発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-066

蛇の回転運動錯視と随意性の追従眼球運動

[責任発表者] 一川 誠:1
1:千葉大学

目 的
 暗から明のグラデーションの繰り返しパタンを同心円状に配置すると,その円内に回転して見える運動錯視が生じる(フレーザー・ウィルコックス錯視,Fraser & Wilcox, 1979).この運動錯視は,無彩色での輝度変調のみでも生じるが,色彩を用いた場合により明確な運動錯視が生じる.特に,白,黄,黒,青の順で配列された要素を同心円状に配列したものは強い回転運動の錯視が生じることが知られており,「蛇の回転錯視」と呼ばれる(北岡, 2005).
 この運動錯視の成立にマイクロサッカード(Otero-Millan, Macknik & Conde, 2012)やドリフト(Beer, Heckel & Greenlee, 2008)などの不随意性の眼球運動が寄与していることが示唆されている.他方,この錯視には顕著な個人差があり,通常の観察では錯視があまり見えない観察者がいる.本研究では,随意性の眼球運動である追従運動(パーシュート)が蛇の回転錯視に及ぼす効果について検討した.また,実験結果に基づき,通常の観察ではこの運動錯視が見え難い観察者であっても,この錯視を成立させる観察条件の特定を試みた.
方 法
 実験は実験参加者別に個別に行われた.CRT モニターを用いてディスプレイに刺激画像を提示した.観察距離を37.5cmに固定するため,顎台を用いた.
実験1.基本の同心円図形とその鏡映図形を交互に横4×縦3で白色背景上に配置した(20deg×15deg).注視点として23.9×23.7arc minの十字を用いた.
 各試行において,刺激図形は15.5秒間提示された.実験条件として,追従運動(有無)×画像の動き(画像静止,低速画像運動,高速画像運動)の6条件を用意した.参加者がスペースキーを押すと,注視点が速度10deg/sの定速で水平方向に2回往復運動した.画像静止条件では,画像はディスプレイ上に固定された.低速画像運動条件では,画像提示開始から633.3, 3750, 7500, 11250ms後に,速度1min/sで2507ms間,垂直方向に位置移動した.高速画像運動条件では,画像提示開始から1793.3, 3750, 7500, 11250ms後に,速度30min/sで186.7ms間,垂直方向に位置移動した.各条件につき5回ずつ繰り返したため,1人あたりの試行数は全30試行となった.刺激の提示順序はランダムであった.各試行において,参加者は,回転運動が見えたらjキー,運動が見えなくなったらkキーを押した. 刺激画像の提示後,参加者は,回転運動の強度について6段階で評定した.
実験2.同心円図形を横3×縦3で白色背景上に並べた(15deg×15deg)中に注視点を提示した.刺激(静止画像/運動画像/残像)×追従運動(有/無)の6条件を設けた.
 静止画像条件では,追従運動有条件で注視点が水平方向に10deg/sで等速往復運動し,追従運動無条件で注視点も刺激も画面中央で固定された.運動画像条件では,速度10deg/sで刺激画像が水平方向に等速往復運動した以外は静止画像条件と同様の観察が行われた.残像条件では5秒間の観察で請じる残像を刺激として用いた.追従運動有条件では注視点が静止画像条件,運動画像条件と同様に動き,追従運動無条件では注視点も刺激も画面中央で固定された.6条件それぞれ5回ずつランダムに提示したので全30試行となった.観察後,参加者は,見えた回転運動について評定尺度法で報告した.
実験3.実験1,2で用いたのと同様の刺激をそれぞれ大条件,小条件として使用した.刺激サイズ(大小)×注視点の動き(0, 5, 10, 15 deg)の8条件を用いた. 注視点の動きの速度は10deg/sで固定された.手続きは実験1と同様であった.
結果と考察
 実験1では,評定結果,運動錯視の累積時間ともに,追従運動無条件よりも追従運動有条件で値が大きくなった.また,錯視が生じにくい観察者でも追従運動があれば運動錯視が生じやすくなること,錯視が生じやすい観察者でも追従運動によって運動錯視が強調されることが分かった.
 実験2では,すべての条件で錯視回転運動が見えていたことが示された.この結果は,網膜上の運動信号はこの蛇の回転錯視の成立にとっての必要条件ではないことを意味する.ただし,同様の網膜上の運動であっても,眼球運動によって生じた運動の方がより強い回転運動錯視を生じること,網膜上での運動の情報と組み合わされた場合に限って追従運動のための筋運動信号が運動錯視に影響を及ぼすことが示された.
 実験3では,追従運動が大きいほど運動錯視の評定,累積時間ともに値が大きくなることが示された.大きな刺激での錯視の強調は累積時間においてのみ認められた.
 3つの実験におけるこれらの結果は,運動錯視の見やすさにおける個人差に関わらず,意識的に追従運動しながら観察する条件に回転運動錯視を促進させる効果があったことを示している.この錯視が見え難い観察者であっても,たとえば,刺激画像の表面上を10/s程度の定速で,視角にして5 deg以上の距離にわたって移動する人差し指などを意識的に追視することで,明確な回転運動錯視が得られるものと期待できる.
謝辞:本発表は,千葉大学文学部心理学講座矢嶌翠さんの2014年度卒業論文に基づく.
引用文献
Beer, A. L., Heckel, A. H., & Greenlee, M. W. (2008). A motion illusion reveals mechanisms of perceptual stabilization. PLoS One, 3(7), e2741.
Fraser, A., Wilcox, K.J. (1979). Perception of illusory movement. Nature, 281, 565–566.
北岡明佳 (2005). トリック・アイズグラフィクス,カンゼン.
Otero-Millan, J., Macknik, S. L., & Martinez-Conde, S. (2012). Microsaccades and blinks trigger illusory rotation in the “rotating snakes” illusion. Journal of Neuroscience, 32(17), 6043-6051.

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