発表

3A-045

複数視点から物体位置を記憶する際の参照軸

[責任発表者] 道野 栞:1
[連名発表者] 佐藤 暢哉:1
1:関西学院大学

目 的
 映像作品における対話場面では、対話する2者に対し、複数の視点を交互に切り替えて撮影することが多い。その場合、対話者の画面上での左右の位置関係を入れ替えない視点切り替え (i.e., カット割り) が一般的によく用いられる。このような視点の切り替え方法を180度ルールといい、対話者の間に引かれる想定線の片側から対話者を撮影する。180度ルールを逸脱した映像の場合に、映像内の物体の位置関係に関する空間記憶が低下することが報告されている (Levin, 2010)。この結果から、対話者の間に引かれる想定線が、その周囲にある物体の位置関係を決める軸 (参照軸) として機能する可能性がある。しかし、その想定線の決定因についてはまだ明らかになっていない。直交座標系から考えると、原点と1つの方向があれば参照軸が決まる。単一物体を認識する際には、その物体固有の前後軸が検出される (Graf, Kaping, & Bülthoff, 2005)。このことから、単一物体から検出される前後軸が参照軸となる可能性がある。本研究では、単一物体に対する撮影視点の切り替えの違いが空間記憶に与える影響を検討することで、想定線の決定因について検討した。
方 法
被験者 28名の大学生および大学院生が実験に参加した。
映像刺激 仮想現実空間 (VR空間) 内に直立し、動作しないヒト (男性、女性) もしくはモノ (ピアノ、パーソナルコンピュータ) を1つ配置した。映像では、2視点が交互に2度切り替わった。視点切り替えが180度ルールに従う場合を同側条件、逸脱する場合を対側条件とした。例えば、ヒトを撮影対象とした場合、同側条件では2視点共に、その視線が画面の左側であった一方で、対側条件では、視点が切り替わると左右反転して見えた (Fig. 1_a)。撮影視点の位置は、ヒトもしくはモノの位置を原点する半径160 cmの円周上とし、各条件の視点間の角度はいずれも90 degであった (Fig. 1_b)。1視点の呈示時間は6秒であった (計24秒)。撮影対象の周囲には3つの物体 (ターゲット) を配置した。
手続き ヒトを撮影対象とした映像を見た群をヒト群、モノを撮影対象とした群をモノ群とした。各群に、いずれかの条件の映像を見せた。その後、映像内に配置されていたターゲットの位置を回答させる位置再生課題を行わせた。位置再生課題では、8つの視点から写した回答画面を1度ずつ呈示し、指定したターゲットの位置をマウスクリックで回答させた。回答画面には、ヒトもしくはモノのみが写っていた。回答画面の呈示からクリックするまでを1試行とし、計96試行行った。映像観察から位置再生課題までを1ブロックとし、計2ブロック行なった。
結 果 と 考 察
 位置再生課題で被験者がクリックしたディスプレイ画面の座標値を記録した。さらにその座標値をVR空間内の座標系に変換した。変換した座標値からターゲットが実際に位置していた座標値までの方向を算出し、角度エラーとした。視点切り替え (2) × 回答視点 (8) の被験者内2要因分散分析を行なった結果、ヒト群においては、対側条件の角度エラーがより大きかった (p < .05)。その一方で、モノ群では、条件間で平均角度エラーに有意な差は見られなかった (p = 0.91)。ヒト群において、180度ルール逸脱による空間記憶の低下が見られたことから、ヒトの前後軸が想定線となっていたことが示唆された。物体の前後軸の検出は、物体の幾何学的な情報や、自身の経験に基づく認知的処理によってなされる。例えば、私たちは方向を判断する場合、自身の身体の前後軸を基準とする (Sadalla & Montello, 1989)。映像内のヒトに対しても、その身体の前後軸が、周囲にある物体の位置を決める基準となったと考えられる。モノは種類によって、幾何学的特徴の複雑性や親近性が変わる。モノのどの特徴を前後軸とするのかは、個人間で違った可能性がある。本研究から、映像視聴時における想定線の決定には、撮影対象となる単一物体の前後軸の検出が関与する可能性が示唆された。

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