発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-133

保育系実習におけるリアリティショック(1)

[責任発表者] 松田 侑子:1
[連名発表者] 設楽 紗英子:2, [連名発表者] 濱田 祥子:3
1:弘前大学, 2:作新学院大学, 3:広島大学

目 的
 保育系学生の職業的発達に関する研究を概観すると,保育者養成課程に入学し,保育者として働くに至るまでの大きな契機として挙げられるのが「実習」であり(神谷, 2009; 森野他, 2011; 仙崎・鈴木, 1990),現場での直接的経験は,特に保育者としての効力感に影響していることが繰り返し指摘されている(小薗江, 2013; 三木・桜井, 1998; 森, 2003)。こうした実習で体験される「理想と現実の相違」は,「リアリティショック(Reality Shock; 以下RS)」という概念から検討されてきている。RSとは,Kramer(1974)が新卒看護師について,「数年間の専門教育と訓練を受け,卒業後の実社会での実践準備ができていないと感じる新卒専門職者の現象,特定のショック反応」と定義したものであり,近年の研究においては,看護師だけにとどまらず,教員(原田他, 2008),大学生(半澤, 2007)等へとその対象に広がりが見られている。RSは,若年就業者の組織コミットメントや態度に負の影響をもたらし(尾形, 2012; 小川, 2005),欠勤,離職意志,離転職(Porter & Steers, 1973; Wanous et a1.,1992)を増やすことが示されている。また,日本のRS研究においては「現実と期待のギャップ」という意味合いで,専門職志望者が実習などで初めて現場を体験する場合にも適用されている(伊藤, 2007; 村上他, 2010)。保育系実習では,こうした相違を経験しながらも,「保育者になる」という意識を維持し自己効力感を高める者が,保育者として成長・適応していけるとされ(小薗江, 2009; 谷川, 2010),これが入職後の保育にも影響していることから(西坂, 2002; 三羽, 2008),実習におけるRSに基づいた支援の構築は,学生のキャリア形成や保育の質の向上においても重要であると考えられる。そこで,本研究では,まず保育系実習の中でRSを経験する対象・事柄について包括的に整理することを目的とする。
方 法
調査時期:2014年4月
調査対象者:関東地方にある保育者養成の四大1校もしくは短大1校に在籍し,すでに幼稚園か保育園での実習を経験したことのある大学生計174名(全て女子,平均年齢19.69±1.52歳)である。
調査内容:「保育園・幼稚園の実習をする中で,『実習前に思っていたのと違うなぁ』と感じたことはありますか?「思ったより〜」につながる形で,5つ以上挙げてください。思ったより良かった場合でも,思ったより悪かった場合でも構いません。「何が」思ったのと違っていたのかがわかるように書いてください。」という教示の下,自由記述による回答を求めた。
分析方法:調査対象者が回答した,保育系実習においてRSを感じた対象・事柄について,幼稚園実習を経験したことのある心理学専攻の大学生1名と,大学院生2名,大学教員1名でKJ法(川喜多, 1967)の手続きを参考に分類を行った。
結 果と考 察
 保育系実習におけるRSを尋ねる質問に対して,計948個の自由記述が得られた。これら記述を分類した結果,10のカテゴリーに整理された(Table1)。

 記述数が多かったものから順に,「保育の仕事」は現場で実際に行われている保育活動の質や量,専門性の高さに関するもの,「実習中の体感」は実習で感じられた時間の流れや心身における大変さに関するもの,「子どもへのイメージ」は子どもの能力の高さや子どもに向けられた自身の愛情の深さに関するもの,「子どもとの関わり」は実際に子どもと関わることの難易や自身の子どもへの態度に関するもの,「子どもに対する保育者の関わり」は保育者が子どもに向ける態度や関わりの量に関するもの,「保育環境」は実習を行った園の設備や人的資源等に関するもの,「幼保の違い」は幼稚園と保育園の差異について触れたもの,「実習での気づき」は実習における自身への評価や内省に関するもの,「保育者同士の関係・連携」は先生の間で繰り広げられている人間関係や保育における協力の仕方について触れたもの,「保育者との関係」は自身が周囲の保育者と関わりを持つ際に感じられたもの,といった内容であった。
 また,現実と期待のギャップが「思ったよりもよかった」というポジティブな内容を意味する記述は286,「思ったよりもよくなかった」というネガティブな内容を意味する記述は434,ニュートラルな内容は158であった(その他は除外)。
 以上から,保育系の実習において学生が経験するRSを全体的に把握することができた。今後は,本結果を踏まえ,どのような事柄に対して,どの程度のRSを経験しているかを捉えるような測度を開発することで,実習経験をより効率的に活用できるような援助の方向性を検討することを目指す。
(MATSUDA Yuko, SHITARA Saeko, & HAMADA Shoko)

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