発表

3C-003

日常生活における時間単位の心理的親近性 対比較法を用いた心理尺度の構成

[責任発表者] 森田 麻登:1
[連名発表者] 森島 泰則:2
1:植草学園大学, 2:国際基督教大学

目 的
 我々は,日常生活の中で時間を意識して過ごしている。例えば,1年後には博士論文を提出すると目標を立てて,指導教員に日々の進捗状況を相談する一方で,1カ月後の旅行の計画を立てて期待に胸はずませたり,1週間後の授業の準備に頭を悩ませたり,明日の食事のメニューを考えたり,今日の帰りの電車の時間を気にしたり,1時間後の会議のことを考えて憂鬱になったり,目の前の作成途中の資料の完成までの時間を見積もったり,このように,生活のあちこちで,年単位,週単位,時間単位,分単位,秒単位で時間を意識しているのである。また,時間の感じ方も様々な状況やパーソナリテイで異なっていることが知られている(森田,2012)。「楽しい時間は短く感じ,退屈や苦痛に感じる時間は長く感じる」という経験は誰でも思い当たることがあるだろう。Meck(2005)は,ある出来事が起きてから,どのくらいの速さで時間が過ぎているのか,あるいは,どのくらいの時間が経ったのかという内的な経験を心理的時間(psychological time)または,主観的時間(subjective time)と定義した。近年,心理的時間研究は心理学分野で注目されている。
 本研究では,健康な成人を対象に,普段の生活の中で意識している様々な時間単位について,その心理的な身近さ(心理的親近性)がどのような関係になっているのかを把握することを目的とした。用いる時間単位は,「年」「月」「曜日」「日」「時」「分」「秒」の7つであった。各時間単位について,一対比較法により,心理尺度値を算出することとした。

方 法
研究参加者 一般成人389名(男性192名,女性197名)が参加した。平均年齢は,22.39±8.87歳であった。
刺激 「年」「月」「曜日」「日」「時」「分」「秒」の7つの時間単位から2つずつを1対にして21項目作成し,これをランダムに上から1問目から21問目まで並べた回答用紙を作成した。なお,順序効果を相殺するため,回答用紙は2つのバージョンを作成し,カウンターバランスをとった。
手続き 回答用紙を実験参加者に配布し,実験参加者のペースで回答してもらった。最初に実験の内容について説明し,インフォームドコンセントの後,練習,本番を行った。教示は,「2つの時間単位が1対出てきます。この2つの単位は,「年」「月」「曜日」「日」「時」「分」「秒」の7つです。この2つの時間について,あなたにとってより身近に感じる方を丸で囲んでください。なかなか決まらない場合であっても,必ずどちらか選んでください」であった。
データ分析 列刺激が行刺激よりも身近に感じられると判断された度数を集計し,度数行列を作成した(対角の位置の度数の和は,判断度数(N)と等しくなるようにした)。それぞれのセルに対する選択確率を求めるため,列ごとに度数の合計値を算出し,各セルの度数を判断度数(N)で割って比率を求め,比率行列を作成した。刺激間の相対的距離を算出するため,比率行列の値をMicrosoft Excelの関数“NORMSINV”を用いて計算し,尺度距離行列を作成した。尺度距離行列の平均値を求め,各時間単位の心理尺度値とした。

結 果
 親近性の高い時間単位(身近な方)から,「時」「曜日」「日」「分」「月」「年」「秒」となった。「時」「曜日」「日」は比較的身近に感じられている一方で,「秒」と「年」の位置は他と比べて大幅に尺度値が離れており,身近でないと感じていることが明らかになった。

考 察
 本研究は,時間単位についての心理尺度値を算出することをねらい,健康な成人に対して,7つの時間単位を用いた心理的親近性(身近さ)の一対比較を行った。その結果,「時」や「曜日」を身近に感じ,「秒」や「年」については身近に感じないという結果が明らかになった。
 今回の研究参加者の多くは大学生,もしくは社会人や主婦であり,授業,仕事,家事や育児などで忙しく日々を過ごしていることが推察される。そのため,日々の生活の中で最も自分自身の行動の基準となりやすい単位を身近に感じていたのではないかと考えられる。一般的に日々の予定は「時」「曜日」「日」「分」は欠かせない要素であろう。この時間単位を常に意識していなければ,日常の“やるべきこと”をこなすことはおそらく難しくなるであろう。このことは,「秒」や「年」の身近さが低くなったこととも合致している。なぜならば,「秒」や「年」は,日々の生活の中で“やるべきこと”をこなす際,時計の秒針や今が何年であるかということを意識しないことも多く,これらを気にしなくても大きな問題を生じることが少ないからであろう。確かに,秒単位に意識を向けなくてはならないような,陸上競技,競泳などのスポーツや料理も存在するが,我々の日々の生活の大半は,せいぜい短くても分単位であると考えられる。
 今後,秒単位の記録を競う競技に従事しているアスリートを対象にして,時間単位の心理的親近性,特に「秒」という単位に対する親近性が,今回の結果とどの程度異なっているかどうか検討してみたい。また,時間の感じ方が異なると言われている,子ども,高齢者,精神障害者や発達障害者の時間単位の心理的親近性についても検討してみたい。

引用文献
Meck, W. H. (2005). Neuropsychology of timing and time perception. Brain and Cognition, 58, 1-8.
森田麻登 (2012). 抑うつ傾向と感情価が心理的時間に及ぼす影響 パーソナリティ研究, 20, 167-178.

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