発表

一般研究発表(ポスター)
1EV-034

生物学的本質主義が人間らしさの知覚に及ぼす影響

[責任発表者] 二木 望:1
1:東京大学

目 的
精神障害の原因の全容は未だ明らかでないが、原因に関する信念は偏見などに影響する。例えば、精神障害の原因が生物学的要因にあると考えるほど、人は精神障害者を非難しない一方で、社会的距離を置く(Kvaale et al., 2013)。これは、精神障害者というカテゴリーの成員性が生物学的に決定されており、固有で、不変であるという生物学的本質主義を抱く結果、自己と精神障害者を本質的に異なる存在と見なすようになるためである。さらに、この生物学的本質主義は精神障害者の非人間化を促進する可能性が指摘されている。つまり、生物学的決定論的な信念は、精神障害者が自身の行動における自律性を失っているという認識をもたらし、精神障害者を「機械的」な存在と見なすようになる可能性がある(Haslam, 2006)。人は非人間化の対象を見たときに心的推論に関連する脳の領域が活性化しないが(Harris & Fiske, 2009)、Capestany & Harris(2014)は犯罪者の責任の高さを評価している際の参加者の脳において、犯罪者が犯罪と関連する性格特性を生物学的(e.g., 遺伝子)に有しているという情報を与えられた場合、同様の領域の活性化の程度が低いことを見出した。また、「機械化」の対象に人は共感を示さない(Haslam, 2006)ことと一致して、生物学的な説明は精神障害者への共感を抑制する(Lebowitz & Ahn, 2014)。しかしこれらの研究はどれも間接的な証拠にすぎず、生物学的な説明と精神障害者の非人間化を直接的に検討した研究は存在しない。そこで本研究では、精神障害の原因を生物学的要因に求めることが、精神障害者の非人間化(特に機械化)をもたらすかを、統合失調症、うつ病、アルコール依存症のカテゴリーを用いて検討する。
方 法
大学生181名(男性137名、女性43名、不明1名、Mage = 19.29; SD = 0.88)に、統合失調症、うつ病、アルコール依存症いずれかに関する質問紙をランダムに配布した。まず精神障害の原因として心理社会的要因4項目(e.g., ストレス; .55 < α < .65)、生物学的要因5項目(e.g., 遺伝子; .65 < α < .70)を挙げ、それぞれどの程度原因だと思うかを測定した。その後、精神障害者の人間らしさを測定した(Haslam, 2006)。この人間らしさの尺度は人間性(human nature: HN)と人間の独自性(human uniqueness: HU)で構成されており、前者は情緒性や神経症傾向など人間の核となる性質を表し、後者は理性や高次の認知能力など人間と他の動物を区別する性質を表す。HNの否定は他者の「機械化」、HUの否定は「動物化」という形での非人間化に対応する。HNは「好奇心旺盛な」「攻撃的な」などの10項目(.57 < α < .79)、HUは「謙虚な」「無礼な」などの10項目(.56 < α < .73)で測定された(全て7件法)。
結果と考察
人間性(HN)の知覚 統合失調症、うつ病、アルコール依存症の患者に知覚されるHNそれぞれについて、精神障害の原因が生物学的要因、心理社会的要因にあると思う程度及びその交互作用を独立変数とした重回帰分析を行った。その結果、統合失調症とうつ病患者のHNの知覚には原因に関する信念が効果をもたなかった。その一方、アルコール依存症患者については、生物学的要因が原因だと思うほどHNを低く、心理社会的要因が原因だと思うほどHNを高く知覚した(表1)。
人間の独自性(HU)の知覚 HUについても同様の分析を行った結果、統合失調症とうつ病患者のHUの知覚には原因に関する信念が効果をもたなかった。その一方、アルコール依存症については、心理社会的要因が原因だと思うほどHUを高く知覚した一方、生物学的要因は効果がなかった(表1)。
以上より、アルコール依存症患者においてのみ、生物学的本質主義が「機械化」という形での非人間化をもたらすことが示唆された。これは、非人間化は軽蔑が感じられる集団成員に対してなされることが多く(Haslam, 2006)、アルコール依存症は他のカテゴリーに比べ軽蔑が感じられやすい症状であったことによる可能性が考えられる。また、症状として「飲酒」という行動が思い浮かびやすく、原因に関する信念が行動における自律性の推測に影響しやすかった可能性もある。さらに本研究では、アルコール依存症の原因が心理社会的要因にあると思うほどHNもHUも高く知覚された。これは飲酒がやめられない原因を本人のストレスや考え方などに帰属することで、より自律性や認知能力を高く評価し、本人に症状の責任があるという認知を強めている可能性が考えられる。
主要引用文献
Haslam, N. (2006). Dehumanization: An integrative review. PSPR, 10, 252-264.

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