発表

1A-005

現在のキャリア満足は過去の就職活動の意味づけを肯定化するか—青年期から中年期への縦断研究(Ⅰ)—

[責任発表者] 白井 利明:1
1:大阪教育大学

目 的
現在に満足していれば過去も満足するのであろうか。白井(2001)は,大学生の就職活動を振り返って満足とやり直し願望は卒業時には正の関連があるが,卒業2年目,5年目になると独立になることを縦断研究から示した。そこで,本研究は,さらに卒業8年目と,42歳という中年期にさしかかる時期の回想と意味づけの縦断データを加えて分析した。

方法
調査協力者:女性1名(42歳)。
調査時期:大学卒業2年目(企業を退職,教員採用試験受験),卒5年目(教師),卒8年目(結婚し,第一子を妊娠),42歳(教師,3人の子どもがいる)。
調査手続き:予め調査票への記入を求め,面接調査を行った。
調査内容:(a)現在のキャリア満足度「今の進路(職業,あるいは主婦)は満足していますか」と質問し,その程度を5件法で回答を求め,理由を聞いた(卒2年目は質問していない:以下,異なるものだけ記載)。 (b)現在のキャリア適合度「今の進路(職業,あるいは主婦)は自分に合っていると思いますか」。 (c)過去の就職活動満足度「今から振り返ってみて,4回生の時の就職活動や受験勉強は,満足できるものでしたか」(卒2年目は2件法)。(d)過去の就職活動のやり直し願望「できることならもう一度,4回生の時の就職活動や受験勉強をやり直してみたいと思いますか」(卒2年目は2件法)。(e)過去の就職活動の満足の回想「卒業する間際の当時,4回生の時の就職活動や受験勉強は,満足できると思っていましたか。忘れた場合は,想像でお答え下さい」(42歳時のみ)。

結果
現在のキャリアの満足:キャリア満足度は全ての時期で全く満足と回答していた。理由は,卒5年目は「子どもと過ごしている時間が楽しい」,卒8年目は「教師に憧れて会社を辞めて再スタートできた」,42歳時は「今,本当に幸せだから」だった。キャリア適合度は全ての時期で全くまたはかなり適合していると回答した。理由は,卒2年目は「人間関係を広く持ち,仕事をトータルにできる」(かなり適合),卒5年目は「情熱がある,声が大きい」(全く適合),卒8年目は「教師という仕事が大好きでこれからも続けたいと思っているから」(かなり適合),42歳時は「この仕事を気に入り楽しんでいるから」(全く適合)だった。
過去の就職活動の意味づけ:就職活動満足度は卒2年目は2件法で不満だったが,それ以外の時期ではやや満足と回答した。理由は,卒2年目は「就職活動も教員採用試験も中途半端」,卒5年目は「中途半端。教員採用試験の勉強が不満」,卒8年目は「一生懸命に勉強すればよかった」,42歳時は「中途半端。どっちにも言い訳を考えている」だった。過去の就職活動のやり直し願望は時期によって変化した。卒2年目は「やりなおしたい。教員採用試験1本にしぼっていた」,卒5年目は「全くやりなおしたいと思わない。子どもが好きなので」,卒8年目は「かなりやり直したい。企業に入れたことで勉強できたことはよかった。教師という仕事が大好きでこれからも続けたいと思っているから」,42歳時は「どちらともいえない。ストレートに教員採用試験に受かった友人は一生懸命にしている。違う職業に就いて後悔している」だった。
過去の就職活動の満足の回想:42歳時は,就職活動した当時はやや満足だったと回答し,「一般企業で夢を持っていた。株価が上昇し,女性がフランスに行っていた」とした。

考 察
現在のキャリアに満足しており,かつ過去の就職活動にも満足していた。つまり,大きな枠組みとしては,現在の状態への満足と過去への意味づけの肯定が一致した。語りからも,現在が満足しているから過去も満足しているといった理由づけが述べられた。そのため,現在の満足から過去の満足の一方的な規定性が示された。しかし,過去の就職活動の満足といっても語りの中身をみるならば必ずしも満足が示されているわけではなく,むしろ但し書きのような形で不満足な部分が述べられていた。それは当時の就職活動を中途半端とする評価である。この語りは時期によって変わらないものとなっており,したがって語り手にとって一種の「事実」のようなものかもしれない。そして,企業の働きかたに夢を持っていた自分が回想された。ただし,やり直し願望では,現在からの揺らぎが示された。ある時期では,企業で働いたことを意味あるものと捉え,別の時期では,教師一本にしなかったことを後悔した。つまり,過去の意味づけは人生の中で大きく変わるものではないだろうが,後の時点から振り返って別の選択肢があったかもしれないという可能性が言及されると後の時点の状態によって左右されることを示した。
以上から,第1に,大きくは現在が満足であれば過去も満足になること,第2に,過去から現在という方向はないこと,第3に,過去の基盤となる捉えかたは現在の満足に左右されない一貫した認知があることが示された。1事例であるため,一般化には慎重である。本事例は現在も過去も満足の事例であったが,今後は,現在も過去も不満足といった事例や現在と過去にねじれのある事例でも検討してみる必要がある。

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