発表

3A-059

情景画像を用いた視覚性ワーキングメモリの容量限界の検討

[責任発表者] 李 琦:1
[連名発表者] 鈴木 淳之介#:1, [連名発表者] 横澤 一彦:1
1:東京大学

目 的
 視覚性ワーキングメモリが保持できる物体の数は、物体の複雑さによって変わるのだろうか?この問題は、視覚性ワーキングメモリ理論モデルにおける核心的課題である。視覚性ワーキングメモリには、2つの代表的な理論モデルがある。スロットモデル(slot model)では、人間が一度に記憶できる物体は3−4個であり、物体の複雑さに影響されないことが主張されている (Luck & Vogel, 2013)。一方、可変解像度モデル(variable resolution model)では、視覚性ワーキングメモリが保持できる物体の数は定数(a fixed number of objects)ではなく、複雑さによって保持できる物体の数が変わることが主張されている(Brandy & Alvarez, 2015)。これまで、両モデルを支持する幾多の研究結果が報告されてきたが、視覚性ワーキングメモリの容量制限を決定する要因については、未だ多くの問題が残っている。また、従来の研究は色パッチや立方体などを用いてワーキングメモリの容量を推定してきたが、より複雑性の高い情景の一時的な保持についてはほとんど明らかにされていない。従って本研究では、情景記憶に焦点を当て、視覚性ワーキングメモリが一度に保持できる情景画像の数を3つの実験から調べた。実験1では、記憶負荷を操作し、視覚性ワーキングメモリの画像保持容量を測定した。実験2では、画像の保持時間を短くし、容量が変わるかを調べた。実験3では、画像の符号化時間を長く設定し、容量に変化があるかを調べた。
方 法
参加者 各実験に10名の大学生が参加した。全員が正常な視力(矯正を含む)を有していた。
刺激 情景画像として、自然画像1000枚(海、荒地、山、水場、草地の5つのカテゴリー、各200枚)、人工物画像1000枚(バスルーム、ビル、橋、ダイニング、城の5つのカテゴリー、各200枚)を用いた。
手続き 図1は一試行の流れを示す。記憶画面に1, 2, 3, 4, 6, 8枚の情景画像が提示され(実験1,2:300ms;実験3:600ms)、ブランク画面(実験1,3:1700ms;実験2:700ms)の後、テスト刺激(記憶画面の同じ位置にあった画像、若しくは新規画像)一枚が提示された。参加者は変化があったかどうかをボタン押しで回答した(変化検出課題)。
データ解析 記憶容量を推定するため、Cowan’s Kを計算した(K = (hit rate - false alarm rate)*load)。
結 果・考 察
 全ての実験において、参加者が記憶できる画像の枚数は1−2枚であった。これは、スロットモデルが主張した人間が記憶できる物体の数(3−4)より少ない。実験1では(図2)、人工物画像の記憶容量が自然画像に比べて有意に大きかった(F(1,9) = 16.97, p = .003, ηp2 = .65)。この差異の原因として、実験で用いた人工物画像に物体があり、物体の変化が変化検出のヒントとなる可能性が考えられる。一方、自然画像には、このようなヒントが少なく、人工物画像と比べて変化の検出が困難であったと考えられる。また、人工物画像と自然画像の記憶容量の違いは、変化検出課題のブランク画面及び記憶画面の提示時間を操作することによって消えることが実験2及び実験3で明らかになった(実験2:F(1,9) = 4.32, p = .067; 実験3:F(1,9) = 0.06, p = .806)。すなわち、保持期間が短い(実験2)、あるいは記憶画面の符号化が深い(実験3)場合、自然画像と人工物画像の保持容量が変わらないことを示唆している。
結 論
 一連の実験結果から、視覚性ワーキングメモリが一度に1−2枚の情景画像しか保持できないことが明らかになった。この結果は可変解像度モデルを支持し、視覚性ワーキングメモリの容量が刺激の複雑さに制約されることを裏付ける。
引用文献
Brandy, T. F., & Alvarez, G. A. (2015). No Evidence for a Fixed Object Limit in Working Memory: Spatial Ensemble Representations Inflate Estimates of Working Memory Capacity for Complex Objects. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 41, 921–929.
Luck, S. J., & Vogel, E. K. (2013). Visual working memory capacity: From psychophysics and neurobiology to individual differences. Trends in Cognitive Sciences, 17, 391–400.

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