発表

3A-068

文化的自己観と感情認識の関連

[責任発表者] 池田 慎之介:1
1:東京大学

目 的
 相手の表情から感情を読み取ることは,日々のコミュニケーションにおいて重要であろう。多くの研究により,喜びや怒りなどの基本的感情は,文化を越えて認識できることが示されてきた (e.g., Ekman, 1992)。しかし,感じた感情をどの程度表出するかについては,文化差が指摘されており,日本人はアメリカ人に比べ感情表出を抑制する傾向が示されている (Matsumoto et al., 1998)。
 この時,表情の抑制には,複数の顔面筋をコントロールする必要がある。笑顔などを抑制するためには,大頬骨筋と眼輪筋という2つの筋肉の操作が必要だが,眼輪筋は大頬骨筋に比べ意識的なコントロールが難しいとされている (Ekman & Friesen, 1975)。そのため,口よりも目の方が,本当の感情を示す手掛かりであると考えられる (Ekman et al., 1988)。
 この目と口という2つの手掛かりについて,日本人は目を重視する一方で,アメリカ人は口を重視して相手の感情を判断するという文化差も報告されている (Yuki et al., 2007)。この点について,日本人は相互協調的自己観が優勢な一方アメリカ人は相互独立的自己観が優勢であり (Markus & Kitayama, 1991),相互協調性が強いほど,本当の感情を表すと考えられる声が伝える感情に敏感であることも踏まえると (Ishii et al., 2009; Rosenthal & DePaulo, 1979),日本人は相互協調性が優勢なため,口に比べ本当の感情を反映しやすい目に敏感であった可能性が考えられる。
 そのため本研究では,日本人を対象として文化内比較を行うことで,文化的自己観と,表情から感情を読み取る際の手掛かり使用の傾向について検討する。もし両者に関係があるのであれば,相互協調性の高さは目を重視する傾向と,相互独立性の高さは口を重視する傾向と関連すると考えられる。
方 法
参加者 大学生40名 (M = 19.58歳, SD = 1.01) が参加した。 
材料 文化的自己観を測定するため,文化的自己観尺度 (高田, 1996) を使用した。また,実験で用いる表情刺激として,4人の女性の喜び表情と悲しみ表情の写真 (ATR- Promotions, 2006) を用い,各表情の目を切り取りもう一方に張り付けることで,目も口も喜び,目は喜びで口は悲しみ,目は悲しみで口は喜び,目も口も悲しみ (以下それぞれ,目喜口喜,目喜口悲,目悲口喜,目悲口悲とする) の4種類の表情を作成した。画像の編集にはPhotoFiltre ver.6.5.3を用いた。刺激の提示には,PsychoPy ver.1.82を使用した。
手続き 参加者はあらかじめ文化的自己観尺度に回答したのち,別室に移り個別に実験に参加した。実験では,4人の写真それぞれに4つずつの表情が提示されたため,全16試行であった。また,本試行では用いられない別人の喜び表情と中立表情が,練習試行として初めに提示された。参加者は,各表情写真を見て,1. 非常に悲しんでいる—9.非常に喜んでいるの9件法で評定を行った。
得点化 文化的自己観尺度は,協調性10項目と独立性10項目からなり,各10—70点で算出し,実験では,表情の4パターンについて,評定値の平均を1—9点で算出した。
結 果
 初めに,協調性得点から独立性得点を引き,差得点の大きい協調性高群 (n = 20) と残りの協調性低群 (n = 20) に群分けを行った。評定値に対し,2 (群) ×4 (表情) の分散分析を行ったところ,表情の主効果が有意であり (F(3, 114) = 187.53, p < .001),群分けの主効果と交互作用は有意にならなかった (ps > .1)。表情の主効果が有意になったため,holmの方法で多重比較を行ったところ,全ての表情間の差が有意になった (ps < .01; 図)。自己観の群に関係なく,目喜口悲より目悲口喜の方が喜んでいると評定されたと言える。
 次に,全参加者を対象として,協調性・独立性得点と,目喜口悲,目悲口喜の評定値との相関を検討したが,いずれも有意な相関は見られなかった (表)。文化的自己観と手掛かり使用に関連は示されなかった。
考 察
協調性高群と低群で,表情の評定に違いは見られなかった。また,協調性と目を重視する傾向,独立性と口を重視する傾向にも関連性は見られなかった。これらのことから,文化的自己観と表情認識には関連は無かったと考えられる。
 さらに本研究では,目喜口悲よりも目悲口喜の方が喜んでいると評定されおり,口の影響が強かったと言える。これはYuki et al. (2007) とは異なる結果である。この理由として,Yuki et al. (2007) では欧米人の表情写真を用いていたのに対し,本研究では日本人の表情写真を用いていたことが考えられる。日本人の表情では,相対的に目が小さく,感情認識に与える影響が小さくなっているのかもしれない。今後は,被写体の人種が与える影響も併せて検討する必要があるだろう。
引用文献
Yuki, M., Maddux, W. W., & Masuda, T. (2007). Are the windows to the soul the same in the East and West? Cultural differences in using the eyes and mouth as cues to recognize emotions in Japan and the United States. Journal of Experimental Social Psychology, 43, 303–311.

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