発表

3C-050

開口が母音の聴覚的イメージに与える影響

[責任発表者] 福田 景:1
[連名発表者] 岡田 斉:1
1:文教大学

目 的
 作動記憶の研究は、聴覚的イメージの生成に発声系が深く関与する可能性を示唆している(Baddeley & Logie, 1992)。さらに、言語音ばかりでなく、音の高さの記憶についても同様の効果が確認されており、非言語音のイメージや記憶にも発声系を含む構音ループが関わることも推測されている(Logie & Edworthy, 1986)。
 一方、音声知覚についてのモーター理論(Liberman & Matingly, 1985)は音声知覚と音声生成は本質的に運動的であると考え、両者の緊密な関係を仮定する。イメージが擬知覚的現象であることを考慮すると、このモデルも音声の聴覚的イメージを検討するうえで構音系の働きが重要であることを示唆するものと考えられる。
このような観点から岡田(1996)は、イメージが擬知覚的現象であることから実際に刺激を与えられずに想起する際にもモーター理論が使用されていると考え聴覚的イメージ生成時に構音抑制が与える効果を検討した。その結果、開口することによって構音系に妨害を加えることで、聴覚的イメージが阻害され、イメージの鮮明性が下がる効果が音声やそれに類する音のみに選択的に表れることが見出された。そこでは、開口条件は母音あの形でしか検討されておらず、開口の度合いが構音抑制にどのような影響を与えているかどうかは検討されていない。
 福田・岡田(2016)は開口状態で、声を出さずに母音をイメージさせた時、指示語と口形が一致した条件と不一致の条件では前者の鮮明性の平均値が有意に高いという結果を見出した。これにより、開口によりイメージの鮮明性が阻害されていることが推測される。
 そこで本研究では聴覚イメージの中でも発声可能な声5つの母音のイメージを喚起した時に、喚起した母音と同じ口の形である条件と異なる条件下で喚起されたイメージの鮮明性を測定し、口形によってその阻害度が変化するのかについて検討を行った。
方 法
実験参加者 文教大学大学生179名(男:47名、女:132名、平均年齢=19.63歳、SD=.76歳)が実験に参加した。
刺激 口形の刺激として母音5つ、想起を求める指示語として母音5つを組み合わせた25組をプロジェクターにより呈示した。呈示刺激はパワーポイントで作成し、文字は画面の中央に配置された。
課題 プロジェクターで投影された画面上に開口条件を示す母音一字が5秒間呈示され、実験参加者は呈示された音の形に開口する。その後指示語が25秒間呈示され、声を出さずに指示語をイメージする様教示された。実験参加者は、聞こえた音の自由記述、喚起されたイメージの鮮明性についての5段階評定と、口形を左端、指示音を右端においたVASにおいてイメージ音がどちらの音により近いかの3つを回答用紙へ記入することが求められた。
手続き 実験は大教室で集団的に実施した。実験参加者は各々の席に座り、実験者の指示に従って課題を実行した。3試行からなる練習試行を実施し、本試行を25回行った。課題中は指示された音に開口し続けることが求められた。
結 果
 イメージと口形が一致している課題では有意に鮮明性が高く、不一致であると鮮明性が低くなることから、開口によって音韻ループが抑制される事が確認された。
 図1において、口形別の鮮明性の平均値を示す。
 口の形が想起音の鮮明性に与える影響を分析するために分散分析を行った。その結果、口の形の効果が有意であった(F(4, 712)=2.74, p<.05)。「あ」と「え」の間に有意差があり、「あ」の口形では鮮明性が高くなる事が分かった。
また、想起音毎の鮮明性に与える影響については有意差は見られなかった(F(4, 712)=1.32, n.s.)。
考 察
想起音毎の鮮明性には口の効果を平均化したときの影響はないという事が言える。このことから、それぞれの母音間にイメージすることの難易度は無いと分かり、実験によって得られた鮮明性の値は口の形のみに影響されているという事が明らかとなった。
 個人内では「あ」と「え」の間に鮮明性に与える違いがあり、意識的に行われる口の形であるか否かと言う点で動作へ払うワーキングメモリの水準が上がったため、鮮明性が「え」においては低くなったと考えられる。
 今後は本実験のように外部から求められてイメージする音だけでなく、自発的に自然と浮かんだ音へも開口が鮮明性の点において影響を及ぼすか否かを検討する。
引用文献
Baddeley,A.& Logie,R. (1992) Auditory imagery and working memory. In Reisberg, D. (Ed), Auditory imagery PP.179-197, LEA Hillsdale,New Jersey.
福田 景・岡田 斉 (2016). 構音抑制が母音の聴覚的イメージに与える影響. 日本イメージ心理学会第17回大会抄録集, 12-13
岡田斉. (1996) 聴覚的イメージに構音抑制が及ぼす効果, 日本音響学会聴覚研究会資料

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