発表

1A-046

REM睡眠中の嗅覚刺激呈示が夢と生理活動に及ぼす効果— においの好悪特性に着目した検討 —

[責任発表者] 岡部 聡美:1
[連名発表者] 福田 一彦:2, [連名発表者] 望月 寛子:3, [連名発表者] 山田 一夫:4
1:広島大学, 2:江戸川大学, 3:農研機構, 4:筑波大学

目 的
研究史 Schredlら (2009) は快刺激として一般にバラの香りとされるフェニルエチルアルコール (以下PEA),不快刺激として腐卵臭とされるH2SをREM睡眠中に呈示し,夢の情動性が嗅覚刺激の快不快に伴って変化することを示した。しかし,同一の刺激を用いた研究 (Schredl et al., 2014) では,情動性への効果は認められなかった。
目的 嗅知覚は経験依存性であり,個人差が大きいことが知られている (Wilson & Stevenson, 2006)。Schredlら (2009; 2014) の先行研究で用いられた刺激は,好悪特性について考慮されておらず,その結果も一致しないため,好悪特性に着目した再検討の必要があると考えらえる。
夢の評価 竹内ら (1996) による夢特性評定尺度 (DPS) は,夢を定量的に主観評価することを目的として作成され,その評定値は生理指標と対応することも明らかになっている。そこで本研究ではSchredlら (2009; 2014) の用いた指標に加え,DPSと生理指標を用いて夢への効果を検討した。
方 法
刺激 実験刺激をPEA,統制刺激を蒸留水とした。刺激は制作した装置によってバブリングし揮発させ呈示した。においを呈示する実験条件をOdor条件,においなしで空気のみを呈示する統制条件をAir条件とした。両条件はカウンターバランスをとり,各参加者につき1晩で2回の刺激呈示を行った
参加者 健康で,PEAの好悪評定値が平均値 ± 1標準偏差を逸脱して高い,或いは低い大学生15名 (男性5名,女性10名,平均年齢19.9 ± 1.2歳) であった。群構成は,PEAのにおいを好む群 (以下,high群) 7名,PEAのにおいを嫌う群 (以下,low群) 8名であった。これらの参加者は168名の学生を対象としたPEAの好悪等を尋ねる調査によって選出された。
生理指標分析 竹内ら (1996) の方法を援用し,REM睡眠中のREMs密度,atonia指数,twitch密度,体動密度の分析を行った。本研究では1区画を2秒間とした。
手続き 参加者は就寝前と起床後に心身の状態を測る質問紙 (GVA: Monk, 1988等) に回答した。睡眠中,実験者が脳波,筋電位,眼球運動を観察した。Schredlら (2009; 2014) の方法に則り,第2・第3睡眠周期のREM期開始10分後に刺激を10秒間呈示し,呈示終了1分後に夢内容を口頭で報告させ,その後夢の情動性を評価する項目と,DPS (竹内ら, 1996) に回答させた。また,実験終了後に,実験条件等を伏せた状態で2名の評価者による夢の評価を行った。評価には,先行研究で用いられた項目とDPS (竹内ら, 1996) を用いた。
結 果
条件間 (Odor, Air) と群区分の2要因分散分析の結果,夢の情動性を表すDPSのEvaluation因子 (得点が低いほど負の情動性が高い) に交互作用が認められた(F(1)=4.67, p<.05)。単純主効果検定の結果,high群における条件間に有意な差が認められ(F(1,11) =4.94, p<.05),high群において,PEA呈示によって夢の情動性が負方向へと変化した (図)。
生理指標に関して,high群の参加者毎にz得点を算出し,刺激の呈示前 (2分間),呈示中,呈示後それぞれにおける条件間 (Odor条件,Air条件) の比較を対応のあるt検定によって行った。その結果,呈示後のatonia指数について,Air条件よりもOdor条件で,PEA呈示後の筋緊張の低下の持続割合が高い傾向が認められた (t(5)=2.07, p<.10)。
考 察
本研究では,におい呈示はhigh群の夢にのみ影響を及ぼした。においの好みと親近性は強く相関し (Engen & Ross, 1973),接触回数が多いほどにおいが好きになるとされる。また、においは繰返しの接触によって,末梢の受容体である嗅上皮において感受性が強まる (Yee & Wysocki, 2001)。このため,PEAとの接触回数が多く,嗅上皮の感度が高かったと考えられるhigh群でのみ影響が認められたのではないか。
また,PEAの効果は,情動性を負方向に変容させた。嗅上皮は嗅球を経由して扁桃体や,眼窩前頭皮質などに投射する。またREM睡眠中には,扁桃体が活性化し,眼窩前頭皮質が不活性化する (Maquet et al., 1996) ことから,REM睡眠中に呈示されたPEAの情報は負の情動性と関連する (Morris et al., 1996) 扁桃体に伝わり負の情動を喚起したが,においの快不快等の認知を行う眼窩前頭皮質 (Rolls et al., 2003) には伝わらず,好きかどうかの判断がなされなかったため,結果として負の情動性がもたらされたのかもしれない。
また,竹内ら (1996) は,夢の負の情動性と体動の多さの相関を示したが,本研究ではPEAが夢の情動性を負に変容したにも関わらず,筋無緊張の割合が増加し,先行研究の結果を支持しない。atonia指数及び他のREM睡眠中の生理活動と夢内容の対応性については,今後検討していく必要がある。
主 要 引 用 文 献
Schredl et al. (2009). Information processing during sleep: the effect of olfactory stimuli on dream content and dream emotions. Journal of Sleep Research, 18, 285-290.
Schredl et al. (2014). Olfactory stimulation during sleep can reactivate odor-associated images. Chemosensory Perception, 7, 140-146.

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