発表

1A-045

坐禅時における数息の有無について 呼気ガス分析による予備的研究

[責任発表者] 田中 仁秀:1
1:曹洞宗総合研究センター

目 的
 坐禅を行じる際に肝要とされていることがある。それは,調身・調息・調心である。身体を調え,次いで呼吸を調えることによって,最終的にこころが調っていく。つまり,身体とこころは一体として繋がっており,呼吸はその媒介として橋渡し役ともいうべき働きをもつとされているのである。
 また,仏教では呼吸を調える一方略として数息観が説かれている。数息観とは,呼吸に注意を集中し,息の出入をこころの中で数えて,身心の調和を目指すもので,古くは『雑阿含経』第二十九,天台智顗(538-597)が坐禅の作法と用心について説いた『天台小止観』,また曹洞宗では両祖の一人である瑩山紹瑾(1264-1325)が記した『坐禅用心記』に坐禅の工夫の一つとして説かれている。
 本研究では, 数息観の有効性を検討するにあたり,古来より,数息観が坐禅時に実行されていたことを考慮し, 坐禅時における数息の有無によって,呼吸活動にどのような差異があるのか,曹洞宗の僧侶を対象に呼気ガス分析を用いて検討する。
方 法
実験参加者
 修行経験がある曹洞宗僧侶4名(A:男性28歳,B:男性30歳,C:男性27歳,D:男性28歳)。平均年齢28.3±1.3歳。
 実験室内の平均気温は21.8±3.9℃,平均湿度52.5±5.3%,平均気圧762.0±2.4mmHgであった。
記録と装置
 呼吸活動の測定は,ミナト医科学株式会社製AE-300S。測定の記録及び解析は,分析器に連動したDell Latitude AEC-3000を用いた。呼吸活動の分析は,分時換気量(VE),一回換気量(TVE),呼吸数(RR),酸素消費量(VO2),二酸化炭素産出量(VCO2),吸気時間(Ti),呼気時間(Te),呼吸時間(Ttot)を指標として測定した。
手続き
 実験室に入室後,実験に関する説明を行い,実験参加同意書に署名を得た上で,参加者の年齢・身長・体重・健康状態に関する質問用紙に回答を求めた。その後,袈裟に着替えてもらい,室内に敷いた茣蓙上の坐蒲に壁側を向いて坐るように指示した。着坐後,実験参加者に対し,トランデューサー付きの呼吸マスクを装着した。次いで,数息観の説明を行い,1~10までの数をひたすらこころの中で繰り返すように指示した。数え方は,「吐き始める時から数え始めて,吸い終わるまでを1として数える」ように指示した。測定は,「坐禅」を15分,休憩を10分はさみ,「坐禅+数息観」を15分測定した。また,カウンターバランスをとるために,2条件の順序を実験参加者によって入れ替えた。
結 果
 実験参加者ごとの各呼吸指標の平均と標準偏差をTable1に示した。
実験参加者ごとの各呼吸指標における条件間の差異を検討するためt検定を行った。
参加者A 「坐禅」と比較し,「坐禅+数息観」では一回換気量,吸気時間,呼気時間,呼吸時間に1%水準で有意な増加,分時換気量,呼吸数に1%水準で有意な減少が認められた。
参加者B 「坐禅」と比較し,「坐禅+数息観」では一回換気量,吸気時間,呼気時間,呼吸時間に1%水準で有意な増加,呼吸数に1%水準で有意な減少が認められた。
参加者C 「坐禅」と比較し,「坐禅+数息観」では一回換気量に5%水準,呼気時間,呼吸時間に1%水準で有意な増加,分時換気量に5%水準,呼吸数に1%水準で有意な減少が認められた。
参加者D 「坐禅」と比較し,「坐禅+数息観」では一回換気量,吸気時間,呼気時間,呼吸時間に1%水準で有意な増加,分時換気量,呼吸数に1%水準で有意な減少が認められた。
考 察
本研究の結果,「坐禅」と比較し,「坐禅+数息観」では,全実験参加者において,酸素消費量,二酸化炭素産出量に有意差は認められなかったが,4名中3名(A,C,D)に分時換気量,呼吸数に有意な減少,一回換気量に有意な増加が認められた。また,全実験参加者において,呼気時間,呼吸時間の延長,4名中3名(A,B,D)に吸気時間の延長が認められた。分時換気量は,ストレスに関連した指標とされ(梅沢,2006),ストレスが低減すると分時換気量は減少する。したがって,「坐禅+数息観」は,ゆったりとした呼吸,効率の良いガス交換が行われ,ストレスが低減した状態であることが示唆される。
引用文献
梅沢章男(2006).ストレスと呼吸 有田秀穂(編)呼吸の事典 朝倉書店,395-406.

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