発表

3C-093

職場パワーハラスメントの認識性と体験の性差

[責任発表者] 山廣 知美:1
[連名発表者] 津田 彰:1, [連名発表者] 鄧 科:2, [連名発表者] 仁位 百雲子:1, [連名発表者] 入江 正洋#:3
1:久留米大学, 2:久留米大学比較文化研究所, 3:九州大学健康科学センター

目 的
 近年,様々な種類のハラスメントが社会で問題視され,パワーハラスメント(以下,パワハラ)も例外ではない。厚生労働省(2012)「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると,過去3年間にパワハラを受けたことがある女性は23.9%,男性は26.5%であった。また,独立行政法人労働政策研究・研究機関(2014)(以下,JILPT)「第2回日本人の就業実態に関する総合調査」では,過去1年でいじめ・嫌がらせやパワハラと見られる行為を職場で受けた経験のある人が34%,そのうち3分の1がその行為をパワハラと認識しており,パワハラだと感じた割合は女性が若干高くなっている。しかしながら,これらの調査で示された性差について,統計的に有意な差があるかの実証的検討は行われていない。
 そこで本研究において,職場でのある行為や状況に関してそれがパワハラに該当すると思うかどうかの個人の判断(パワハラの認識性)を尋ねるとともに,また自分自身がそれを受けたことがある,職場で起こっているかどうか(パワハラの体験)について同一人に同時に質問する職場パワーハラスメント尺度(鄧・津田,2016)を用いて,パワハラの認識性とパワハラの体験の性差を実証的に検討することにした。
方 法
調査協力者
複数の企業(一般企業・病院・市役所など)の勤労者387名(男性175名,女性212名,年齢41.2±10.8歳)であった。
質問紙
職場パワーハラスメント尺度:「パワハラ行為(12項目)」「パワハラ状態(4項目)」「パワハラ態度(2項目)」の3下位尺度,18項目から構成されており,信頼性と妥当性の確認がなされている(鄧.津田,2016)。パワハラと思しき行為(項目例:気に入らない者に対して,わざと低く評価したり,異動させたり,やめさせようとする)と状態(項目例:上司の顔色を見て部下が行動している),態度(項目例:人から指摘されても、自分の過ちは認めない)についてのパワハラ項目に該当・関連するかの個人の判断(パワハラの認識性と称する)とそれらの言動を過去6ヶ月間の内に体験したかどうか(パワハラの体験と称する)を3段階で回答を求めた。得点が高い値であるほど「パワハラの認識性」ならびに「パワハラの体験」が高い。
結 果
【パワハラの認識性】
パワハラの認識性における3下位因子に関して,t検定を行った。その結果,パワハラの「状態」のみで、女性は男性と比較して有意にパワハラと認識した(t(385)=-3.2,p=.002,d=.16)。パワハラ行為とパワハラ態度の認識性には有意な性差はなかった。
【パワハラの体験】
 パワハラの体験における3下位因子得点については,いずれにおいても有意な性差はなかった。
考 察
本研究から,女性は男性よりもパワハラの状態をパワハラとして認識することが明らかになった。したがって「上司の顔色を見て行動している」といったパワハラ状態について,男性と女性では捉え方が異なることが考えられる。女性は,他者と働くこと,他者を助けたりケアしたりすること,及び親密さを価値ある目標と見なす(坂田,2014)。また管理職の女性は,上司との人間関係や,部下との人間関係がストレスの原因となり(金井他,1991),上司と同僚からのサポートがストレスを低減させること(小牧・田中,1993)も挙げられる。これらの点から,女性は仕事をする上で,良好な人間関係に重きを置いていることが考えられる。したがって,部下が上司に対して萎縮するといった人間関係が脅かされた状態を,パワハラに該当すると認識したのではないだろうか。
また,女性はパワハラ状態の認識性が高いにも関わらず,パワハラ状態の体験に関しては性差が見られなかった。このことから,男性はパワハラに該当する状態を女性と同様に体験しているのにも関わらず,その状態をパワハラであると認識することが女性に比べて少ないということが示唆された。
この点について,男性はその職場で将来もずっと働くことを前提に考え,上司からのサポートに対してより敏感に,肯定的になりやすいこと(小牧・田中,1993)から,男性は女性に比べ,部下が上司に気を遣っているような状態を否定的に捉えにくく,パワハラ状態の認識性が女性よりも低くなったと考えられる。
 パワハラの被害を防ぐためには,一人ひとりがパワハラを正しく理解し,自らの意識や言動を振り返る必要がある(入江,2015)。本研究においては,性別におけるパワハラ状態の認識性の差が実証されたが,今後はその他の個人間における差を更に検討することで,職場におけるパワハラの共通理解を得る一助と成り得るだろう。

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