発表

1A-024

児童養護施設児童にとって将来の夢は自尊感情を育むことに繋がるのか

[責任発表者] 井出 智博:1
1:静岡大学

目 的
児童養護施設で暮らす子どもたち(施設児童)は夢が持てないという指摘がある(Human Rights Watch,2014)。確かに施設児童の時間的展望の研究では将来の肯定的な展望が持ちにくく,また将来目標を持ちたいという意志も弱いことが示されている(井出他,2014)。しかし,施設児童の時間的展望の特徴については十分に検討されているとは言い難い。また,施設児童は自尊感情が低いという指摘も多くある。たとえば,吉田,2011)。Tsuzuki(2012)他は肯定的な将来展望が自尊感情を高めることを見出している。そこで,本研究では家庭児童と施設児童について,時間的展望(特に将来展望)が自尊心に与える影響を明らかにすると共に,将来展望がどのようにして育まれるのかという構造を比較し,施設児童の将来展望と自尊感情の関連の特徴を検討する。
方 法
施設中学生児童78名と家庭で暮らす中学生578名を対象とした。調査は2012年12月~2013年7月に質問紙調査によって行われた。調査項目として,時間的展望を測定する尺度として都筑(2006)による中学生用の時間的展望尺度(4件法),自尊感情を測定する尺度として児童用コンピテンス尺度(桜井,1992)の「自己価値」因子を用いた。なお,統計処理にはSPSS及びAmos ver.22を使用した。
結 果
各尺度について確認的因子分析を行った結果,十分な適合度が得られ,先行研究と同様の因子構造が確認された(「将来への志向性」「計画性」は得点が高いとその傾向が強いことを示すよう修正した)。その後,各下位尺度間の相関係数を求めた(Table 1)。将来への希望が自尊感情を高めるという仮説を中心として,時間的展望と自尊感情の関連,時間的展望の構造に関する先行研究と相関分析の結果に基づいて仮説モデル(Figure 1)を作成し,家庭児童と施設児童の差異を検討するため,多母集団同時分析によるパス解析を行った。その結果,配置不変モデル(χ2=8.986, df=8, p=.343, GFI=.995, AGFI=.976, RMSEA=.014)ではいずれの群でも適合が良好であったが,等値制約を置いたモデルでは各指標が低下したために,配置不変モデルを採用した(Table 2)。
考 察
将来展望が自尊感情を高めることに繋がることが示されたが,そのモデルには差異が見られた。家庭児童では将来への志向性を起点として,将来への希望や空虚感の低さ,計画性などが直接的に自尊感情に作用すると共に,空虚感や将来目標の渇望,将来への志向性が将来への希望や計画性を経て間接的に自尊感情に作用することが示された。しかし,施設児童では将来の希望は自尊感情に肯定的な影響を及ぼすが,将来への志向性は将来の希望を高めることにはつながらないことが示された。一方で将来への志向性は空虚感を弱めることに繋がり,それが自尊感情に肯定的に影響することが示された。こうしたことから,施設児童への支援においては,彼らが将来について考えてみようとする姿勢を作るような支援が重要であると考えられる。
引用文献
Human Rights Watch (2014). 夢がもてない
井出智博他 (2014). 児童養護施設中学生の時間的展望, 静岡大学教育学部研究報告 34, 61-67.
桜井茂男 (1992). 小学校高学年生における自己意識の検討,実験社会心理学研究, 32, 85-94.
都筑学 (2006). 中学生における自己意識の発達, 教育学論集 48, 363-377.
Tsuzuki, M. (2012). Dynamic changing process of hope in early adolescence: Analysis of individual differences during the transition, Japanese Psychological Research, 54(3), 253-262.
吉田絵美 (2011). 一般家庭児童と施設入所児童における自尊心の差異について, 児童教育学研究 30, 173-180.

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