低いが、“青”と背景の“白”の間には境界(エッジ)が明確に存在する)、回転印象はほとんど知覚されない。この事実は、回転印象の成立において、“黒”の要素の境界(エッジ)が特異的な役割を果たしていることを示唆する。
【謝辞】本研究はいわき明星大学・人文学部・心理学科・平成28年度卒業生・高藤佑樹君の卒業研究として行われた。また、“双方向回転”錯視の作成にあたっては、立命館大学・北岡明佳教授の“蛇の回転”錯視の要素の一部を使わせていただいた。また、今回の一連の刺激の作成においては、いわき明星大学・高島翠准教授の協力を得た。ここに記し、深く感謝の意を表します。
(とみだ あらた)

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