発表

1A-001

思考リズムにおけるゆらぎとエントロピー

[責任発表者] 前田 優輔:1
[連名発表者] 鈴木 平:1
1:桜美林大学

1.目 的
システムの時間経過をともなう振舞いや活動はリズムとして表現されることがある。リズムは自己内部と外部の間でエネルギーを循環させることで発生する(北畑・吉川, 2005)。一般的にリズムは規則性のある振舞いを指すと考えられているが,生物におけるリズムは必ずしもそうではなく,目に見える振舞いあるいは目に見えない振舞いに関わらず常にゆらぎをともなっている。ゆらぎは不規則さの要因としてこれまで邪魔なものとして扱われてきた。しかし,Sakamoto et al.(2013)は問題解決時において,前頭前野の神経細胞活動のゆらぎ増加を報告しているように,ゆらぎは自己の質的変化と関係しているという側面も持っている。
今日,思考に対しては中枢神経系からのアプローチが主に行われているが,Miao et al.(2006)による指尖脈波の数理モデル作成や実験課題によって耳朶脈波や指尖脈波に現れる反応が異なるという先行研究(Miao et al.,2008 ;前田・鈴木, 2017)から,末梢神経系からもアプローチできる可能性が示唆されている。
そこで,本研究ではダイナミカルシステム・アプローチの観点から,指尖脈波を用いて思考中の脈波カオスのリズム的変化について検討した。
2.方 法
被対象者:首都圏の大学に在籍する学生7名
実験課題:長谷川式簡易知能評価スケールに用いられている100から7を順に引いていく計算課題と,ひらめきが求められるクイズ課題を4種類使用した。
生理指標:安静時と各課題遂行時にLyspect3.6.1((株)カオテック研究所製)を用いて利き手とは逆の手の第3指から指尖脈波を測定した。
最大リアプノフ指数とKSエントロピー:ともに複雑さを示すカオスの指標として用いられ,最大リアプノフ指数はゆらぎの指標としても扱われる(雄山, 2012)。
3.結果と考察
Lyspect3.6.1.((株)カオテック研究所製)とカオス検証・分析プログラムCHORUS((株)コンピュータコンビニエンス社製:現(株)TAOS研究所製)を用いてカオス解析を行い,最大リアプノフ指数とKSエントロピーを算出した。
3.1. 最大リアプノフ指数(LLE)
 繰り返しのある分散分析を行ったところ有意差が見られた(F(5,30)=11.29, p<.001)。さらに多重比較を行ったところ,安静時と各クイズ遂行時,計算時と各クイズ遂行時の間に有意差が見られた。いずれもクイズ遂行時の方がLLEの値が高く,複雑な思考中はリズムのゆらぎが増加することが示唆された。
さらに,LLEの時間推移をグラフ化したところ,計算課題時には対象者の多くに時間とともに減少するという類似した変化が見られた。その一方でクイズ時は個々人によって異なる変化を示していた。また,クイズ間に最大リアプノフ指数の平均値に有意差はなかったが,クイズの種類によって変化の仕方には差異があったことが伺える。
3.2. KSエントロピー
 繰り返しのある分散分析を行ったところ有意差が見られた(F(5,30)=4.87, p<.01)。多重比較の結果,安静時とクイズ1,クイズ4に有意差があり,クイズ2の間に有意差傾向が見られた。また,計算時とクイズ1,クイズ2,クイズ4の間にそれぞれ有意差があり,クイズ3との間には有意差傾向が見られた。これらのことから,クイズ遂行時には安静時ならびに計算時と比べてエントロピーは減少あるいは減少傾向にあることが推察される。
4.まとめ
 本研究より,思考のあり方が血流のゆらぎに影響を与えていることが明らかとなった。Schrödinger(1944)が生命は負のエントロピーを食べて生きていると述べたように,生命は自己内外で起こるエネルギー循環によって自己内部がエントロピーで満たされることを防ぐと同時にゆらぎを生み出している。複雑な思考を要する課題時には最大リアプノフ指数が増加し,エントロピーが減少していたように,思考においても生命のメカニズムが内包されていると考えられる。

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