発表

1A-004

Ratcliffの拡散モデルに基づくIATデータの分析(その2) 拡散モデルのIAT成分とDスコアとの関連,および,繰り返し測定における慣れについて

[責任発表者] 土居 淳子:1
[連名発表者] 土屋 秀光#:2, [連名発表者] 川西 千弘:1
1:京都光華女子大学, 2:スピナッチパワー

目 的
土居·川西(2014)では,母親の子どもや養育に対する被害(加害)意識をIATによって測定したデータをRatcliffの拡散モデルに当てはめることで,情報処理の「速さ」と「慎重さ」を分離推定できる可能性があることを報告した。しかし,通常のIATの実験デザインでは,誤答の反応時間ではなく刺激呈示から誤答が訂正されるまでの時間を記録するため,簡易推定法であるEZ法(Wagenmakersら,2007)しか適用することができないという問題があった。
本研究では,拡散モデルに適したIATを作成し,繰り返し測定調査を行い,拡散モデルによって推定されるIAT成分の安定性を検討する。また,Greenwaldらが提案する Dスコアとの比較を行う。加えて,繰り返し測定による「慣れ」や実験参加者の戦略の変化などが拡散モデルで検出できるかどうかを検討する。
方 法
参加者 大学生1年生14名(女子のみ)を対象とした。
調査概要 藤井ら(2014)の自尊心IATをベースに,ブロック5(逆カテゴリー弁別課題)の試行数を40,ブロック4(組み合わせ課題2)とブロック7(逆組み合わせ課題2)の試行数をそれぞれ100とし,誤答に対しては訂正入力を求めず,誤答までの時間を反応時間として記録した。連続する4日間とその4日後(初回から8日目)の同一時間帯に繰り返し測定を行った。
Dスコア 誤答に対して600msのペナルティを課すD4スコア(Greenwald et al., 2003)を用いた。
IATデータへの拡散モデルのあてはめ パラメータ推定には,組み合わせ課題(第3・4ブロック)と逆組み合わせ課題(第6・7ブロック)の,それぞれ120試行のデータを用いた(土居·川西,2016)。ただし,300ms未満の反応時間が5%を超える場合,誤答率が25%を超える場合は,その参加者のその日のデータは分析から除外した。また,参加者毎,実験毎にTukeyの基準によって反応時間の外れ値を検出し分析から除外した。200ms未満のデータも分析から除外した。
 7つのモデルパラメータのうち,z=0.5,s_v=0,s_z=0とし,参加者毎に,組み合わせ課題・逆組み合わせ課題それぞれにおける4つのパラメータ( a,v,t_0,s_t0)を推定し,(a,v )の差分(組み合わせ課題の値−逆組み合わせ課題の値)をIAT成分として算出した。IATaは意思決定の「慎重さ」の変化を,IATvは情報処理の「速さ」の変化を表す。
パラメータ推定の実行 土居ら(2015)が開発した分析ソフトウェアを用いて,KS法および最尤法によってIAT成分(IATa,IATv)を抽出した。推定された理論分布とデータの適合は良好であった。
結 果
KS法と最尤法の比較 KS法と最尤法からの推定値IATaの相関はr = .79 (p < .001) ,IATvの相関はr = .56 (p < .001) 。最尤法はKS法よりも高い精度で累積分布関数,正答率,四分位数を再現したが,その一方で,過剰適合により,他のデータと大きく異なる値を出力する傾向があった。以下ではKS法による結果のみを報告する。有意水準は5%とした。
推定されたIAT効果 繰り返し測定の結果は表1の通り。
表1 DスコアおよびIAT成分の平均と標準偏差
回NDスコアIATaIATv
112-0.52 (0.20)-0.05 (0.20)0.63 (0.69)
212-0.59 (0.21)0.06 (0.17)1.11 (0.84)
312-0.44 (0.22)-0.01 (0.13)0.55 (0.69)
413-0.49 (0.19)0.12 (0.20)0.84 (0.81)
513-0.50 (0.28)0.07 (0.11)0.81 (0.41)
推定結果の安定性 初回と2回目以降のDスコアとの相関は,2回目(r = .69,p = .020) ,3回目(r = .76,p = .004) ,
5回目( r = .78,p = .003) のみ有意な正の相関がみられた。
一方,IATv は1回目と2回目のみ有意な正の相関を示した(r = .67,p = .024) 。IATaは1回目とそれ以降では有意な相関はなかったが,2回目と4回目 (r = -.82 ,p = .002),2回目と5回目(r = .75 ,p = .008)が高い正の相関を示した。
Dスコアとの関連 初回の測定において,IATvとDスコアが有意な相関を示したが(r = -.71,p = .009) ,2回目以降の測定では有意な相関は観測されなかった。
慣れの効果の検出 1回目と2回目以降についてBonferroniの方法で対比較を行った結果,1回目と4回目のIATaの差(-0.174)のみ有意であった(p = .047)。

考 察
 本研究は予備調査的なものであるが,連日の調査に対して,参加者のパフォーマンスや戦略が変化している可能性が示唆される。IATaとIATvの再検査信頼性が低いのは,そのためかもしれない。この2つの指標の経時的な変化を追跡することにより,繰り返し測定における参加者の戦略変化を捉えられるかもしれない。今後の課題としたい。

引用文献
土居淳子·川西千弘 (2016). 拡散過程モデルによる潜在的連合テスト(IAT)データ分析の実際 京都光華女子大学研究紀要, 54, 31-42.
Voss, A., Nagler, M., & Lerche, V. (2013). Diffusion Models in
Experimental Psychology: A Practical Introduction. Experimental Psychology, 60, 385-402.
付記. 本研究は科学研究費補助金(基盤研究(c)課題番号25380988)の助成を受けて実施した。パラメータ推定ソフトウェアおよびデータ下処理プログラムは,Webサイト(http://www.koka.ac.jp/DFmodel/)で公開している。

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