発表

1A-026

日本語版Standardised Assessment of Personality − Abbreviated Scaleの作成と信頼性および妥当性の検討

[責任発表者] 樋沼 友子:1,2
[連名発表者] 川島 一朔:3, [連名発表者] 熊野 宏昭:3
1:両国きたむら整形外科, 2:東京大学進化認知科学研究センター, 3:早稲田大学

問 題
 パーソナリティ障害 (Personality disorders: PDs) 傾向の測定指標としては日本語版Personality Diagnostic Questionnaire − Revised (PDQ−R: 切池・松永, 1995) などいくつかが挙げられる。しかし, いずれもPDsの種類別に各症状を査定する内容であるため, 100を超える数の項目から構成される。そのため, PDs全般の傾向を査定するには, 研究場面および臨床場面において, 調査やスクリーニングに長時間を有すること, 被験者や患者の負担が大きいことが問題として考えられる。特に研究場面では, 被験者への負担を考慮すると他の尺度と組み合わせての使用が極めて困難であることから, PDs全般を対象とした研究が行われにくいことが現状の問題として考えられる。PDs全般の傾向をより少ない項目数から測定するために開発された指標としてStandardised Assessment of Personality − Abbreviated Scale (SAPAS: Moran et al., 2003) がある。SAPASは8項目という少ない項目数ながら, 高い再検査信頼性および感度と特異度を有しており, PDs全般を対象としたスクリーニング指標として高い信頼性と妥当性が示されている。しかし, 現在SAPASは原版である英語版と, その翻訳版のドイツ語版しか存在していない。そこで本研究では, PDs全般の傾向を測定する指標として日本語版SAPASを作成し, その信頼性および妥当性を検討することを目的とする。なお, 本研究は「早稲田大学人を対象とする研究に関する倫理委員会」において承認を受けた上で実施した。

方 法
 分析1では, 首都圏の4年制大学の学生112名 (男性31名, 女性81名, 平均年齢23.441 ± 7.051歳) を分析の対象とした。調査材料Dについては60名 (男性15名, 女性45名, 平均年齢26.085 ± 8.826歳) を分析の対象とした。調査材料は, A) フェイスシート, B) 日本語版SAPASの原版, C) 日本語版PDQ-R (切池・松永, 1995), D) Depression and Anxiety Mood Scale (DAMS: 福井, 1997) を使用した。
分析2では, 首都圏の4年制大学の学生36名 (男性10名, 女性26名, 平均年齢25.639 ± 8.553歳) を分析の対象とした。2週間の期間をあけて2度にわたり, 同一の調査材料を配布し, 調査を行った。調査材料は, A) フェイスシート, B) 日本語版SAPAS (分析1で作成) を使用した。すべての解析において, SPSS ver. 22.0とAmos ver. 22.0を使用した。
 項目作成では, まず原版の作成者に翻訳許可を得た後, 第一著者, 臨床心理学を専門とする研究者1名および臨床心理士1名によって順翻訳と調整を行った。その後, 臨床心理学を専攻する英語に堪能な大学院生2名によって逆翻訳を行い, 原版の作成者から項目内容について確認を得た上で, 項目を作成した。なお, 原版のSAPASは主に臨床場面での使用を想定しているため, 2件法で構成されるが, 日本語版SAPASは研究場面においての使用も想定するため, データの値域を広げるために4件法の構成とし, 原版の作成者の同意を得た。

結 果
 分析1では, 日本語版SAPASの作成および内的整合性と妥当性の検討を行った。主成分分析の結果, 概ね良好な主成分負荷量を示した。1因子を想定した確証的因子分析を行った結果, やや低い適合度を示した (GFI = .911, AGFI = .840, CFI = .806, TLI = .728, RMSEA = .100, SRMR = .081)。探索的因子分析を行った結果, 3因子が抽出された。1つの高次因子と3つの低次因子を想定した高次因子分析を行ったところ, 良好な適合度を示した (GFI = .962, AGFI = .920, CFI = .996, TLI = .993, RMSEA = .016, SRMR = .053)。Cronbachのα係数を算出した結果, α = .695 と, 原版やドイツ語版と同程度のやや低い値を示した。相関分析を行った結果, 日本語版SAPASの合計は日本語版PDQ-Rの合計と強い正の相関 (r = .765, p < .01), DAMSの「抑うつ気分」と「不安気分」とはそれぞれ中程度の正の相関 (r = .637, p < .01; r = .530, p <.01), DAMSの「肯定的気分」とは中程度の負の相関を示した (r = −.443, p < .01)。
分析2では, 再検査信頼性の検討を行った。級内相関分析の結果, 日本語版SAPASは有意な正の級内相関を示した (ICC (2, 1) = .859 (p < .01, 95%CI [.738, .927]))。

考 察
分析1では日本語版SAPASの構造的妥当性, 基準関連妥当性および収束的妥当性が示された。一方で, 内的整合性の検討では, 信頼性が十分に示されなかったため, 分析2において再検査信頼性の検討を行った。その結果, 日本語版SAPASは十分な再検査信頼性が示された。今後はさらにサンプル数を増やして検討することが望まれる。また, 本研究では健常群と臨床群の連続性を仮定し, 一般の学生を対象に調査を行ったが, 今後は臨床群でも同様の結果が得られるか検討する必要がある。日本語版SAPASは,これまで懸念されていた患者や被験者の負担を大きく減らすことができるため, 多くの臨床現場および研究場面で活用されることが期待される。

引用文献
福井 至 (1997). Depression and Anxiety Mood Scale (DAMS) 開発の試み 行動療法研究, 23 (2), 83−93.
切池 信夫・松永 寿人 (1995). 摂食障害と関連する人格 精神科診断学, 6, 447−472.
Moran, P., Leese, M., Lee, T., Walters, P., Thornicroft, G., & Mann, A. (2003). Standardised Assessment of Personality − Abbreviated Scale (SAPAS): preliminary validation of a brief screen for personality disorder. The British Journal of Psychiatry, 183 (3), 228−232.

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