発表

3C-059

条件文の否定をどうとらえるか:日常言語における条件文の否定

[責任発表者] 服部 郁子:1
[連名発表者] Guy Politzer#:2, [連名発表者] 服部 雅史:1, [連名発表者] Jean Baratgin#:3
1:立命館大学, 2:Institut Jean Nicod, 3:Laboratoire CHArt, University of Paris 8 / Institut Jean Nicod

目 的
 本研究では,フランス語で実施されたEgre and Politzer (2013)の実験1を日本語版で追試し,異なる言語における結果の再現性を検討した.Egreらは,日常言語における直説法条件文「もしAならばC」の否定は,基本的には「もしAならばおそらくCではない (if A, then possibly not C)」のように可能性を考慮した様相否定(modal negation)の解釈に基づくが,文脈や頻度などの制約といった付加情報が加わることによって,実質含意解釈(e.g., Johnson-Laird & Byrne, 2002)や仮定思考による条件否定解釈(e.g., Evans, Handley, & Over, 2003)に変わりうることを実験によって示した.文法的に異なる日本語において追試を行い,結果を比較した.
方 法
 実験参加者
立命館大学の学部生147名が参加した.そのうち10名のデータは以下の理由により分析対象から除外された:日本語が母国語でなく課題文の理解に支障があるケース1名,課題で求められた回答形式を満たしていないケース3名(否定でなく肯定形式による回答,誤字脱字により判別不能な回答),異なる話題に関する回答のケース6名(キャンセル料の必要性など).参加者は各条件にランダムに割り当てられた.
 課題とデザイン
Egre and Politzer (2013) の実験1の課題を日本語訳したものを用いた.課題は,1枚の用紙に印刷されたシナリオを読み,シナリオの中のセリフの欠けている部分を補うことであった.シナリオには二人の人物の会話が書かれており,被験者はその会話を目撃していると想像してシナリオを読むように求められた.会話のうち,第1話者の条件文を使ったセリフは完全に聞き取ることができたが,それに対する第2話者の返答は,「いや違うよ!」という冒頭以外は部分的にしか聞き取ることができなかった.冒頭の否定の言葉の続きは空白となっており,参加者はそれを埋めることを課題として求められた.回答の多様性が多くなりすぎることを回避するために,返答には数語の特定語を配置し制約を与えた.背景に雑音があったために,数語だけが聞こえ,残りは聞こえなかったという形で自然にこの制約を与えた.
シナリオの【】部を最小限に変更することによって,変数を操作した.第1変数は,条件文の確率P(if A, C)で3つの水準(高/低/無)を用意した.第2変数は,前件の確率P(A)で2水準(未知/1に近似)を用意した.
 あなたは,石田くんと佐藤くんが地元のサッカーチームについて会話しているのをみていると考えてください.佐藤くんはサッカーのファンですが,石田くんはあまり興味がありません.佐藤くんは,雨の場合には,【いつも/たいてい/ときどき】試合が開催されることを知っています.佐藤くんは【天気予報を確認してきませんでした/地元の天気予報を確認してきました.この天気予報はいつも正確です】.
 あなたは,次回の試合について知りたいと思っています.
石田くんが,「もし雨だったら,次の試合はキャンセルされるだろう」と言いました.佐藤くんが割り込むように何か言いました.しかし,彼の発言は騒音にさえぎられて,一部の単語しか聞こえませんでした.あなたに聞こえた単語とその順序は次のとおりです(×印は騒音で聞こえなかった部分を示します).
「いや違うよ!
××××雨××××試合××××キャンセル××××」
 あなたの課題は,佐藤くんの発言を復元することです.
佐藤くんが言った可能性の高い発言を考えて,下の点線の部分に記入してください.
「いや違うよ!
                         」

 頻度を表す副詞(いつも,たいてい,ときどき)は条件文「もし雨だったら,次の試合はキャンセルされるだろう」の3つの確率レベルを定義し,無,低,高という3つの確率を引き出す.天気予報についての佐藤君の知識(無知,雨について完全な信念)は前件の2つの確率水準(未知,1に近似)を定義する.
結 果 と 考 察
 実験の結果は,3人の分類者によって分類された(表1).分類が2人以上で一致しなかったものは分類不能とされた.
結果は,Egre and Politzer (2013)らの結果と非常に類似した傾向を示した.第1話者の発話を否定する文は条件文の形式で表現される割合が極めて高かった.また,可能性を表す法助動詞と後件の条件付確率の高さに関連性がみられた.

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