発表

3B-023

夢想起の発達差に関する研究 —高齢者・大学生・高校生の夢の頻度と内容に関する比較—

[責任発表者] 松田 英子:1
[連名発表者] 岡田 斉:2
1:東洋大学, 2:文教大学

目 的
健常な老化に伴う認知機能の低下は,夢想起に影響を与える。夢の認知モデルではイベントの知覚や記憶の保存や検索が夢想起の活性化に関わるため,夢想起頻度は大学生以降の成人期初期から男女とも加齢に伴い減少するのが一般的である(Funkhouser, et al., 1999)。またWaterman(1991)は高齢期になると夢の中の情動的要素が減ると指摘している。大規模データで夢想起の発達差と性差を縦断的に調査したGiambra, et al.(1996)では,減少のピークは20代から30代にかけて起こった。そこで本研究は,高齢者と大学生と高校生を対象に,夢や悪夢の頻度と内容を比較検証した
方 法
 調査協力者:関東圏の私立高校および公立高校に通う高校生142名(男48名,女94名;平均年齢16.73歳±1.10歳),関東圏の私立大学に通う大学生248名(男82名,女166名;平均年齢19.98歳±1.64歳),関東圏在住の健康心理教育に関する講義の受講者である健常高齢者111名(男46名,女55名,性別不明10名;平均年齢79.46歳±11.165歳)計501名に,質問紙調査協力への承諾を得た。調査への回答は自記式で行われた。 調査時期:2015年10月~2016年3月 変数:A)夢想起頻度(現在)とB)悪夢頻度(現在),C)人生において夢を良く見ていた時期(高齢者は8件法,大学生は7件法,高校生は5件法),D)一番最近見た夢内容,E)これまでで一番怖かった悪夢の内容,F) これまでみる内容で忘れられない夢の内容 データの分析:夢の頻度に関する分析は,SPSS ver.19,夢の内容に関する分析はKH Coder Ver.2.00f(樋口,2015)で行った。倫理的配慮:調査は無記名式で,個人情報の保護に努めた。調査の目的等を説明し,任意参加であること,回答中でもいつでも参加を放棄できることを伝えた。東洋大学大学院社会学研究科の倫理委員会の承認を得ている。
結 果
 夢想起頻度の分析 A)夢想起頻度(現在)は高校生の方が大学生と高齢者より頻度が有意に多く,女性の方が男性より有意に多かった。B)悪夢頻度(現在)は高校生の方が大学生と高齢者より有意に多く,女性の方が男性より有意に多かった。いずれも年齢と性の交互作用は見られなかった。C)人生において夢を良く見ていた時期は, 高齢者は50歳代(平均= 6.089,SD=2.119),大学生は13~15歳(平均=4.371,SD= 1.418),13~15歳(平均=3.849,SD=.9301)であった。夢内容の記述量の分析 夢内容を記載した割合は, 高齢者がD)57.7%,E) 45.0%,F)30.6%, 大学生D)86.3%,E)94.0%, F)66.9%, 高校生がD)67.6%,E)80.3%,F) 66.9%であった。χ2検定の結果,D)最近の夢内容およびF)忘れられない夢の内容は大学生が高校生・高齢者より多く,E)最近の悪夢の内容は大学生・高校生が高齢者より多く記載していた。また, D)一番最近見た夢内容には記載の割合に性差がみられなかったもののE)最近の悪夢の内容とF)忘れられない夢の内容において,女性の方が男性より多く回答していた。D)最近見た夢の内容, E)一番怖かった悪夢の内容, F)忘れられない夢の内容のいずれも大学生の方が高齢者や高校生より記述量が多く, 女性の方が男性より多かった。夢内容の分析に関する分析 夢内容の自由記述の分析から,出現回数が2回以上で,Jaccard係数が0.5以上を示す語を共起ネットワークの分析の対象とした。特徴語の分析から,高齢者はD)見る,仕事,母,旅行,遅れる,トイレ,亡くなる,出来る,前,怖い,E)追いかける,走れる,落ちる,歳,悪夢,亡くなる,覚める,追う,いつ,子ども,F)亡くなる,来る,兄,父,現実,登る,気がつく,夫,娘,正夢の語の出現がみられた。大学生はD)夢,自分,人,行く,友達,友人,出る,見る,遊ぶ,サークル,E)夢,追いかける,人,自分,殺す,見る,逃げる,持つ,家,出る,F)夢,見る,自分,人,出る,家,追いかける,忘れる,怖い,逃げるといった語の出現がみられた。高校生はD)友達,学校,死ぬ,銃,出かける,持つ,クラス,飛ぶ,遅刻,部活動,E)夢,殺す,死ぬ,落ちる,家族,殺人,襲う,飛び降りる,撃つ,包丁,F)追いかける,死ぬ,殺す,落ちる,行く,知る,家族,好き,空,殺人の語が出現していた。
考 察
夢および悪夢想起頻度において,いずれも大学生や高校生の方が高齢者より多く,性差においては女性の方が男性より多いが,性差は加齢とともに減少するとの結果となり,先行研究の知見を頑健なものとした。この結果は,10代から90代までの夢想起頻度を調査したGiambra, et al.(1996)による20代と30代の間に夢想起頻度が急激に低下するが,男性の方が女性よりという結果と一致している。この現象は,加齢に伴う視覚記憶の保存や検索力の低下やレム睡眠の小規模な減少(Giambra, et al., 1996)や忙しい日常生活によって夢に関する関心が低下することや疲労,アルコールや睡眠薬の服用の複合的によると推察している(Funkhouser, et al., 1996)。また,夢の長さについては,Waterman (1991)が加齢の影響によって夢の長さが減少することを見出している。これは,本研究において大学生より高齢者での語数が減少する結果と一致している。高校生の語数が高齢者より少ないことについては今後の検討課題である。想起された特徴語の分析から,夢想起者が体験するイベントと関連しているといえよう。悪夢においては3群とも,追いかける,殺す,死ぬ,亡くなる,落ちるといった語が共通してみられた。
正常な老化の影響による認知機能の低下が,夢想起頻度の低下や夢内容の乏しさに影響している可能性が示唆された。さらに認知症などの病的な認知的機能の低下との比較などさらに検証することが今後の課題である。
引 用 文 献
Funkhouser, A.T., Hirsbrunner, H.P., Cornu, C., & Bahrg, M. (1999). Dreams and dreaming among the elderly: an overview. Aging & Mental Health. 3(1), Pp.10-20.
Giambra, L.M., Jung, R.E., & Grodsky, A. (1996) Age Changes in Dream Recall in Adulthood. Dreaming.6(1), Pp17-31.
樋口耕一(2015).社会調査のための計量テキスト分析. ナカニシヤ出版
Waterman, D. (1991). Aging and memory for dreams. Perceptual and Motor skills, 73, 355-365.

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