発表

1A-018

供述調書における自称詞が被疑者の評価に与える影響

[責任発表者] 藤田 政博:1
[連名発表者] 日置 孝一:2, [連名発表者] 若林 宏輔:3
1:関西大学, 2:神戸大学, 3:立命館大学

目 的
 自称詞とは話者が自分自身を指す言葉である。印欧語の一人称に比較して日本語などの東アジアの言語における自称詞には多くのバリエーションがあり、それは話者の自己呈示のあり方や聞き手との関係性を反映している(長田, 2009)。
 自称詞によって、聞き手や第三者に与える影響が変わる場面として様々なものが考えられるが、形成された印象が話者の処遇に直接影響を及ぼす場面の一つとして犯罪等の取調べがある。取調べは、近年拡大している録音録画の他、伝統的には文章(供述調書)で記録されてきた。
 刑事裁判では法廷で被告人などから直接話を聞くことを原則としている(刑訴法320条1項)が、書面で代えることも認められている(321条〜328条)。そして現実には裁判の運営上、供述調書をもって法廷で実際に話すことに代えることが多く行われている。そのため、供述調書は刑事裁判の事実認定において非情に重要な位置を占めることになる。
 供述調書の言葉遣いや文体(書きぶり)は警察や検察で概ね統一されているが、時代や捜査官によってばらつきもある。用語や書きぶりによって事実認定者が抱く印象やひいては被告人の刑罰の重さ等に影響がある可能性がある。
 そこで、供述調書における被疑者の自称詞が、調書の読者が持つ被疑者の印象に与える影響について検討した。
方 法
 近畿地方の3大学において、心理学の授業に参加した学部学生341名(男性136名、女性185名、平均年齢19.55歳, SD1.49)に対し、回答は任意であることを教示した上で授業中に質問紙への回答を要請した。質問紙には刑事裁判殺人未遂事件を犯して裁判にかけられた被告人の自白調書の全文と、被告人に対する評価、被告人にふさわしい刑罰の重さ、認知欲求尺度(神山・藤原, 1991)、フェイス項目を掲載した質問紙を配布した。自白調書に関して以下の6水準を用意した。被告人の自称詞に関して「俺」「僕」「私」の3水準、被害の程度を大(大怪我)小(無傷)2水準とする2要因6水準で、2要因とも被験者間要因の実験計画とした。終了後にデブリーフィングを行った。
結 果
 被告人に与えるべき懲役の年数、被告人の印象等8項目と被害大小の評価(7件法)に関して、3σ以上の外れ値を取除き、自称詞×被害大小×回答者性別の3要因の分散分析を行った。なお、Need for Cognition 15項目(α=.87)の合計得点を統制のため共変量として投入した。
 自称詞に係る分析結果のみを見ると、「被告人は怒っていたと思うか」という質問に対する回答に関して自称詞×性別の交互作用が有意(F(2, 444)=3.26, p =.040)であり、懲役年数に関して自称詞×被害の大小の交互作用が有意傾向であった(F(2, 446)=2.56, p=.080)(図1・2)。自称詞の主効果は「被告人に同情できるか」(F(2, 446)=3.11, p=.046)で有意、「良い人だと思うか」(F(2, 446)=2.56, p=.080)で有意傾向だった(表1)。
 男性は「僕」「私」と言う被告人は「俺」よりも挑発に対して怒っていたと回答したが、女性では差が見られなかった。被害が小さい時は「僕」「私」を自称すると懲役は短くなったが、被害が大きい時に「私」というと却って懲役が長かった。

考 察
 「僕」は同情できて良い人だと思われる一方、「俺」と「私」は「僕」に比べると低い評価であり、両者はほとんど変わらなかった。
 以上のように、自称詞によって被告人の印象や罰の重さが異なり得、しかもそれは判断者の性別や被害状況によって一律ではないことが示唆された。
引用文献
長田瑞恵 (2009). 自称詞の違いと印象形成 : 対象の性別・年齢との関連. 日本教育心理学会総会発表論文集, (51), 112.
神山貴弥・藤原武弘 (1991). 認知欲求尺度に関する基礎的研究. 社会心理学研究, 6(3), 184-192.
謝辞 本研究は、科研費 (基盤研究(B)15H03209代表: 堀田秀吾明治大学教授)の補助を受けた。

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