発表

1A-030

酒に酔うか,自分に酔うか −飲酒による顕在的および潜在的自尊感情の変化−

[責任発表者] 菊地 創:1
[連名発表者] 富田 拓郎:1
1:中央大学

目 的
飲酒による様々な認知の変化は, 多くの先行研究で明らかにされている。中でもBeer-Goggle効果は飲酒後に異性をより魅力的に認知しやすいというもので(Pennebaker et al., 1979),飲酒により自己評価が高くなることが背景として指摘されている。この一方,Bègue et al.(2013)は,飲酒による自己認知の変化は,プラセボ(偽薬)効果の影響を受けている可能性を示唆している。そこで,本研究では 1.自己評価の指標として, 顕在的および潜在的自尊感情の変化を用い, 飲酒によりこれらの自尊感情がどのように変化するか(実験1) 2.飲酒行為による自尊感情の変化にプラセボ効果が影響を与えているのか否かについて検証する(実験2)ことを目的とする。
実 験 1
実験参加者 大阪府内の飲食店内にいた成人客 23名(平均年齢 25.6歳,SD=4.9)を対象として実験を行った。
使用尺度 顕在的自尊感情:自尊感情(SE)尺度(山本・松井・山成, 1982),潜在的自尊感情:Name Letter Test(NLT)日本語版(Kitayama & Karasawa, 1997)を使用した。
手続き 飲食店内で飲酒前と飲酒後にSE尺度とNLTに回答を求めた。同時に簡易型アルコール濃度テスターで呼気中アルコール濃度(BAL)を測定した。
倫理的配慮 事前に,実験者の知人の経営する飲食店店主に説明を行い,許可を得て実施した。実験協力については完全に本人の任意であり,個人の回答内容が研究の目的以外には使われることはないこと,質問内容に不快感を覚えたり,回答への抵抗感を感じたりした場合は,いつでも回答を中止して良いことを紙面および口頭で説明し同意を得た。
結果と考察 飲酒前後でSE尺度とNLTで有意な増加が見られた(p=.000~.002)。SE尺度とNLTの飲酒前後の変化量とBALの間に有意な正の相関が見られた(r=.42, .43)。飲酒により顕在的および潜在的自尊感情が増加した可能性が示唆された。実験1の変化がアルコールの薬理作用によるのか,あるいはプラセボ効果によるのかを明らかにするため,実験2を行った。
実 験 2
実験参加者 実験1と同様の飲食店内にいた成人客92名(平均年齢 26.9歳,SD=5.4)を対象として実験を行った。
使用尺度 実験1と同様のものを用いた。
手続き 参加者に同名のアルコールを含むカクテル(アルコール度数は各7%)とアルコールを含まないカクテルが実在する飲料3種類が書かれたメニューを配布し選ばせた。アルコール飲料であることを伝えた上でアルコール飲料を提供した群(Alc-Alc群),アルコール飲料であることを伝えた上で実際にはアルコールを含まない飲料を提供した群(Alc-nAlc群),アルコールを含まない飲料であると伝えた上で実際はアルコール飲料を提供した群(nAlc-Alc群),アルコールを含まない飲料であると伝えた上でアルコールを含まない飲料を提供した群(nAlc-nAlc群)の合計4群に参加者を分けた。1日に1群ずつ合計4日間,同じ時間に実験1と同じ手続きで実験を行った。実験1同様の手続きで,飲食店で実施した。
倫理的配慮 実験1と同様。
結果と考察 各群の人数を統一するために,最も人数の少なかった群にあわせて,各群から無作為に20人ずつ抽出し分析の対象とした。得られた結果をTableに示した。
教示内容に関わらずアルコールを摂取した群では両自尊感情が増加し, 実際の飲料内容物に関わらずアルコールであると教示した群では顕在的自尊感情が増加した。このことから, 飲酒場面において, 潜在的自尊感情の変化にはアルコールの薬理作用が,これに加え顕在自尊感情の変化にはプラセボ効果が,各々影響したと考えられる。
総 合 考 察
本実験により示された飲酒に伴う自尊感情の変化は, アルコールの薬理作用だけでなくプラセボ効果によるものだと示唆された。これは,飲酒による自己認知にプラセボ効果が影響しているというBègue et al.(2013)の指摘と一致する。アルコール関連障害等の物質関連障害患者は自身の内的、外的苦痛を軽減するために物質を乱用することが指摘されている。本実験で示されたプラセボ効果により,アルコールを摂取することなく,自己認知を変化させ,内的苦痛の一部が低減する可能性があり,アルコール使用障害等の物質使用障害に対する治療に応用できる可能性がある。今後は,飲酒の行われる空間や時間帯など環境的要因の影響や,男女差などの検討が必要である。
引用文献
Bègue, L., Bushman, B. J., Zerhouni, O., Subra, B., & Ourabah, M. (2013). ‘Beauty is in the eye of the beer holder': People who think they are drunk also think they are attractive. British Journal of Psychology, 104, 225-234.
謝辞
本研究は,第2著者が関西大学社会学部在職時に指導した藤田透さんの卒業論文(心理学専攻2012年度卒業)に加筆修正を行ったものである。本発表にあたり多大なご協力を頂いた藤田さんに,ここに記して感謝申し上げる。

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