発表

3B-008

友人間における偏見の類似性 イスラム教徒に対する顕在・潜在的態度を用いて

[責任発表者] 波多野 文:1
[連名発表者] 榊 美知子:1,2, [連名発表者] 小宮 あすか:3, [連名発表者] 増田 直紀#:4, [連名発表者] 村山 航#:1,2
1:高知工科大学, 2:レディング大学, 3:広島大学, 4:ブリストル大学

目 的
 近年,テロや紛争の増加に伴い,ヨーロッパ諸国ではイスラム教徒の移民に対する偏見や差別が問題となっている(Strabac & Listhaug, 2008)。偏見は,友人間のコミュニケーションにより強化されるなど,社会的な人間関係の影響を受けることがこれまでにも指摘されている(Lyons & Kashima, 2003)。本研究では,イスラム教徒への偏見が友人間でどのように類似しているかを検討した。具体的には,友人同士ペアになってイスラム教徒に対するネガティブなステレオタイプを測定する実験に参加してもらい,潜在指標,顕在指標がペア内でどの程度類似するかを検討した。

方 法
 実験参加者 イギリスレディング大学の学生106名(男性17名, 女性89名, 平均年齢19.4歳, SD = 3.22)が実験に参加した。
 材料 イスラム教徒に一般的な名前(Hakim,Sharifなど)と,その他の名前(Matthais, Philippeなど)5単語ずつと,ポジティブ語(Happy Joyなど),ネガティブ語(Failue, Agoryなど)それぞれ5単語ずつの計20単語を使用した。
 手続き Greenwald, Nosek, and Banaji (2003)にもとづき,潜在連合テストを実施した。参加者は,7つの反応ブロックにおいて,2種類の概念カテゴリー(イスラム教徒とその他の教徒)と,2種類の属性カテゴリー(ポジティブ,ネガティブ)に関連する単語を,指示されたカテゴリーへと素早く,正確に分類するよう求められた。潜在連合テスト終了後,イスラム教徒に対する顕在的な態度を測定するため,Greenwald, McGhee, & Schwartz (1998) にならい,悪い-良い,親しみにくい-親しみやすい,醜い-美しい,不誠実な-誠実な,嫌な-素敵な,の5項目に対してSD法(7段階)による回答を求めた。さらに,感情温度計を用いてイスラム教徒の温かさを10段階で(1: 冷たい-10: 温かい)評定してもらい,実験は終了した。参加者は,それぞれ友人同士ペアになり,二人で同時に同様の手続きを実施した。

結 果
 ペアとしてデータを取得できなかった参加者,イスラム教徒同士でペアとなっていた参加者を除く,90名分のデータを分析に使用した。
 Greenwald, Nosek, and Banaji (2003)にならい,Dスコアを算出した。イスラム教徒へのネガティブステレオタイプ尺度は,それぞれ下位尺度得点を算出した。Dスコアを潜在指標,イスラム教徒へのステレオタイプ尺度の下位尺度得点を顕在指標とした。それぞれの指標に対し,友人同士の反応の類似性を検討するため,ペアを要因とした一要因の分散分析を行い,ペア間の分散とペア内の分散から級内相関係数を算出した(表1)。級内相関係数が正の値であれば,友人同士の反応が類似していることを表す。検定の結果,顕在指標の級内相関係数は5%水準で有意であった(SD法: F (44,45) = 1.94, p <.05, 感情温度計: F (44, 45) = 1.70, p <.05)。潜在指標の級内相関係数は有意でなかった(F (44, 45) = 1.29, p >.05)。すなわち,イスラム教徒への顕在的なステレオタイプは友人同士で類似する傾向があるが,潜在的なステレオタイプは類似しないことが明らかになった。
考 察
 実験の結果,表面的なステレオタイプは友人同士で類似することが明らかになった。これらの結果は,イスラム教徒に対する偏見に社会的な友人関係が影響する可能性を示唆している。また,友人同士で類似するのは顕在的ステレオタイプのみであることから,社会的な影響は特に表面的な態度や行動に影響を与える可能性がある。しかし,このような友人同士の類似性が,友人関係を通じて偏見が伝染したために生じたのか,そもそも類似していたために友人関係が形成されたのかは明らかでないため,今後は縦断調査を用いたさらなる検討が必要である。

引用文献
Greenwald, A. G., McGhee, D. E., & Schwartz, J. L. K. (1998). Measuring individual differences in implicit cognition: The implicit association test. Journal of Personality and Social Psychology, 74(6), 1464–1480.
Greenwald, A. G., Nosek, B. A., & Banaji, M. R. (2003). Understanding and using the Implicit Association Test: I. An improved scoring algorithm. Journal of Personality and Social Psychology, 85(2), 197–216.
Lyons, A., & Kashima, Y. (2003). How are stereotypes maintained trough communication? the influence of stereotype Sharedness. Journal of Personality and Social Psychology, 85(6), 989–1005.
Strabac, Z., & Listhaug, O. (2008). Anti-Muslim prejudice in Europe: A multilevel analysis of survey data from 30 countries. Social Science Research, 37(1), 268–286.

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