発表

1A-010

科学的信念に及ぼす科学的・社会的合意性認知の効果

[責任発表者] 小林 敬一:1
1:静岡大学

問題と目的
 近年,人々の科学的合意性認知(特定の科学的問題を巡って科学者間でどの程度,合意ができているかという認知)がその科学的信念を予測しまた影響を及ぼすとした実証的研究が徐々に増えてきている(e.g., Ding et al., 2011)。しかし,科学的問題について判断する時に,一般の人々は,科学者の意見だけでなく,自分の社会的ネットワークに属する人々などの意見も参考にする場合があるにもかかわらず,また,(専門家ではない人々間の)社会的合意性認知が科学的信念の予測変数になることを示した知見(van der Linden et al., 2016)があるにもかかわらず,科学的合意性認知の特異性や効果を社会的合意性認知と共に検討した研究は見当たらない。科学的合意性は社会的合意性と区別して認知されているのか。科学的合意性認知が科学的信念に及ぼす影響は社会的合意性認知から独立しているのか。本研究ではこれらの問題について検討を加えた。あわせて,科学者に対する信頼感(科学的信頼性)が科学的合意性認知の効果を調整している可能性についても検討した。
研究1
 方法 成人434名がインターネット調査に参加した。調査では,4つの科学的問題(人由来の地球温暖化,血液型性格,原発再稼働の安全性,調査捕鯨の科学性)を取り上げた。参加者は,科学者の有能性,その意見に対する信用度,各科学的問題の親近性をそれぞれ7件法で評定した後,各問題を肯定する科学者(科学的合意性),社会的ネットワーク成員(社会的ネットワーク合意性),一般の日本人(公的合意性)それぞれの割合(0-100%)を推測し,最後に,各科学的問題に関する自分の信念を7件法で評定した。
 結果と考察 各問題に関する信念を従属変数,親近性,科学的合意性認知,社会的ネットワーク合意性認知または公的合意性認知を説明変数とする重回帰分析を行ったところ,科学的問題に関わらず,科学的合意性認知と社会的ネットワーク合意性認知は有意な説明変数であった。公的合意性認知は,原発再稼働の安全性と調査捕鯨の科学性についてのみ有意であった。また,科学的信頼性(有能性と信用度評定の平均値)が科学的合意性認知の効果を調整しているか調べるために調整分析を実施した結果,人由来の地球温暖化と血液型性格でのみ,科学的合意性認知×科学的信頼性の交互作用が有意であった。単純傾斜分析の結果,科学的信頼性が高い場合に,科学的合意性認知が科学的信念に正の影響を及ぼすことが示された。
研究2
 方法 成人694名がインターネット実験に参加した。参加者はまず,研究1と同じ4つの科学的問題に関する科学者の有能性,その意見に対する信用度,各科学的問題の親近性をそれぞれ7件法で回答した。次に,2013年に実施したアンケート調査(架空のもの)を紹介し,その調査で各問題を肯定した科学者と一般日本人の割合を推測してもらった。そして,科学的合意性フィードバック条件の参加者には研究1で得られた肯定科学者の割合に20%プラスした値かマイナスした値を実際に得られた科学的合意性の割合として,公的合意性フィードバック条件の参加者には研究1で得られた肯定一般日本人の割合に20%プラスした値かマイナスした値をそれぞれフィードバックした。フィードバックなし条件の参加者には合意性に関するフィードバック情報を提示しなかった。それから,参加者は,現時点において各問題を肯定する科学者と一般の日本人それぞれの割合を推測し,最後に,各科学的問題に関する自分の信念を7件法で評定した。
 結果と考察 合意性フィードバックの効果は,科学的合意性認知の場合,血液型性格と調査捕鯨の科学性でのみ見られ,公的合意性認知の場合,血液型性格,原発再稼働の安全性,調査捕鯨の科学性で見られた。これらの科学的問題に関して,各フィードバックが合意性認知を介して科学的信念に影響を与えたかどうか調べるために,ブートストラッピング法による間接効果の検定を行った。その結果はTable 1に示すとおりであり,おおよそ,科学的・公的合意性フィードバックはそれぞれ科学的合意性認知,公的合意性認知を媒介して科学的信念に影響していることが示された。なお,科学的信頼性が科学的合意性認知の媒介効果を調整しているか検討したところ,調整効果はいずれも有意でなかった。
引用文献
Ding, D., Maibach, E. W., Zhao, X., Roser-Renouf, C., & Leiserowitz, A. (2011). Support for climate policy and societal action are linked to perceptions about scientific agreement. Nature Climate Change, 1, 462-466.
van der Linden, S., Leiserowitz, A., & Maibach, E. W. (2016). Communicating the scientific consensus on human-caused climate change is an effective and depolarizing public engagement strategy: Experimental evidence from a large national replication study. Available at SSRN.

詳細検索