発表

1A-009

言霊に関する態度と行為(2) −不確実事象の予測の観点から−

[責任発表者] 村上 幸史:1
1:神戸山手大学

(問題)
日常生活の中で、不確実事象に関する予測を立てる場合には、それを口に出して発言したり、何らかのメディアに記述したりすることのような、予測をすること自体が結果にもたらす影響力を強調することがある。
結果に対して、前段階における行為の影響力を重視することは、一般的に「フラグを立てる」現象と呼ばれている。「フラグを立てる」とはプログラムの分岐やゲーム製作における伏線のことであり、転じて発言や記述などが伏線となって、あたかも特定の結果が導かれるように判断されることを指す表現である。仮定されているのは予測と結果の間の因果関係である。一般的には幅広い行為が「フラグを立てる」現象とみなされている。言霊信仰などはこれに含まれると考えられる。
村上(2016)は、この「フラグを立てる」現象について、予測の際に取られる態度や行為に関する実態調査を行った。その結果、予測を全般的に口にすることだけでも、他者に言ったり、ネット上に記述したりすることよりも影響力が大きいと捉えられており、またポジティブな内容の方がネガティブな内容よりも効果があると捉えられている反面、実際にポジティブな効果を期待して、積極的な行為を取ることは少ないことが分かった。
本研究では、この結果をふまえて、発言に関するコミットメントの程度や生じる後悔の感情との関連性など、「フラグを立てる」現象に関する心理的メカニズムを探るため、再度調査を行い、検討を行った。

(方法)
回答者 回答者は10代から60代までの669名(男性337名、女性332名)。調査はネット上の調査会社に委託した。
質問項目
1. 言霊的態度に関する項目 村上(2016)で抽出された、「否定的結果」・「広義の言霊的行為」・「肯定的結果」の3因子から、複数の因子に負荷の高い項目を除いて、負荷量を中心に35項目を選抜した。これらについて7段階で回答してもらった。
2. 行為を控えている程度とその理由 言霊的態度の中から、「自分の目標を宣言する」や「人の悪口を言う」などの具体的な行為(広義的なものも含む)に該当する項目のうち、ネガティブな効果を予測することであえて避けていること(20項目)に関する回答を5段階で求めた。またネガティブな予想や予測を控える理由(14項目)を7段階で尋ねた。
3. 予測と的中に関する感情 「予想を立てたら、その結果を知りたくなる」など、予測への関心や的中を喜ぶ感情を測定する項目(10項目)を作成し、回答してもらった(7段階)。
4. 予期後悔の程度 上市(2011)の項目を参考に、「何をするにしても、うまくいった場合のことよりも、失敗して後悔した場合のことを考える」など、7項目を作成し回答してもらった(7段階)。
5. 発言や書き込みへのコミットメント 「自分が発言したことにこだわりすぎる」など10項目を作成し、回答してもらった(7段階)。
6. 「フラグ」に関する項目 「フラグ」に関する知識の有無を尋ね、これに該当する行為について2と同様の項目に回答してもらった。また「フラグ」に関する態度項目(13項目)を作成し、回答してもらった(7段階)。

(結果)
 以下の分析には、同一項目に全て同じ回答をしていた44名を除外し、625名分の回答を分析対象とした。
言霊的態度に関する項目については、因子ごとに平均得点を作成し、相関係数を求めた。「否定的結果」と「広義の言霊的行為」の2因子の相関はr=.86と高かったが、別個の得点として以下の分析に用いた。各因子の得点の平均値はTable1に示した。「否定的結果」得点と「肯定的結果」得点の相関はr=.58であった。
これらの得点には、居住地域や、年齢、学歴による差は見られなかったが、男性の方が「広義の言霊的行為」得点が高いという有意差が見られた(t(623)=2.47, p<.05)。ただしネガティブな予測を控える理由のうち、心理的な影響及び言霊の直接的影響については、村上(2016)と同様に女性の方が得点は高かった(心理的影響: t(623)=2.44, p<.05; 直接的影響: t(623)=2.33, p<.05)。
予期後悔の程度、発言や書き込みへのコミットメントの項目についても、それぞれ平均得点を作成した。加えて、これらの得点とネガティブな予測を控える理由のうち、心理的な影響及び言霊の直接的影響について、それぞれ言霊的態度に関する得点との相関係数をTable1に示した。「肯定的」な発言は心理的効果を期待したものであるのに対して、「否定的結果」得点が高いことは予期後悔を避けるためであり、コミットメントは両者とも中程度の関連性が見られた。
最後に「フラグが立つ」という現象を理解していた者は、回答者全体の55.4%であった。10代での認知率が68.1%であるのに対して、60代では33.0%と、世代が上になるほど認知率は低くなる傾向が見られた。
「フラグ」に該当する行為については、「フラグ」に関する信念因子と、「フラグ」と関係なく、「元から起こる可能性が高いと思っていた」という潜在的予期因子に分けて、それぞれ合計得点を作成し、言霊的態度に関する項目との相関を求めたところ、両方とも「否定的結果」得点との相関が高かった(Table1)。

(考察)
本調査の結果から、言霊的な態度は「フラグが立つ」という現象とも関連があり、特に否定的結果を招く行為は、予期後悔や言語的コミットメントとも関連していることが分かった。これらの結果からは、ネガティブな結果を想像することから、行為を回避するという迷信と同様の構造があると推測される。
特にフラグの有無に関わらず、ネガティブな結果を潜在的に予期していると考えられる点は注目すべきである。これが特定の行為を重視しているのかどうか、あるいはネガティブな予測を立てやすい傾向を示しているのかについては、さらに検討する必要があるだろう。

(引用文献)
村上幸史(2016). 言霊に関する態度と行為−不確実事象の予測の観点から− 日本社会心理学会第53回大会論文集, 235.
                  (MURAKAMI Koshi)

※この研究は日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号15K04049)の助成を受けた


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