発表

1A-043

隠匿情報検査における瞳孔径変化の識別性

[責任発表者] 小川 時洋:1
1:科学警察研究所

目 的
 現在,我が国の警察で検査対象者の事件に関する記憶の有無を調べることを目的として実施されているポリグラフ検査では,隠匿情報検

査(CIT)と呼ばれるパラダイムを用いている。CITでは,事件事実と一致する内容を示す関連項目と,それと類似するが事件事実とは一致

しない複数の無関連項目を組み合わせた多項目形式の質問を用意する。各質問項目を一通り提示することをもって1セットとして複数セッ

トを繰り返し,同時にその間の検査対象者の生理活動を計測する。指標としては,皮膚伝導度(SC),呼吸運動,心拍数(HR),規準化脈波容

積(NPV)が測定されている。一般的に,検査対象者が質問されている事件事実の記憶を持つ場合,関連項目提示時に非関連項目提示時より

も大きな皮膚電気活動,浅くてゆっくりとした呼吸運動,低い値の心拍数と規準化脈波容積が見られる。
CIT研究のトピックスの一つは,新たな指標の探求・開発である。各生理指標の応答性には個人差があるため,生理活動をより多面的に測

定することで,特定の項目に対する弁別的応答を捉える可能性が増すことが期待できる。Ogawa et al. (2016)は,心拍数などと同じく自

律神経系の支配を受ける瞳孔径の有効性を検討するため,模擬窃盗課題を用いた実験を行った。その結果,記憶あり条件では,関連項目提

示時の瞳孔径は,非関連項目提示時よりも大きかった。本研究では,Ogawa et al.(2016)の実験で瞳孔径と共に測定した他の自律系指標に

ついても分析を行い,瞳孔径を含めた各指標の記憶あり・なしの識別性を報告する。

方 法
 参加者 成人21名(うち男性10名,平均年齢32.4±4.4歳)が実験に参加した。
質問刺激 アクセサリーと金額をそれぞれ5種類用いた。この他に,各セットの最初に提示される緩衝項目を,アクセサリー・金額ともに2

種類用意した。
装置 瞳孔径は,非接触型眼球運動測定装置(EMR-AT VOXER, nac)を用いて利き目から非接触で計測した。SC,呼吸運動,HR,NPVの測定

には,デジタルポリグラフ装置(PTH-347Mk3, TEAC)を用いた。
手続き 実験は,参加者ごとに個別に実施した。参加者は,模擬窃盗課題として実験室内に設置された引き出しからアクセサリーもしくは

玩具紙幣が封入された封筒を一つ窃取した後にCITを受けた。質問には,アクセサリーもしくは金額を尋ねる2種類があり,どちらか一方の

質問は記憶あり条件,もう一方は記憶なし条件となった。各質問は緩衝項目を含めて各6項目で構成され,項目の提示順序を変えながら,

各5セット実施した。項目は,PCを用いて画像および音声刺激として25s間隔で一つずつ提示した。参加者は,全ての質問に“いいえ”と口

頭で返答した。
分析 瞳孔径は,専用のソフトウェア(情感計測システム,夏目綜合研究所)を用いて瞬目等の影響を除去したあと,各刺激提示後15s間

を3sごとの5区間に分け,刺激提示前2s間との差分を求めた。SCは,刺激提示後5以内に生じた変化の最大値をSCRとして計測した。呼吸運

動(胸部),HR,NPVは,刺激提示前2sから提示後20sまでを分析対象とした。SCRは質問内で,それ以外のデータは各セット内で標準化した

後,関連項目・非関連項目別に平均を求めた。

結 果
 計測上の問題から9名の瞳孔径データを分析から除外した。瞳孔径ついて,記憶×項目×区間の3要因の分散分析(全て個人内を行った結

果,記憶と項目の交互作用が有意であり(p = .037),記憶あり条件では,関連項目提示時に瞳孔径がより大きくなった。記憶あり条件にお

ける項目間の差異の効果量は,0.82から1.25の範囲であった。
 記憶あり・なしの識別性を評価するため,ROC曲線下面積(AUC)を求めた。瞳孔径は記憶×項目×区間の交互作用が有意ではなかったため

,関連・非関連項目の15s間の平均値を求め,さらに項目間の差分値を算出した。その他の指標については先行研究を参考に,呼吸運動お

よびNPVは刺激提示後5~10s間,HRは刺激提示後5~15s間のデータを用いて,関連・非関連項目の差分値を用いた。SCRの分析では,関連項

目の値を用いた。瞳孔径のAUC(および95%信頼区間)は.792 (.613 - .970),SCRは.819 (.687 -.950),呼吸運動は.778 (.635 - .920),HR

は.748 (.589 - .906),NPVが.728(.567 - .888)であった。

考 察
先行研究と同様,CITの指標としての瞳孔径変化の利用可能性が示唆された。記憶あり条件では,関連項目提示時に非関連項目よりも瞳孔

径が大きくなった。また,瞳孔径における項目間の差異は少なくとも十数秒程度は持続して見られることが,記憶あり条件における効果量

から示唆された。但し,サンプル数の少なさから瞳孔径の時間変化と識別性の関係については今後さらに詳細な検討が必要である。また

ROC曲線下面積の分析結果からは,瞳孔径変化が従来実務で用いられてきている他の指標と比べても遜色ない識別性を持つことが示唆され

た。
一方,課題としては計測の安定性が上げられる。本研究では,約40%の実験参加者が計測上の問題から除外された。本研究では,据置型の

装置を用いて瞳孔径を計測したが,計測の安定性という面からは,ゴーグルタイプの計測装置を用いる方が良いかもしれない。

(本研究は,科学研究費助成事業(基盤(C)26330182)による助成を受けた)

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