発表

1A-003

心理学観を問う−TOS,IODを用いた心理学者および臨床家においての検討−

[責任発表者] 小田 友理恵:1
[連名発表者] 谷井 淳一:2, [連名発表者] 北村 英哉:3
1:法政大学, 2:ルーテル学院大学, 3:関西大学

目 的 
Poznanski & McLennan(1995)はカウンセラーと心理療法家の理論的志向性の概念化および測定に関する展望を行い,Coan(1979)のTheoretical Orientation Survey(以下,TOSとする)を唯一信頼性と妥当性のある尺度と報告している。小田・谷井・北村(2017)は,心理学観を測定するための尺度作成の試みとして,TOS-日本語版(「学習」「量的」「遺伝」「物理」「機械論」「行動」「全体」の7因子)および社会構成主義尺度(1因子)を作成した。また,特に臨床心理学において重要だと考えられる直観性と客観性を測定するための尺度(Shaffer, 1953)を翻訳し,Intuitive-Objective Dimension(以下,IODとする)日本語版(「直観性」「客観性」「投映法」の3因子)を作成した(小田他, 2017)。本研究では,上記3つの尺度を用いて,心理学者と臨床家,性別,年齢別の比較および,臨床家におけるオリエンテーションとの関連を調査した。
方 法
2016年7月下旬~9月下旬に,私立大学臨床心理学専攻修士課程在籍者および2016年3月修了生,日本パーソナリティ心理学会員および第31回国際心理学会議の参加者,日本臨床心理士会HPおよび日本臨床心理士会(2005)に掲載されている相談機関へのメールおよびファックスでの協力依頼に応じてくれた臨床心理士,縁故法で回答を依頼した臨床心理士,以上を対象者として,Survey Monkeyを利用して質問紙調査を行った。
質問紙は職業別に,性別と年齢の他,(1)IOD-日本語版14項目,(2)TOS-日本語版32項目,(3)社会構成主義尺度12項目(いずれも5件法),(4)実践に関する項目(臨床心理士のみ)で構成された。実践に関する項目として心理療法のオリエンテーションを尋ね,分析的/行動的/認知的/人間性中心/家族療法をそれぞれ5件法で評価してもらった。
結 果
 203名(22~71歳以上,M=38.77,SD=12.82)を対象に分析を行ったところ,以下の結果となった。
 各オリエンテーションで「大いに志向している」,「やや志向している」の2つのうちいずれかを選択した者を「志向性あり」とし,「どちらともいえない」,「あまり志向していない」,「全く志向していない」の3つのうちいずれかを選択した者は「志向性なし」として,下位尺度得点のt検定を行ったところ,以下の通り心理学観とオリエンテーションの関連が示唆された。「分析的/力動的」を志向する人は,しない人よりも「物理」得点が有意に低く(t(91)=2.32, p<.05),「投映法」得点は有意に高かった(t(91)=3.69, p<.01)。「行動的」を志向する人は,しない人よりも「行動」得点が有意に高く(t(91)=1.99, p<.05),「直観性」得点が有意に低かった (t(91)=2.24, p<.05)。「認知的」を志向する人は,しない人よりも「量的」得点と「行動」得点が有意に高かった(t(91)= 2.17, p<.05; t(91)=2.00, p<.05)。「人間性中心」を志向する人は,しない人よりも「学習」得点が有意に低かった(t(91)=1.99, p<.05)。「家族療法」を志向する人は,しない人よりも「行動」得点と社会構成主義尺度の得点が有意に高かった(t(91)=2.98, p<.01; t(91)=2.78, p<.01)。
 各下位尺度に関して,職業別(心理学者・臨床家の2水準)・性別(男性・女性の2水準)・年齢の群別(低群・中群・高群)に3要因分散分析の行った主要な結果は,以下の通りである。「量的」,「物理」,「客観性」得点で,職業の主効果があり,心理学者の方が臨床家よりも有意に高かった(F(1,165)=24.5, p<.01; F(1,165)=12.1, p<.01; F(1,165)=10.9, p<.01)。「量的」得点では性の主効果と年齢の主効果も有意であり(F(1,165) =8.1, p<.01, F(2,165)=4.3, p<.05),男性の方が女性より,年齢の高い人よりも低い人が量的研究を重視していることが明らかになった。(年齢についてTukey法による多重比較を行ったところ,高群<中群<低群の間に有意差がみられた。)「直観性」に関して,職業×性別×年齢の二次の交互作用が有意であったので(F(2,165)=3.8, p<.05),年齢水準における単純交互作用検定を行ったところ,年齢中群(35歳以上46歳以下)で有意であったため(F(1,165)=11.9, p<.01),続いて単純・単純主効果の検定を行った。その結果,年齢中群の心理学者および臨床家の性別の単純・単純主効果が有意であった(F(1,165)=5.2, p<.05; F(1,165)=6.9, p<.05)。すなわち,年齢中群においては,心理学者では女性の方が男性よりも,反対に臨床家では男性の方が女性よりも「直観性」の得点が高かった。
考 察
上記の結果から,心理学観とオリエンテーションに関連があることが示唆された。また,心理学者と臨床家という職業別,性別,年齢別の心理学観の違いも示された。
本研究の問題点として,心理学者として回答した協力者の中に,臨床実践を行っている人が相当数いると考えられる。現代の心理学観を反映する妥当性と信頼性の高い尺度を用いて,心理学者と臨床家を厳密に分けたうえで,本研究の結果をさらに確認していく必要がある。
引用文献
Coan, R. W. (1979). Psychologists: Personal and theoretical pathways. New York: Irvington publishers.
日本臨床心理士会 (2005). 臨床心理士に出会うには 第3版 創元社
小田友理恵・谷井淳一・北村英哉 (2017). 心理学観を測定する尺度作成の試み 日本パーソナリティ心理学会第26回大会発表論文集.
Poznanski, J. J., & McLennan, J. (1995). Conceptualizing and measuring counselors' theoretical orientation. Journal of Counseling Psychology, 42(4), 411-422.
Shaffer, L. F. (1953). Of whose reality I cannot doubt. American Psychologist, 8(11), 608-623.

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