発表

3C-022

曖昧条件下での意思決定の慎重さと強迫傾向の関連

[責任発表者] 星野 翔:1
[連名発表者] 丹野 義彦:1
1:東京大学

目 的
 強迫症では,自分の行った意思決定にしっくりした感じをもてない「不完全感(incompleteness)」がしばしば報告される。不完全感は,過度に慎重になりすぎるなど意思決定の障害に関係するとされ,こうした意思決定の傾向は知覚的意思決定課題でも生じることがわかっている。たとえばRandom dot motion課題のいて,強迫症患者は提示刺激があいまいな時,健常群に比べて過度に回答に時間をかけてしまうことがわかっている(Banca et al., 2015)。
 こうした意思決定の傾向は,近年の拡散意思決定モデル(Diffusion Decision Model)を用いた反応時間解析で,実際に意思決定の慎重さが変化して生じることが報告されている。強迫症臨床群におけるRandom dot motion課題を用いた実験では,強迫症における意思決定の困難さは,意思決定の閾値(threshold)の上昇と関係することがわかっている(Banca et al., 2015)。健常群でも,強迫症状が高いほど意思決定の閾値を上昇する傾向が報告されている(Erhan & Balcı, 2017)。
 一方で,健常群での先行研究にはいまだ不明瞭な点が多い。Erhan & Balcı (2017)の検討は単一の刺激条件であり,強迫症状と意思決定の困難さの関係が刺激条件とどう関わるのかは明らかにされていない。また,特に強迫症状が高い群について,意思決定の困難さはある程度のレベルでとどまるのか,どこまでも高くなり続けるのか,など不明瞭な点がある。
 そこで本研究では,難易度が複数条件あるRandom dot motion課題を用いて、健常者のもつ強迫症傾向と意思決定行動の関係を考察する。また,比較的低いレベルでの強迫症状の高低と,強迫症が疑われるレベルでの強迫症状の高低で,意思決定行動と強迫症状の関係にどのような変化が生じるのかを検討する。
方 法
 現時点で30名の大学生健常者(女性16名)を対象に実験を実施した。
 強迫症状の高さをOCIを用いた質問紙調査で計測し,参加者をOCIのcut-off得点(42点)で高強迫群(9名)および低強迫群(21名)に分類した。
 質問紙調査の実施後,参加者はRandom dot motion課題を遂行した。本研究では,MATLAB R2016aを用いて実験課題を作成・提示した。実験は暗室内で行われ,観察距離は57cmだった。Random dot motion課題では,参加者は2000ms表示されるランダムに動く点の中から同じ方向へ同期して動くものを見つけ、その方向を左右どちらかで回答した。参加者は刺激消失前に,なるべく早く正確に回答するよう教示された。
 視覚刺激は中心視野に直径8.2degで提示された。課題の難易度は同期して動くドットの割合で定義され、6%,12%,24%,72%の4条件がランダムに提示された。1ブロックにつき各難易度は50回ずつ,計200回提示された。参加者は全2ブロック,合計400試行を完了した。

結 果
 それぞれの参加者について,Diffusion Decision Modelを用い,反応時間と正答率から意思決定時間と意思決定の閾値を計算した。その上で,高強迫群・低強迫群それぞれについて,意思決定の閾値に対しOCIの得点がどのように寄与するか,難易度(6%・12%・24%・72%)ごとに回帰分析を行い検討した。
 分析の結果,刺激が曖昧な難易度(6%・12%)において,高強迫群・低強迫群それぞれで,意思決定の閾値に対するOCIの得点の影響は異なっていた。高強迫群では,6%条件においてOCI得点は意思決定の閾値の低下を予測し(β=.-78,p<.05),12%条件でも同様の傾向がみられた(β=-.597, p<.10)。一方低強迫群では,6%条件でOCI得点は意思決定の閾値の増加を予測し(β=.63, p<.01),12%条件でも同様であった(β=.624, p<.01)。
 一方,刺激が比較的明瞭な難易度(24%・72%)においては,OCI得点は意思決定の閾値の増減を予測しなかった。
考 察
低強迫群においては先行研究と同様,OCI得点の高さが意思決定の閾値の上昇を予測したが,一方で高強迫群については先行研究と異なり,OCI得点の高さが意思決定の閾値の低下を予測した。cut-off得点前後での意思決定の様子の変化は、一貫した傾向を報告していたErhanらの報告とは異なる結果となった。ただし,本研究における高強迫群が低強迫群と比べサンプルが少ないため,高強迫群の振る舞いが低強迫群と逆になるのか,単に変化が小さくなるのかについて,より詳細に検討すべきだろう。
引用文献
Banca P. et al. (2015) Evidence accumulation in Obsessive-Compulsive Disorder: the role of uncertainty and monetary reward on perceptual decision-making thresholds. Neuropsyhchopharmacology. 40(5): 1192-1202.
Erhan C. & Balcı F. (2017) Obsessive compulsive features predict cautious decision strategies. The Quarterly Journal of Experimental Psychology. 70:1, 179-190.

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