発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-103

ステレオタイプのプライミングが言語行動に及ぼす影響:コミュニケーション場面を対象に

[責任発表者] 笠原 伊織:1
[連名発表者] 宇佐美 まゆみ:2
1:東京大学, 2:東京外国語大学

目 的
 プライミング効果 (priming effect) についての先行研究では、事前にステレオタイプ的な情報に触れることで、後続の判断や行動に影響が生じることが指摘されてきた (Bargh, Chen, & Burrows, 1996) 。特に行動の側面に限っても、様々な影響とその過程が記述され、多大な関心が払われてきた一方で、それらの多くが個人内の影響過程についての研究であり、対人関係という文脈での影響を取り扱った研究はあまり多くない。しかし、対人関係という文脈では相手との関係性が態度や行動に影響することが示されており (Sinclair, Lowery, Hardin, & Colangelo, 2005) 、個人で完結するような行動の時とは異なった影響がみられる可能性がある。また、従来の研究では言語と社会的認知の関係についての研究が少なく、特にコミュニケーション場面に焦点を当てた研究が非常に少ないことに注目し、本研究では特に2者間の言語コミュニケーション場面を対象として、プライミング効果の影響力を検討する。

方 法
 事前調査として関東地方の大学生・大学院生161名にジェンダー・パーソナリティ・スケール質問紙尺度 (小出, 1999) を実施し、調査対象者を「男性的」「女性的」「中性的」「非性別的」人物の4グループに分類した。その中から「中性的」と判断された実験参加者10名 (男性5名, 女性5名) で5組の初対面男女ペアを作成し、各ペアそれぞれ2回の会話収録実験をおこなった。つまり、実験は参加者内要員計画で実施された。実験条件では、別の実験者による課題として、女性ステレオタイプ関連語20語を含む乱文構成課題25題を実施した後、「ディスカッション能力を調べる実験」というカバー・ストーリーを提示し、会話の収録をおこなった。会話はすべて録音され、宇佐美 (2011) による「基本的な文字化の原則 (Basic Transcription System for Japanese: BTSJ) 2011年版」にしたがって文字化された。統制条件では、女性ステレオタイプ関連語を含まない乱文構成課題25題を実施した後、同様に会話の収録をおこなった。会話内容については、「社会的性差としてのジェンダーについて、それがあった方がよいものか、無い方がよいものか、あっても良い程度のものなのか、無くても良い程度のものなのかを15分から30分程度で自由に議論し、最終的に1つの合意された意見を形成して実験者に伝えてください」という教示を与えた。会話収録後、ディスカッションの結果、ペアで合意されたジェンダーについての意見を、「あった方がよい」から「ない方がよい」までの4段階で述べさせた。その後、フォローアップアンケートに回答させた。後日、同様の手続きで条件を変えて2回目の実験を行い、終了後、参加者が実験目的に気付いていたかを確認して、デブリーフィングをおこなった。

結 果
 実験目的に気付いていた、もしくは疑義を呈した参加者はいなかったため、10会話すべてを分析に用いた。分析にはR version 3. 1. 0を用いた。分析項目として、(1) 女性ステレオタイプのイメージ・具体例、(2) 話題転換、(3) 笑い声、フィラーなどを除いた実質発話回数、(4) 会話時間、(5) 意見陳述の得点、の5つを設定し、実験者を含む2名の分析者が共同してコード化し、合意が得られたものをカウントした。各項目について対応のあるWelchのt検定を実施したところ、話題転換の回数が実験条件 (M = 11.00, SD = 2.00) で統制条件 (M = 6.80, SD = 0.84) よりも有意に多くなっており, t (4) = -3.77, p = .02, ES: d = 2.74, 1-β = .99 (図1) 、会話時間の長さが実験条件 (M = 1643.80, SD = 372.10) で統制条件 (M = 1285.00, SD = 316.60) よりも長くなる傾向にあった, t (4) = -2.47, p =.07, ES: d = 1.04, 1-β = .43 (図2) 。ただし、後者については検定力が.43と低かったため、今後の追試検証が必要である。

考 察
本研究では、コミュニケーション場面におけるプライミングの影響について検討し、女性ステレオタイプの活性化により、後続のジェンダーに関する会話がある程度影響を受けることを示した。しかし同時に、設定した項目のうち、半分以上の項目で影響がみられなかったことも事実であり、今後は、対人関係の中でのこうした影響過程について、どのような認知プロセスが関わっているのかを明らかにしていく必要があると考えられる。また、今回取り上げた分析項目の他にも、こうした影響を分析する指標として、会話の内容がより具体的に分析、反映できるものを立てることも重要であるだろう。

引用文献
Bargh, J. A. et al. (1996). JPSP, 71, 230-244.
小出 寧 (1999). 実験社会心理学研究 39, 41-52.
Sinclair, S. et al. (2005). JPSP, 89, 583-592.
宇佐美 まゆみ (2011). http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/usamiken/btsj2011.pdf

※本研究は、第1著者が第2著者の指導の下、2014年度に提出した、東京外国語大学外国語学部卒業論文に基づくものである。

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