発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-064

高齢者の隙間通過歩行にみる適応的知覚運動制御

[責任発表者] 樋口 貴広:1
1:首都大学東京

目 的
 高齢者は身体機能が低下するだけでなく,状況判断能力が低下する結果,転倒や受傷に結びつく行動を選択しやすくなる可能性がある(樋口・建内,2015)。本研究では,狭い隙間を通過する場面の接触回避行動を測定し,高齢者が接触回避のために動作を適応的に調整できるのかどうかを評価した。実験では,高齢者に様々な長さの平行棒を2通りの方法で把持してもらい(図1),狭い隙間をぶつからないように通過してもらった。こうした状況において高齢者は,平行棒の長さが変化しても,必要な文だけ体幹を回旋して接触を回避するといった,安全かつ効率的な接触回避行動を選択できるかについて検討した。歩行動作は三次元動作解析を用いて詳細に検討した。

方 法
参加者 健常高齢者21名(73.5±3.0歳),健常若年者12名(26.7±7.0歳)が参加した。

歩行課題 4m先前方にある,2枚の塩ビシートの間にできた隙間を,平行棒を把持した状態で通りぬける課題を行った(図2)。参加者は,長さの異なる3種類の平行棒を,棒の中心を持つ条件,または棒の両端を持つ条件にて把持した。実験条件は,平行棒の長さ3種類(身体幅の0.8倍,1.5倍,2.2倍),平行棒の把持方法2種類,隙間の大きさ3種類(平行棒の長さの0.9倍,1.0倍,1.1倍)であった。また参加者は,最小限の体幹回旋で接触せずに通過するという制約がある場合と,何も制限がない場合の2条件において,隙間を通過した。
主たる従属変数は,カーテンとの接触頻度,および隙間通過時の体感回旋角度であった。各従属変数に対して,参加者グループ(高齢者群,若年者群)×制約条件(制約あり,制約なし)×平行棒の長さ×隙間幅の4要因分散分析により統計解析を行った。

その他の測定 認知症の疑いのある参加者を除外するため,Mini-Mental State Examination(MMSE)を実施した。さらに,高齢参加者の歩行能力や動的バランス,俊敏性などを総合的に評価するため,Timed up and go test(以下,TUG)テストを実施した。

結果と考察
 接触頻度について,参加者グループの主効果が有意であった。高齢者は若齢者に比べて,接触頻度が高かった。この傾向は特に,TUGの所要時間が長い(すなわち,歩行機能が低い)場合に顕著であった。
 高齢者の隙間通過時の体幹回旋行動そのものは,おおむね若年者と同様の調節が行われていた。平行棒を把持する条件を変えても,体幹回旋行動に有意な変化は見られなかった。この結果から,認知症の疑いがなく,歩行機能も比較的高い高齢者の場合,その状況下で利用できる感覚情報を駆使することで,環境に即した歩行パターンを適応的に選択できたといえる。
 TUGの所要時間で見る限り,本研究に参加した高齢者は,一般的な高齢者に比べて歩行機能が高い高齢者であった。TUGの所要時間が長い参加者の場合,接触頻度が多かったことから,年齢相応の歩行機能を持つ高齢者の場合には,環境に即した最適な歩行パターンを選択できる能力が低下している可能性が示唆された。


引用文献
樋口貴広・建内弘重(2015).姿勢と歩行:協調からひも解く. 三輪書店

謝辞
本研究は科学研究費補助金の助成を得ておこなっている(24680068, 25560327)。

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