発表

3B-056

非日本語母語話者を対象とした日本語による司法面接 日本語版NICHDプロトコルを用いた検討

[責任発表者] 羽渕 由子:1
1:徳山大学

目 的
近年,日本で生活する外国人の数が増えており,日常生活の中で事件や事故などに遭遇し,当事者あるいは目撃者として供述をおこなう事態も増えている。日本で暮らす外国人数を国籍別に見ると,中国が全体の約30%を占め,以下,韓国,フィリピン,ブラジル,ベトナムの順で,上位の5か国で全体の75%を占めている(法務省, 2016)。一方で,英語以外の言語を用いて聴取や面接をおこなえる担当者は少なく,通訳人の数も不足しているので,初動捜査の段階では身近にいる両言語がわかる人に通訳を頼んだり,身振り手振りや筆談によって聴取が進められたりすることがある。しかし,このような聴取には限界がある。また,聴取場面では,非母語話者に配慮するつもりでYES-NO質問をおこなうことがあるが,誘導になったり記憶の汚染を生じさせたりして,証言の正確性や信頼性を低下させる恐れもある。
 以上のような,面接者と被面接者との言語的なミスマッチや面接に関する知識不足による弊害を解決する一つの方法として,子どもを対象としてアメリカの国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)が開発した司法面接(forensic interview)の手法および日本語訳されたプロトコル(仲, 2010)を用いる方法が考えられる。非日本語母語話者に日本語で面接をおこなう妥当性については,以下の2点が挙げられる。
(1)定住外国人の約60%が母語以外でわかる言語として「日本語」を挙げていること(岩田, 2010)
(2)日本で生活する外国人向けの平易な日本語(やさしい日本語)の基準がN4(小学校3年生の国語の教科書が終了したレベルの語彙)以下であること
 本研究では,子どもを対象として開発された司法面接を非日本語母語話者に適用し,発話数および発語数の観点から母語話者および自由再生との比較をおこなうことによって,利用可能性の検討をおこなうことにした。

方 法
実験計画 2(言語:母語/非母語)×2(報告方法:自由再生/NICHDプロトコルを用いた司法面接)。両要因とも被験者間変数。
実験参加者 大学生28名(日本人13名,留学生15名)
材料 約1分の疑似事件映像,日本語版NICHDプロトコル
装置 DELL XPS15,24インチワイドスクリーンディスプレイ,ヘッドフォン。
手続き 個別実験であった。実験参加者は約1分間の映像を見た後,その映像について母語で記述による自由報告をおこない,その後,日本人面接者に日本語で内容について口頭で報告をおこなうように教示された。1週間後,自由再生群は1週間前に見た映像について日本語で口頭報告をおこなうように教示された。司法面接群はNICHDプロトコルの最小限の手続きに従って日本語で面接がおこなわれた。

結 果
各群の平均発話数および平均発語数を表1,表2に示す。
発話数 各参加者の発話数について,2 (言語)×2(報告の方法)の2要因分散分析をおこなった結果,言語の主効果[F(1, 24)=10.27, p<.01], 報告の方法の主効果[F(1, 24)=88.10, p<.01],および,交互作用が有意であった[F(1,24)=6.19, p<.05]。単純主効果の検定をおこなった結果,司法面接による報告では母語話者よりも非母語話者の方が有意に発話数が多いことが示された。
表1 各条件における平均発話数(SD)
   司法面接  自由再生
母語話者55.4(19.9) 8.9(4.9)
非母語話者93.8(30.4)13.7(4.4)

発語数 各参加者の発話の中の自由形態素(名詞,動詞,形容詞,形容動詞,特殊語)の数について,形態素解析プログラム(茶筅)を用いて解析後,2 (言語)×2(報告の方法)の2要因の分散分析をおこなった。その結果,報告の方法の主効果のみ傾向差がみられた[F(1, 24)=3.48, p<.10]。言語[F(1,24)=.20, n.s.]および, 交互作用は有意ではなかった[F(1,24)=.09, n.s.]。
表2 各条件における平均発語数(SD)
   司法面接   自由再生
母語話者919.6(271.8)510.6(654.9)
非母語話者1112.4(1093.4)551.7(244.9)

考 察
司法面接の方が自由報告に比べて発話数が多いことが示され,その効果は非母語話者の方がより大きいことが示された。以上の結果から,司法面接は自由報告よりも情報を引き出すことができること,および,その効果は言語の産出に制約のある対象者(非母語話者)でより大きいことが示された。
今後は,報告内容の質的な分析をおこない,利用可能性についてさらに検討をおこなう予定である。

引用文献
法務省入国管理局(2016).出入国管理(平成28年度版)Retrieved from http://www.moj.go.jp/content/001211223.pdf(2017年5月19日).
岩田一成(2010).言語サービスにおける英語志向—「生活のための日本語:全国調査」結果と広島の事例から 社会言語科学,13,81-94.
仲 真紀子(2010).NICHDプロトコルにもとづく司法面接の最小限の手続き(2010.10) Retrieved from http://forensic-interviews.jp/_obj/_modrewrite/doc/fi-20170522_276_3.pdf(2015年1月23日).

※本研究はJSPS科研費26101710および国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)による研究成果の一部である。

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