発表

1A-022

制御焦点が創造的思考の生成に与える影響

[責任発表者] 長谷 和久:1
1:同志社大学

目 的
 Higgins (1997) は制御焦点理論で,どういった目標が優先されるのかによって,つまりは制御焦点の違いによって人の動機づけ方略を2種類に分けた。1つは,促進焦点 (promotion focus) と呼ばれ,理想や目標の達成を優先する動機づけ方略である。2つ目は予防焦点 (prevention focus) と呼ばれ,義務や責任を果たすことを優先する動機づけ方略である。これら2種類の動機づけ方略は,人の判断や行動,さらには思考プロセスにいたるまで影響を及ぼすことが確認されている (レビューとして,Higgins & Cornwell, 2016)。
 本研究の目的は,こうした制御焦点の違いが人の創造性に与える影響を検討することにある。制御焦点の違いが創造性に与える影響を検討した研究は既に存在している。研究では迷路上のネズミを好物に接近させる (促進焦点),ネズミを天敵から逃がす (予防焦点),といったプライミング手法で制御焦点を操作したうえで,多様な創造性課題に回答を求めた。実験の結果から,促進焦点は予防焦点に比べて,創造的な思考を促進することが示された (e.g., Friedman & Förster, 2001)。
 しかし,この実験で使用されたプライミング手法は,接近・回避動機づけの操作と交絡することが確認されている。このため本研究では,制御焦点を操作する際にのみ使用されるプライミング手法を用いたうえでも,促進焦点が創造的な思考を促進するのかについて検討した。
方 法
実験参加者 関西の私立大学に通う学生116名 (女性81名,男性35名; 平均年齢18.5歳 (SD = 0.90)) 。
実験デザイン 制御焦点 (促進焦点・予防焦点) をプライミングによって操作した1要因参加者間計画であった。
制御焦点の操作方法 Liberman et al. (1999) を参考に,参加者に関するエッセイを最低3分間で記述させることにより操作した。詳細には,参加者の現在の目標 (義務) や願い (責任) が幼少期に比べてどのように変化してきたか,について記述することを求めた (括弧内が予防焦点への操作にあたる)。
創造性課題 拡散的思考が行われる程度を測定するUnusual Uses Test (以下,UUT) を使用した。本研究で使用したUUTは,「れんが」の創造的・独創的な用途を4分間でできる限り多く記述する,というものであった。
手続き 回答はウェブ上で行われた。実験の開始時に邦訳版制御焦点尺度 (尾崎・唐沢, 2011) に回答を求め,その後は制御焦点の操作,UUTへの回答,の順に進んだ。
創造性の評価 2名の評定者がUUTにおける各回答の創造性を5件法で評価した。この評定値を参加者毎に平均した創造性平均,さらに評定値が中点 ( “3” ) を超え,高い創造性を示す回答数を参加者毎に算出した創造的回答数,の2つを創造性指標とした。最後に回答全体のうち1%未満の回答の数を参加者毎に調べ,その回答数を独創性指標とした。
結果と考察
Table 1 変数間の相関関係

主要な分析に先立ち,個人特性の制御焦点傾向と創造性に関する各変数との間の相関関係を確認した (Table 1)。分析の結果,個人特性において,予防焦点の傾向が強いほど,UUTの回答数,独創性が低下することが示された。
 次に,プライミング手法によって促進焦点に誘導された個人は,予防焦点に誘導された個人に比べて,創造性が高くなるのかを検討した。分析の結果をTable 2に示す。
Table 2 実験条件間の比較

分析の結果,創造的回答数,独創性の2指標において,促進焦点条件は予防焦点条件に比べて高い値を示した。その一方で,UUTの回答数,創造性平均においては条件間で有意な差は確認できなかった。
 先行研究において,創造性平均,創造的回答数,独創性の3指標はともに促進焦点の優勢性が確認されていた。しかし先行研究と異なるプライミング手法を使用した本研究では,それらのうち,2指標において促進焦点の優勢性が示された。
 とくに創造性平均で差が確認できず,創造的回答数,独創性において促進焦点の優勢性が示されたことから以下の推察が可能である。それは,促進焦点は予防焦点に比べて,創造的思考を全体的に底上げするのではなく,少数であるがより創造的で,ユニークな思考をもたらすというものである。
引用文献
Friedman, R. S., & Förster, J. (2001). The effects of promotion and prevention cues on creativity. Journal of Personality and Social Psychology. 81, 1001–1013.
Higgins, E. T. (1997). Beyond pleasure and pain. American Psychologist, 52, 1280–1300.
Higgins, E. T., & Cornwell, J. F. M. (2016). Securing foundations and advancing frontiers: Prevention and promotion effects on judgment & decision making. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 136, 56–67.
Liberman, N., Idson, L. C., Camacho, C. J., & Higgins, E. T. (1999). Promotion and prevention choices between stability and change. Journal of Personality and Social Psychology. 77, 1135-1145.
尾崎 由佳・唐沢 かおり (2011). 自己に対する評価と接近回避志向の関係性—制御焦点理論に基づく検討— 心理学研究, 82, 450–458.

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