発表

1A-031

体験の回避が過敏性腸症候群の腹部症状に及ぼす影響

[責任発表者] 齊藤 早苗:1,2
[連名発表者] 嶋 大樹:2, [連名発表者] 富田 望:2, [連名発表者] 対馬 ルリ子#:1, [連名発表者] 熊野 宏昭:2
1:女性ライフクリニック銀座, 2:早稲田大学

目 的
過敏性腸症候群 (IBS) は,器質的疾患がないにも関わらず,腹痛や腹部不快を生じさせ,便通異常を伴う機能性消化管障害である。消化器症状に関連した不安が引き起こされる状況に対する回避行動の増加は,内臓感覚に対する警戒反応を増強させ,消化器症状を悪化させるとされている (Saigo et al., 2014)。アクセプタンス&コミットメント・セラピー (ACT)では,避けられない痛みは受け容れながら,自身にとっての価値 (人生で最も重要な方向性) に沿い,自らが属する社会の中で評価される行動を増やせるように行動活性化を図ることを目的とする (熊野, 2011)。行動活性化を進める上での障害として,「体験の回避」が挙げられる (Hayes et al., 1996)。体験の回避とは,ある人が否定的に評価された身体感覚,感情,思考,心配,記憶などの特定の私的出来事を,避けたり,抑制したり,もしくはそれらの私的出来事やそれを引き起こす文脈の形態や頻度を変えようとする試みや努力のことを指す (Hayes et al., 1996)。また,Nailboff et al. (2008) は,IBSの症状に関連する思考,感情,身体感覚などを回避する患者が多いことから,IBSに対するACTの有用性を示唆している。しかし,体験の回避やアクセプタンスといった,ACTが介入対象とする変数が, IBSの腹部症状に対して影響を与えるかは十分に明らかになっておらず,ACTによる支援が実際に有効かどうかを検証する必要がある。そこで,ACTが変容を意図する体験の回避が,IBSの腹痛や腹満感といった腹部症状に及ぼす影響について検討する。
方 法
便秘を自覚する255名 (女性244名,男性11名,平均年齢36.63 ± 9.91,年齢不明4名) を分析対象とした。調査材料として,1.フェイスシート,2.Rome III診断基準 (Longstreth et al., 2006),3.便秘症状の質問 (小林他,2013) に腹満感頻度を独自に追加,4.体験の回避 (AAQ-II;嶋他, 2013),5.アクセプタンス (APQ;嶋他, 2017),6.消化器症状に関連した不安 (VSI-J;Saigo et al., 2014) の点数を逆転して使用,7.抑うつ気分総合得点 (DAMS-TD;福井, 1997) に回答を求めた。
結 果
構造方程式モデリングの結果,GFI = .993, AGFI = .966, RMSEA = .043と十分なモデルの適合度を示す値が得られた。体験の回避が消化器症状に関連した不安に正の影響を示した。さらに,消化器症状に関連した不安と腹部症状には有意な正のパス係数が示された。体験の回避と消化器症状に関連した不安との関係を検討するうえで,不安やうつによる影響を補正するためにDAMS-TDを用いた。その結果,抑うつ気分を差し引いても体験の回避から消化器症状に関連した不安に有意な正のパス係数が示された。
考 察
IBSに対して体験の回避が与える影響を検討した結果,体験の回避は消化器症状に関連した不安を介して,腹部症状に影響を及ぼすことが示された。今回の結果により,IBSによる腹部症状に対して,ACTが役に立つ可能性が示唆された。今後はIBSを対象としてACTの有効性を検討していく必要がある。引用文献
Ferreira, N. B., Eugenicos, M. P., Morris, P. G., & Gillanders, D. T. (2013). Measuring acceptance in irritable bowel syndrome: Preliminary validation of an adapted scale and construct utility. Quality of Life Research, 22, 1761-1766. doi: 10.1007/s11136-012-0299-z
Hayes, S. C., Wilson, K. W., Gifford, E. V., Follette, V. M., & Strosahl, K. (1996). Experiential avoidance and behavioral disorders: A functional dimensional approach to diagnosis and treatment. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 64 (6), 1152-1168.
熊野 宏昭 (2011). マインドフルネスそしてACTへ 二十一世紀の自分探しプロジェクト 星和書店.
Saigo, T., Tayama, J., Hamaguchi, T., Nakaya, N., Tomiie, T., Peter, J., Bernick., … Fukudo, S. (2014). Gastrointestinal specific anxiety in irritable bowel syndrome: validation of the Japanese version of the visceral sensitivity index for university students. 心身医, 55, 86.

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