発表

1A-039

遺書の無い変死事例における自殺と関連する情報の評価──元警察官と一般人の比較──

[責任発表者] 入山 茂:1
[連名発表者] 池間 愛梨:1, [連名発表者] 桐生 正幸:1
1:東洋大学

目 的
 1998年以降に発覚した日本の犯罪死の見逃し等の事案43件のうち,当初の死因を自殺と鑑別していた事案は13件であった。日本の警察機関では実施されていないが, 欧米で開発された,故人の認知,感情や行動を再構成する手法である心理学的検死には捜査関係者に自殺に関する行動科学的な知識を提供し,故人の死亡直前の認知,感情や行動の情報をより多く収集させる機能がある(Canter, 1999)。
日本でも心理学的検死を研究することは,自殺バイアスを抑制し,犯罪死の見逃しを防止する点で有効である可能性があるが,支援対象となる日本の捜査関係者を対象とした実証研究はほとんどない。そもそも,日本の捜査関係者による故人に関する心理学的な情報,特に自殺と関連する情報の評価の特徴を把握する必要がある。
本研究では,一般人を比較対象として,捜査関係者は自殺に関する行動科学的な知識を持っていないというCanter(1999)の指摘を参考にして,帰無仮説:日本の捜査関係者と一般人の評価に違いはない,および対立仮説:日本の捜査関係者と一般人の評価に違いはある,について検討し,日本の捜査関係者による自殺と関連する情報の評価の特徴を明らかにすることを目的とした。
方 法
分析対象 2016年6月17日から20日の期間,20歳から70歳までの元警察官および会社員を対象に,本研究の18項目を含む39項目についてウェブ調査を実施した。警察活動の実務経験または会社の業務を含めた社会経験が少ないことが予想されたことから,25歳以下の回答者,加えて回答内容に不備がある,または39項目中80%以上の項目に「わからない」と回答した回答者を分析対象から除外した結果,元警察官182名,会社員182名を分析対象とした。
調査内容 「未だ遺書らしきメモが発見されていない,遺体で発見された1人の男性」と教示し,自殺と関連する18情報について,5件法(自殺ととても関連する,自殺と少し関連する,他殺と少し関連する,他殺ととても関連する,わからない)で回答を求めた。
分析方法 属性と各情報の評価をクロス集計し,χ2検定を行い,有意差がある場合は残差分析を行い,調整済み標準化残差を算出した。
結 果
 分析の結果をTable 1に示すが,Q1:職業(χ2(4, N=364)=15.92, p<.01, V=.21),Q3:創傷(χ2(4, N=364)=38.12, p<.01, V=.32),Q6:死亡場所(χ2(4, N=364)=11.89, p<.05, V=.18),Q7凶器(χ2(4, N=364)=20.57, p<.01, V=.24),Q10:パーソナリティ(χ2(4, N=364)=9.51, p<.05, V=.16),Q13財政的問題(χ2(4, N=364)=16.45, p<.01, V=.21),Q17:死に対する態度(χ2(4, N=364)=14.42, p<.01, V=.20)に有意差が認められたため,帰無仮説を棄却し,対立仮説を採択した。それ以外の情報に,統計に有意差が認められなかったため,帰無仮説を採択した。
残差分析の結果,元警察官の特徴を以下に示す。Q1:職業では,自殺ととても関連する(Z=2.67, p<.01)が有意に多く,わからない(Z= -2.63, p<.01)が有意に少なかった。Q3:創傷では,自殺ととても関連する(Z=3.11, p<.01),自殺と少し関連する(Z=4.69, p<.01)が有意に多く,他殺ととても関連する(Z= -3.37, p<.01)が有意に少なかった。Q6:死亡場所では,自殺ととても関連する(Z=2.37, p<.05)が有意に多く,わからない(Z= -2.48, p<.05)が有意に少なかった。Q7:凶器では,自殺ととても関連する(Z=2.05, p<.05),自殺と少し関連する(Z=2.20, p<.05)が有意に多く,他殺ととても関連する(Z= -4.02, p<.01)が有意に少なかった。Q10:パーソナリティでは,自殺ととても関連する(Z= -2.54, p<.05)が有意に少なかった。Q13財政的問題では,自殺ととても関連する(Z= -2.73, p<.01)が有意に少なく, 他殺と少し関連する(Z=3.37, p<.01)が有意に多かった。Q17:死に対する態度では,わからない(Z=3.23, p<.01)が有意に多かった。
考 察
 職業,創傷,死亡場所,凶器に関する情報について,元警察官は自殺と関連すると評価する傾向にあったといえる。一方,パーソナリティに関する情報について,元警察官は自殺と関連すると評価する傾向になかったといえる。また,財政的問題に関する情報について,元警察官は自殺と関連すると評価する傾向になく,むしろ他殺と関連すると評価する傾向にあったといえる。死に対する態度に関する情報について,元警察官はわからないと評価する傾向にあったといえる。しかし,創傷を除いて,前述の情報の評価の連関の強さは小程度であった。また,前述以外の情報について,元警察官と会社員の傾向に違いはなかった。(a)元警察官を対象とした点,(b)元警察官の元所属(e.g., 刑事, 公安,交通や庶務)および実務経験年数を調査できなかった点で,本研究の結果の解釈には課題もあると考える。
引用文献
Canter, D. (1999). Equivocal death. In D. Canter & L. Alison (Eds.), Profiling in policy and practice (pp. 123-156). Dartmouth: Ashgate.
※本研究は,公益財団法人日工組社会安全研究財団の2016年度若手研究助成を受けた。
(IRIYAMA Shigeru)

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