発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-116

青年期・成人期における他者理解と共感性:道徳判断との関連

[責任発表者] 溝川 藍:1
[連名発表者] 子安 増生:2
1:明治学院大学, 2:京都大学

目的
 他者理解と共感性は,どちらも社会生活において人と関わる上で重要な役割を果たすものである。他者理解があって共感性がない場合,向社会的行動が阻害されたり,他者理解を悪用した攻撃的行動につながることもあるだろう。私たちが社会生活を送る上で,嫌な相手に対しても,道徳的に振舞うことが必要な場面もある。嫌な相手が不利益を被る場面において,どのような行動をとるかに関する判断や,その理由づけに,他者理解と共感性はどう影響しているのだろうか。
 本研究の目的は,「嫌いな他者が不利益を被る状況で,援助的な介入をするか否かの道徳判断」に着目し,他者理解(他者の情動の同定・理解),共感性(共感的関心,個人的苦痛)と道徳判断との関係を検討することである。

方法
 参加者:株式会社クロスマーケティングの調査参加者プールに登録している15-69歳の300名(男性150名,女性150名,平均年齢 40.17歳,SD = 16.17)。
 材料:【他者理解】野崎・子安(印刷中)の情動コンピテンスプロフィール日本語短縮版の一部を使用し,情動コンピテンスの他者領域の2側面(他者の情動の同定,他者の情動の理解)を測定する各2項目計4項目について5件法で回答を求めた。【共感性】共感性の測定では,登張(2003)の多次元共感性尺度の4次元のうち共感的関心(13項目),個人的苦痛(6項目)の2次元を測定する計19項目を使用し,5件法で回答を求めた。【嫌な人の不利益状況における道徳判断】嫌な人の不利益状況に関する仮想場面(2場面)での判断課題を新たに作成し,各場面において介入の有無の判断(2択)とその理由づけの回答(3択)を求めた。場面1では,汚れのついたベンチに知らずに座ろうとしている憎い先輩に対して,汚れがあることを教えるか(介入),教えないか(非介入)の判断を行った後,その理由づけを選択することを求めた。場面2では,憎い先輩のクレジットカードの落し物を見つけた際に,その先輩に届けるか(介入),そのまま放置しておくか(非介入)の判断を行った後, 3つの選択肢から1つを選択することを求めた。介入の理由づけの選択肢は,「規範の内面化」,「快楽・報酬志向」,「要求・感情志向」の3カテゴリーであった。また,非介入の理由づけの選択肢は,「非当事者意識」,「対人志向」,「要求・感情志向」の3つであった。
 手続き:オンライン上で上記の尺度と課題を用いて回答する質問紙調査(インターネット調査)を実施した。

結果
1. 他者理解と共感性の関連
 他者理解と共感性の関連について単相関分析による検討を行った。その結果,共感的関心と他者の情動の同定(r = .32, p < .01),他者の情動の理解(r = .19, p < .01)の間に有意な正の相関が,個人的苦痛と他者の情動の同定(r = -.30, p < .01),他者の情動の理解(r = -.21, p < .01)の間に有意な負の相関が認められた。
2. 嫌な人の不利益状況における道徳判断
 嫌な人の不利益状況の2場面(場面1: ベンチの汚れ,場面2: クレジットカードの落し物)間での介入・非介入の比率の差を検討したところ,より不利益の可能性が大きい場面2では,場面1よりも,介入する(嫌な人を助ける)との判断が多くなされることが示された(χ2(1) = 12.87,p < .01)。
3. 嫌な人の不利益状況における道徳判断と他者理解・共感性
 嫌な人の不利益状況の2場面における介入群と非介入群の間で,他者理解と共感性に違いがあるか否かについて検討するため,場面ごとに4側面(共感的関心,個人的苦痛,他者の情動の同定,他者の情動の理解)の得点についてt検定による比較を行った。その結果,両場面とも,介入群の方が非介入群よりも共感的関心の得点が高かった(場面1: t (298) = 3.04, p <. 01;場面2: t (298) = 5.65, p <. 01)。また,場面2では,他者の情動の同定の得点についても介入群の方が非介入群よりも高いことが示された(t (298) = 2.14, p <. 05)。個人的苦痛や他者の情動の理解は,介入判断には影響しなかった。
 次に,各場面の介入・非介入判断の理由づけによって他者理解・共感性に差があるかを検討するために,場面・群ごとに1要因3水準の分散分析を行った。その結果,場面1の介入群において,共感的関心の得点に有意な差が認められた(F (2, 170) = 4.17, p < .05)。多重比較の結果,「快楽・報酬志向(人間関係をよくすることだから)」による介入選択者は,「要求・感情志向(服が汚れるのはかわいそうだから)」による介入選択者よりも共感的関心の得点が低いことが示された(p <.05)。場面2の非介入群においては,他者の情動の理解の得点に有意な差があった(F (2, 82) = 3.92, p < .05)。多重比較の結果,「要求・感情志向(困っているのはいい気味だから)」による非介入選択者は,他の理由による非介入選択者よりも,他者の情動の理解の得点が高かった(非当事者意識 p < .05:対人志向 p = .054)。場面1の非介入群と場面2の介入群においては,いずれの指標においても理由づけによる得点の差は認められなかった。

考察
 本研究から,共感的関心と他者の情動を同定し理解する能力の間には正の相関があるものの,社会的場面における道徳判断においては,それぞれの側面が異なる働きをしていることが示された。共感的関心の高さは,嫌な人の不利益場面での道徳判断において重要な役割を果たすことが明らかになった。さらに,他者の情動を理解できるが共感性の低い者が,その他者理解の能力を悪用している可能性が示唆された。

引用文献
野崎優樹・子安増生. (印刷中). 情動コンピテンスプロフィール日本語短縮版の作成. 心理学研究.
登張真稲. (2003). 青年期の共感性の発達: 多次元的視点による検討. 発達心理学研究, 14, 136-148.

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