発表

1A-011

恐怖管理理論に関する実験的研究

[責任発表者] 河野 由美:1
1:畿央大学

目 的
 恐怖管理(存在脅威管理)理論では,「文化的不安緩衝装置が強化されているとき,人は存在論的恐怖を感じにくい,逆にそれが弱体化しているときには存在論的恐怖を強く感じる」という文化的不安緩衝装置仮説(CAB仮説)と「存在論的恐怖が顕在化すると,人は文化的不安緩衝装置の機能をより強く求める」という存在脅威顕現化仮説(MS仮説)(脇本,2012)がある.本研究では自尊感情を操作し,デス・エデュケーションとしての死に関する課題実施前後で,死に関する態度や生理学的指標がどのように変化するかを実験的に検討し,仮説の検証を試みた.
方 法
「時期」:平成28年11月~平成29年2月.
「被験者」:実験説明会に参会し,自主的に研究参加を申し出た20歳以上の大学生20名.
「実験課題内容」:各被験者A「自己の死に関すること」,B「他者の死に関すること」,C「死のない世界に関すること」,D「ぬりえ」の4課題を実施した.課題実施順序はランダムで,1日1課題とし,各課題の影響を統制するために次の課題実施まで7日間以上空けて実施した.
「実験手順」:課題の実施前には5分間椅子に座り安静にした後,心拍変動(TAS9)と唾液アミラーゼの測定と調査票を記入.その後,課題を実施する(30分).課題を実施した後,再び,心拍変動と唾液アミラーゼ測定と調査票記入を行った.
「自尊心の操作」:課題D実施時にはTAS9で血管年齢を測定し,実年齢より血管年齢が高かった被験者には老化が進んでいるので生活習慣の改善が必要であること,課題のできが良くないと伝え(自尊心低減群),血管年齢が実年齢より若い者は生活習慣が良く,課題の出来も良いと褒め(自尊心向上群),血管年齢と実年齢が同じ者には何も伝えずに(自尊心中郡),自尊心を操作した.
「使用尺度」:自尊心の測定: Rosenberg(1965)(山本ら訳,1982)の自尊心尺度を使用した.自己と大切な他者の死観の測定:河野(2005)の各14項目からなる自己と他者の死観尺度をリッカート方式の4件法で用いた.死の不安の測定:Templer(1970)のDAS(死の不安尺度)を用いた.
「倫理的配慮」:実施にあたって,大学の研究倫理審査委員会の承認を得た.UMINの臨床試験登録済.
結 果
「調査対象者の概要」:性別は男性4名で女性16名.
「自尊心の操作結果」:自尊心の尺度得点を従属変数とし,課題前後と自尊心群(低減群9名・中群5名・向上群6名)の2元配置の分散分析を実施した.その結果,有意な傾向性で違いが認めら,向上群では課題終了後に自尊心尺度得点が高くなった.課題後に「本日の課題は上手くできたか」を4件法で尋ねた結果,自尊心低減群(M=2.0)は中郡(M=2.2)と向上群(M=3.0)よりも有意な傾向性で低い点数であった.
「課題前後の自尊心変化」
MS仮説を検証するため,死に関する課題A~Cの自尊心尺度得点を従属変数とし,課題種類と課題前後を要因とした2元配置の分散分析を実施した結果,主効果や交互作用は認められなかった.
「自尊心と死への態度・生理学的指標との関連」
CAB仮説を検証するため,DASや自己と大切な他者の死観尺度得点を従属変数とし,課題前後と自尊心群を要因とした2要因の分散分析を実施した.その結果,自己の死の「逃避」に有意な交互作用があり,自尊心低下群は逃避尺度得点が高くなった.自己の死の恐怖に主効果と交互作用が有意であり,予測に反して自尊心向上群は死の恐怖が強くなった.心拍変動ではLF(副交感神経)に課題の主効果があり,いずれの自尊心群でも課題後に上昇している.LF/HF(交感神経)には主効果と交互作用が有意であり,自尊心低減群は課題終了後に著しく高くなった.
「神仏を信じる程度と死への態度変化」
DASと死観尺度得点を従属変数とし,課題A~C前後と神仏を信じる程度を要因とした2元配置の分散分析を実施した.その結果,自分の死について考える課題AではDASと自己の死の恐怖尺度得点において違いが認められ、神仏を信じない被験者はそれ以外の被験者よりも著しく死の不安や恐怖が課題後に高まった.
考 察
CAB仮説に関しては,自尊心が低まると死から逃避することが示されたが,予想とは反対に自尊心が高まることで死の恐怖が高まり,仮説を検証できなかった.しかし,神仏を信じていない被験者は自己の死を考えることで死への不安や恐怖が高まることが示された.なお,MS仮説も検証できなかった.本研究は科学研究費補助金(基盤C:研究代表者河野由美)の助成を受け実施した.

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