発表

1A-041

取調べの発問方法に対する国民の評価 被疑者の知的障害の有無との関連

[責任発表者] 和智 妙子:1
1:科学警察研究所

目 的
 平成28年6月に「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が公布され,平成31年6月までに,警察において裁判員裁判対象事件に係る取調べを行う際には,原則としてその全過程の録音・録画が義務づけられることになった。また,現在までに,実際の取調べ場面の録音・録画が証拠として提示され,それを裁判員が評価する事例も出てきている。平成31年までに取調べ場面の録音・録画が義務化されれば,裁判員がその取調べを評価する事例がますます増えることが予想される。
 このような状況を鑑みると,裁判員となりうる一般国民が取調べをどのように評価するかを検討する必要がある。しかし,一般国民の取調べの評価について検討した研究は日本だけではなく海外でも少ない(例えば,Blandon-Gitlin, Sperry, & Leo, 2011; 和智,2013)。これらは一般的な取調べ手法についての国民の認識を検討しているが,取調べを見たことがない一般国民にとり,取調べ官と被疑者の実際のやりとりを想像するのは難しいと思われる。特に,取調べにおける発問方法の影響について検討した研究は著者の知る限り,存在しない。
 本研究の目的は,裁判員となりうる一般国民を対象に発問方法の異なる取調べがどのように評価され,被告人の有罪・無罪の判断に影響を与えるかを検討することである。その際,取調べを受けた被告人が知的障害者である場合も検討した。
方 法
 参加者 オンライン調査に参加した1068名のうち,欠損値のある者及び裁判員の条件を満たさない者を除いた841名(男性416名,女性425名)。平均年齢44.96歳(SD = 13.72)。有職者528名,専業主婦(夫)162名,無職者82名であった。
 手続き・資料 平成29年3月にインターネット調査会社を通じて,オンライン調査を実施した。調査票は,架空の放火事件の取調べに関する質問と個々の取調べ手法に関する質問からなっていた。本研究では前者の質問の回答について検討した。架空の放火事件では,最初に被告人の特徴,事件概要を提示した後,会話形式の取調べ(A4約3頁)を提示した。
本研究は被告人の特徴(知的障害有・無)と取調べ方法(オープン・クローズド)の2×2の研究デザインである。被告人の特徴に関して,知的障害有群の場合は,基本的な特徴に加え「軽度な知的障害がある」という文言を加えた。「オープン質問の取調べ」の描写では,全発問の84%がオープン質問であった。「クローズド質問の取調べ」の描写では85%がクローズド質問であった。参加者には裁判員として選ばれたと仮定して回答してもらった。
結 果
 取調べ手法の評価 取調べが「適正か」「威圧的か」,被告人の自白が「自発的か」「誘導されたと思うか」「真実の自白と思うか」「信用できるか」の6項目の各回答(7段階評価)について,2(知的障害の有無)×2(取調べ)の分散分析を行った。その結果,6項目すべてにおいて取調べの主効果が有意であった,Fs (1, 837) > 6.29, ps < .013, ηps2 > .007。また,「威圧的か」「真実の自白か」「自白が信用できるか」については知的障害の主効果も有意であった,Fs (1, 837) > 5.57, ps < .019, ηps2 > .006。交互作用効果はどれも有意ではなかった,Fs (1, 837) < 3.18, ps > .075, ηps2 < .003。オープン質問の取調べ群の方が取調べを適正で、威圧的ではないとみなし、取調べの結果得られた自白が自発的で、誘導されておらず、真実の自白であり、信用できるとみなしていた。また,知的障害がある被告人群の方が取調べが威圧的であり、自白が信用できず、真実の自白ではないとみなす傾向がみられた。
取調べと「有罪」「無罪」判断 参加者が被告人を「有罪」とするかどうかの判断について,被告人の知的障害の有無と取調べ方法で分けられた4群との関連をχ二乗検定で検討した結果,統計的に有意であった,χ2 (3) = 11.33, p < .01, V = .12。被告人に知的障害がなくオープン質問の取調べのスクリプトを読んだ群は,被告人を「有罪」とみなす傾向が見られた(81.7%が有罪選択)。一方,被告人に知的障害がありクローズド質問の取調べのスクリプトを読んだ群は,被告人を「無罪」とする傾向が高かった(68.3%が有罪選択,全体では76%が有罪選択)。
次に「有罪」・「無罪」の判断を目的変数,知的障害の有無,取調べ方法,及びその交互作用,参加者の性別,年齢を説明変数としてロジスティック回帰分析(変数減少法,尤度比)を行った。その結果,知的障害の有無,取調べ方法,参加者の性別,年齢が投入されたモデルが選択され、有意であった,χ2 (4) = 29.95, p < .001。参加者の年齢,性別,被告人の知的障害の有無は「有罪」の判断に有意に関連していた,Wald’s χ2(1) = 9.71, p = .002, OR = 0.98, Wald’s χ2 (1) = 8.78, p = .003, OR = 0.61,Wald’s χ2 (1) = 7.23, p = .007, OR = 0.64。参加者が年齢が高く男性で、被告人に知的障害がある方が「無罪」を選択する傾向が高かった。
考 察
一般国民は取調べにおける発問方法の違いを識別できる可能性が示唆された。また、被告人の知的障害の有無も取調べに対する評価に影響していることが示された。一方,「有罪」の判断に関する結果からは取調べにおける発問方法の差異をたとえ認識したとしても,裁判員の属性や被告人の知的障害の有無の方がより影響することが示唆された。
謝 辞
本研究はJSPS科研費15K17317の助成を受けたものです。
引用文献
Blandon-Gitlin, I., Sperry, K., & Leo, R. A. (2011). Jurors believe interrogation tactics are not likely to elicit false confessions: Will expert witness testimony inform them otherwise? Psychology, Crime and Law, 17, 239-260.
和智妙子(2013).取調べに対する国民の意見−大学生の調査から− 犯罪学雑誌, 79, 44-54.

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