発表

1A-037

ディスレクシア児の読字過程の認知・行動特性−質問紙調査による読字障害のサブタイプと読字障害尺度の検討−

[責任発表者] 杉本 明子:1
1:明星大学

目 的
 ディスレクシアの子ども達に効果的な指導を行う為には,まず,彼らの認知特性,特に,読み書きに関連してどのような認知障害を有しているのかを的確に診断し,それに対応した指導法を考案しなければならないと考えられる。近年,欧米のディスレクシアの研究においては,読字障害に関する様々な情報処理モデルが提起され(e.g., Coltheart, Rastle, Perry, Langdon & Ziegler, 2001),読字障害のサブタイプや認知障害に関する実証的研究も多数行われてきた(e. g., Sprenger-Charolles, Siegel, Jim?nez, & Ziegler, 2011)。これに対して,日本語のディスレクシア児の先行研究は,主に,個別の事例に見られる特定の認知・行動特性を報告するケーススタディや限られた読字困難の要素に関する質問紙調査研究であり,ディスレクシアのサブタイプや認知障害に関する実証的研究や大規模研究はほとんど行われておらず,ディスレクシアの認知・行動特性を包括的に明らかにするには至っていない。
 本研究は,日本語のディスレクシア児の認知・行動特性を包括的に解明し,的確な診断法を開発するための第一歩として,日本の小学校教員に対してディスレクシア児の読字障害の多様な特性に関する質問紙調査を実施することにより,(1)ディスレクシア児は文字を読む活動においてどのような認知・行動特性を示し,それらの特性は幾つかのサブタイプとして分類できるか,(2)それらのサブタイプを診断する尺度は,読字障害を診断するための基礎的な尺度として妥当かどうかを検討することを目的とした。
方 法
参加者:日本全国の都道府県に居住している3年生以上の普通学級を担任している小学校教員200名が本調査に参加した。質問調査への回答はインターネット上で行った。参加教員が担任している学級に,ディスレクシア児がいる場合は当該ディスレクシア児のうち1人について,いない場合には担任している健常児のうち1人について,質問項目に回答するように指示した。調査の結果,ディスレクシア児が「いる」と回答した教員は67名,「いない」と回答した教員は133名であり,そのうち全質問項目に回答した教員192名(「いる」<ディスレクシア児について回答>64名/「いない」<健常児について回答>128名)を分析対象とした。参加した全教員が担当している児童の総数は5329人であり,ディスレクシア児の総数は112人であった。
質問項目:先行研究,小学校教員への聞き取り調査,予備的質問紙調査等を基に,ディスレクシア児の読字における典型的・特徴的な認知・行動特性を抽出し,読字障害尺度(40の質問項目)を作成した。回答形式は5件法(「1:全くない」~「5:いつもそうである」)であった。
分析方法:ディスレクシア児に関する調査データに対して因子分析を行い,多様な読字障害特性の背後に幾つかの因子(サブタイプ)が見られるか否かを検討した。さらに,因子分析の結果得られた読字障害特性の下位尺度において,ディスレクシア児と健常児の間に差異が認められるか否かについてt検定を用いて検討し,読字障害尺度の妥当性を検討した。
結 果
読字障害のサブタイプ:読字障害尺度40項目に対して主因子法による因子分析を行った結果,4因子構造が妥当であると考えられたため,4因子を仮定して主因子法,プロマックス回転を用いて因子分析を行った。十分な因子負荷量を示さなかった7項目(因子負荷量が.40未満)を除外し,再度,主因子法,プロマックス回転による因子分析を行った。回転前の4因子・33項目の全分散の説明率は75.26%であった。
 第1因子は,文章を読んでいる時の行の飛ばし,逐次読み,図形や複雑な漢字の認識が困難等の項目が多く含まれているため,「視覚性失読」と命名した。第2因子は,文字を読む時,視覚性・聴覚性・意味性の錯誤が複合して認められる等の項目が多く含まれているため,「深層性失読」と命名した。第3因子は,かな文字の濁音・撥音・長音・促音等の特殊音節の習得ができていないことを示す項目から構成されているため,「音韻性失読」と命名した。第4因子は,文字レベルの読みは可能だが単語レベル(熟語)の不規則な読みは困難で,綴りや音韻に関する心的辞書に障害があることを示す項目が高い負荷量を示したため,「表層性失読」と命名した。
 これらの4因子の内的整合性を検討するために各下位尺度(各々に相当する項目の平均値)のα係数を算出したところ,順にα=.95/.97/95/.93と十分高く,信頼性も確認された。
ディスレクシア児と健常児の比較:ディスレクシア児と健常児の読字に関する特性を比較するために,読字障害特性の各下位尺度得点に関してt検定を実施した。その結果,全ての下位尺度において,ディスレクシア児の方が健常児よりも有意に高い得点を示した(cf. Table 1)。この結果から,読字障害特性の下位尺度はディスレクシア児と健常児を判別する尺度として妥当であることが示唆された。
考 察
 本研究から,日本語のディスレクシアには4つのサブタイプ「視覚性失読」「深層性失読」「音韻性失読」「表層性失読」が存在することが示唆された。これらは,欧米のディスレクシアのサブタイプと類似していることから,日本語のディスレクシアもアルファベット言語のディスレクシアと同様の読字の情報処理ルートと認知障害があることが推測できる。
 本研究は,小学校教員に対する調査を実施することにより,ディスレクシア児の認知・行動特性を検討したが,今後は実際のディスレクシア児に認知課題を実施することにより,認知・行動特性のサブタイプや認知障害をより詳細かつ的確に解明していくことが重要であろう。
引用文献
Coltheart, M., Rastle,K., Perry, C., Langdon, R., & Ziegler, J. (2001). DRC: A dual route cascaded model of visual word recognition and reading aloud. Psychological Review, 108, 204-256.
Sprenger-Charolles, L., Siegel, L. S., Jim?nez, J. E., & Ziegler, J. C. (2011). Prevalence and reliability of phonological surface, and mixed profiles in dyslexia: A review of studies conducted in languages varying in orthographic depth. Scientific studies of reading, 15, 498-521.

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