発表

1A-035

対人援助職の外傷的体験とレジリエンス、及びメンタルヘルス

[責任発表者] 上野 徳美:1
[連名発表者] 安達 圭一郎:2
1:大分大学, 2:山口大学

目 的
 看護職は患者・家族や同僚スタッフ、医師など、さまざまな人たちとかかわりをもち、対人ストレスや葛藤を経験しやすい援助職である。先の研究(2016,2017)において、筆者らは看護師の外傷的出来事の体験内容や対象(患者の自殺や急死、暴言など)をはじめ、体験者の援助要請や支援ニーズなどを明らかにした。また、外傷的体験が及ぼす仕事や職場の人間関係、メンタルヘルスへの影響を調べた結果、外傷的出来事の体験者は非体験者に比べ、仕事への影響やバーンアウト状態、離職希望が有意に強いことなどがわかった。
 本研究では、対人援助職のメンタルヘルス不調の予防と回復のための支援のあり方を探ることを目的として、看護師の有するレジリエンス(精神的回復力)とサポート状況がバーンアウトや抑うつ、離職希望などに及ぼす影響を検討する。
レジリエンス、すなわち強いストレス状況や困難から回復し適応する力には個人差があり、メンタルヘルスの回復や向上に影響を及ぼすと考えられる。レジリエンスについては、これまで作成された測定尺度の共通要素を整理して、資質的レジリエンスと獲得的レジリエンスの2次元から捉える尺度(平野,2010)が開発されており、ここではその尺度を用いて検討する。一方、外傷的体験をした後、職場に相談できる相手がいるか否か、何らかの支援が得られるか否かは、体験者のメンタルヘルス不調の予防や回復に影響を与えると予想される。

方 法
1.調査協力者と調査時期
調査協力者は、某総合病院(約600床)の看護師325名(女性294名、男性30名、不明1名)。新人を含めた常勤の看護師で全員が非管理職。平均年齢は30.3歳(SD=7.4)、平均看護経験年数は8.5年(SD=7.0)。その大半(80.6%)は病棟勤務。調査は病院看護管理部と共同で行い、無記名方式により2016年10月実施。調査の実施に当たっては、調査協力者に文書で説明し、本人の同意を得た。倫理委員会の承認も得た。
2.調査用紙及び質問項目(関連項目のみ)
(1)レジリエンス尺度:平野(2010)の二次元レジリエンス要因尺度21項目(5段階評定)。持って生まれた気質と関連の強い資質的レジリエンス(12項目)と、後天的に身につけていきやすい獲得的レジリエンス(9項目)より構成。
(2)相談相手の有無:個人的なことを相談したり、頼りにしたりしている上司や同僚の有無(2項目)。
(3)バーンアウト尺度:MBI尺度の邦訳・改訂版17項目(久保,1998)。情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成感低下の3因子。最近6ヶ月間の経験頻度を評定(5段階評定)。
(4)離職希望(意図):「病院を変わりたい」「看護師を辞めたい」など3項目(5段階評定)。α係数は .804。
(5)改訂出来事インパクト尺度日本語版(IES-R):22項目(5段階評定)
(6)抑うつ尺度:自己評価式抑うつ性尺度(SDS)(福田・小林,1973)。20項目(4段階評定)。

結 果
1.レジリエンスの高低とメンタルヘルス、離職希望
資質的レジリエンスと獲得的レジリエンスの相関(r =.66, p <.01)は高かったため、両者をひとつにまとめて分析した。外傷的出来事の体験者と非体験者のレジリエンス尺度の平均得点は、それぞれ69.37(SD =10.01, n =166)と68.19(SD =8.53, n =150)で有意差はなかった(全体の平均=68.69)。そこで、得点が69以上をレジリエンス高群、68点以下を低群とし、体験者のみを対象にして両群間の比較を行った。
Table1の通り、情緒的消耗感と脱人格化、個人的達成感低下、バーンアウト合計、および抑うつに関して両群の間で有意差が認められた。また、IESは傾向差が見られた。
2.体験者のサポート状況とメンタルヘルス、離職希望
 個人的なことを相談できる上司や同僚の存在を尋ねた結果、相談できる上司は56%、同僚は80%と、同僚の方が多かった。次に、相談相手の有無とメンタルヘルス状況の違いを分析した結果、相談できる上司がいる人はいない人に比べて、バーンアウト傾向と離職希望が有意に低かった(p <.05)。また、相談できる同僚がいる人はいない人に比べ、達成感の低下が軽減されていた(p <.05)。

考 察
 レジリエンスの高い人は低い人よりバーンアウトや抑うつ性が有意に低く、心的外傷性ストレス症状(IES-R)も少ないことから、看護師の有するレジリエンスは自身のメンタルヘルス不調の予防や回復に寄与する有意味な緩衝要因になり得ることを示している。したがって、レジリエンス、特に獲得的レジリエンス(自己理解や問題解決志向など)を高めるような働きかけや研修(コーチングなど)が有用と思われる。また、外傷的体験を安心して開示できる場や、自己の感情を表出して共感的理解が得られる環境が必要であると考える。
外傷的体験後、特に上司の支援が得られるか否かがメンタルヘルスに大きく影響しており、上司や同僚によるサポートの重要性を改めて示すとともに、気軽に相談や助言を受けられる職場風土を整えることの大切さを示唆している。

[本研究は、平成28-29年度科学研究費補助金(代表者 上野徳美)にもとづいて実施した。発表に関連し、開示すべき利益相反関係はなし。]

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