発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-063

開眼手術後における視覚の認知と歩行

[責任発表者] 佐々木 正晴:1
[連名発表者] 鳥居 修晃:2
1:弘前学院大学, 2:東京大学

問 題
  眼を開けると、そこには、色、大きさ、方向、形、奥行きや動き、それらの複合体である事物の群れに埋め尽くされた視覚世界が広がる。この視覚世界は、如何なる過程を経て形成されたのであろうか。その過程を知る方法の一つに、開眼手術を受けた人たちに機能形成を促す実験を積み重ね、その序列性/関連性を探るという方法がある。
  開眼手術直後あるいは手術を受けてから長い時を経た後、視覚機能の習得可能性は数限りなく存在する。むろん、視覚機能の発生序列に沿った適切な学習場面に出会うことができて初めてそれらは実現する。その一方で、如何なる目的に向かって機能形成を進めるかに応じて、開眼者が獲得する機能群に個人差が生じる。
  われわれは、開眼者の日常生活に直結する歩行行動について、当初白杖を用いて触覚系の活動に依拠する段階から離れて、視覚系の活動が独自に移動行動を誘導・調整する段階に至る過程を探索することにした。文献を遡っても歩行に関する組織的な実験報告は見当たらず、開眼者が怪我するかも知れない危険を伴う実験のためであろう。
  むろん、ひとくちに歩行行動といっても、それは数多くの視覚機能群が幾重にも階層的に重なり合い構造化されているであろう。その下位機能の一つである遠方視機能、即時視機能について前大会において報告した(佐々木・鳥居, 2014)。 
  本報告は、開眼女性ToMの歩行行動は観察を始めた最初期段階に当たる。開眼女性ToMの状況については前報告(佐々木・鳥居, 2014)に記載してある。

実験 1 大きな空間での歩行実験
場所 仙台市博物館前、仙台駅ビルエスパル内、仙台電力ビル前、東京駅構内。
方法 出発点から大まかな場所を指定してそこまで歩くように指示する場合と、ToMが場所を選んで歩く場合がある。ToMの動作、言語報告をビデオに録画し、実験者が分析する。
結果 ここでは歩くコースを指定した仙台市博物館前の結果について、4つの観点から整理し、図1に示した。すなわち、a).視線(顔)方向:前方/斜め前方/斜め後方/真下/左右方向/後方の5方向、 b).白杖の持ち方:順手(図中、● 以後同様) - 逆手(○)、 c).白杖の地面に接触(●)– 非接触(○)、 d).目標点や周りを見るとき、体が停止(●)– 非停止(○)である。図1では、視線方向の6つを横上欄に、他の3つの観点を縦左欄に記し、それらの行動の生起数を○/●で示したのが図1 である。マル1個が1回の動作を示している。
 とりわけToMは下り階段を発見できず、次のように報告している。『 階段ノ上リヲ見ツケルコトハデキル。視力ガナイ振リヲスル 』、『(見る方向は)前ノ方ガ得意、下ハ苦手。目線ノ高サガ見ヤスイ。自然、自然ニ見ルノガイイ 』、『 階段ヲ降リルノハ半端ジャナク恐イ。視力ガ上ガッテ、カエッテ恐クナッタ。以前ハ恐イトイウコトハナカッタ。ジブンノ足元ガ見エルコトハ恐イ 』。

実験 2 視方向における遠近/方向の弁別実験
  ToMの言語報告を受け、遠近弁別実験、方向識別実験を視線3方向で行った。
 遠近の弁別 直径 12cm の円図形(ケント紙製)を3cm×3cm×100cmの角材の先端に取り付けた。2個。2個を同時に10cm の奥行き差をもって、重なりが生じないように上下に約 15cm 離して提示した。近いほうの円図形はToMの眼から 1mである。視線前方、上方45°、下方45°の3方向で提示した。結果を表1に示した。
  前方向(眼の高さ)、上方向、下方向の順で弁別精度がいいことがわかる。
方向の識別 水平、垂直、右斜め、左斜めの4方向。1 x 10cm の帯図形(N1.5)を25×25cm のケント紙中央部に貼着し、1個ずつ提示する。同様に3方向である。結果を表2に示した。
 遠近の弁別実験と同様の傾向が現れていることがわかる。

引用文献
佐々木正晴・鳥居修晃 2014 開眼手術後における遠方視機能と瞬間視機能 日本心理学会第78回大会発表論文集. 544.

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