発表

3A-071

顔部位が表情認識に及ぼす影響に関する発達的検討

[責任発表者] 枡田 恵:1,2
[連名発表者] 野村 理朗:1
1:京都大学, 2:日本学術振興会

目 的
 表情から適切に感情を推測することは,他者と円滑なコミュニケーションを行う上で重要であり,こうした能力は幼児期に著しく発達することが多くの研究で示されている。それに加え,表情の部位や部分表情から感情を認識することも5歳頃から可能になり,感情の種類に応じて,感情を認識しやすい表情の部分が異なることも示されている (Gagnon, Gosselin, & Maassarani,2014; Kestenbaum, 1992)。また,部分表情から感情を認識できるだけでなく,Masuda, Gosselin, & Nomura (submitted)では,幼児が表情を似顔絵のパーツを用いて作成する際に,眉や目,口に対して,ターゲット感情の特徴を表す部位を選ぶことも示された。このように,幼児が表情の部位に関する知識を保持していることが明らかになってきたが,表情全体を認識する際に,これら表情の部位が感情判断にどのように影響するかについては,不明である。そこで,本研究では,形状や向きなど様々な特徴を持つ顔部位からなる表情について,幼児に感情判断をさせることで,顔部位が表情認識に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

方 法
【参加児】
本研究の参加児は,幼稚園に通う4歳児から6歳児42名であり,年中児群22名 (男児9名, 女児13名; M = 5.25歳),年長児群20名 (男児10名, 女児10名; M = 6.42歳) であった。
【材料】
本研究の刺激には,表情パズル課題 (Masuda, et al., submitted) で幼児により作成された4感情の表情 (喜び,悲しみ,怒り,驚き) のうち,成人の評定に基づき選ばれた表情24枚を用いた。パーツの角度や向きの違い,また,ターゲットとなる感情の特徴ではないパーツが,感情の判断にどのように影響するかを調べるために,以下に示す3つのカテゴリを設け,カテゴリにつき各感情2枚ずつ含まれていた。
(1) 典型表情: 成人による評定において,ターゲット感情の評定値が高かったもの
(2) 非典型表情: 眉,目,口において,典型表情と同じパーツが使用されたが,パーツの角度や向き,位置が異なるために,(1) に比べ,ターゲット感情の評定値が高くなかったもの
(3) 混同表情: 成人による評定において,主に2種類の感情での混同が見られたもの
また,4つの感情名のラベルをつけた箱を用意した。
【手続き】
参加児が,4つの感情の箱を識別できたことを確認した後,本試行を行った。本試行では,参加児は,1枚ずつ提示される表情写真をみて,表情が表していると思う感情を判断し,その写真を,判断した感情に対応した箱に入れるよう教示された。

結 果
 典型表情については,すべての感情において,年中児群,年長児群ともにほとんどの参加児がターゲットとなる感情と判断した。非典型表情については,喜びや驚きでは,多くがターゲット感情と判断した一方で,悲しみと怒りでは,ターゲット感情と判断する参加児が少なく, 悲しみの非典型表情では怒り,怒りの非典型表情では悲しみと判断する参加児が多かった。混同表情では,喜び (h5) において,年長児群ではチャンスレベルより有意に喜びと回答したが (p < .01), 年中児群ではチャンスレベルであった。

考 察
悲しみにおいて,典型表情と非典型表情の違いは,眉の角度であったが,非典型表情では多くの参加児が怒りと判断した。この結果から,幼児であっても,怒りと悲しみ表情の判断には,眉の角度が影響することが示唆された。喜びの混同表情 (h5) は,学齢による違いが見られたが,これはこの刺激では,喜びの1つの特徴である口角の上がった口とは異なるパーツが使用された影響だと考えられた。つまり,年中児は年長児よりも,喜びの判断をする際に,喜びの特徴を持つ目と口の双方を手がかりにする傾向が強い可能性が示された。
このように本研究は,表情の1つの部位の形状や向きの違いにより,幼児の表情認識が変化することを示し,幼児期の表情認識のメカニズム解明に新たな知見を提供したといえる。

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