発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-046

本来感と見捨てられ不安の関連

[責任発表者] 三輪 由貴:1
[連名発表者] 津川 律子:2
1:いわき明星大学, 2:日本大学

目 的
 本来感(Sense of Authenticity)とは,「自分自身に感じる自分の中核的な本当らしさの感覚の程度」と定義され,本来性(Authenticity)の感情的側面に注目した指標である。本来性とは,自尊感情のより適応的な側面(Optimal self-esteem,Kernis,2003)や,人間のよりポジティブな心理的性質や資源を指す(伊藤・小玉,2005),ポジティブ心理学において近年台頭してきた新たな概念である。
一方で,青年期における見捨てられ不安は,「重要で身近な他者(集団)に承認される自信がなく,自身の価値観をありのままに主張すると,重要で身近な他者(集団)から嫌われるのではないかという不安から自己犠牲的な認知・行動を過剰に選択する心理傾向」(斉藤・吉森・守谷・吉田・小野,2012)と定義される。
大学生を対象とした益子(2008)の研究で,過剰適応傾向の背景に見捨てられ不安があることが示唆された。また,益子(2010)は,過剰適応傾向は本来感を減少させる事を示した。両者の結果から,益子(2010)は,過剰適応傾向の高い人の本来感を高めるには,過剰適応傾向の背景にある見捨てられ不安を緩和する必要性があると論じている。
しかし,本来感と見捨てられ不安の直接的な関連を検討した文献はない。そこで本研究では,本来感と見捨てられ不安の関連を検討する。見捨てられ不安の下位尺度である「注目・承認欲求」と「過剰な自己犠牲」は本来感と負の相関を示すと考えられる。
方 法
参加者 東京都の私立大学1—4年生の324名。うち不備回答を除いた計297名(男性198名,女性99名)を分析対象とした(平均年齢は19.78歳(SD =1.25)であった)。
調査手続き 10月下旬から11月上旬に調査参加者を対象に質問紙調査を行った。(a)青年期における見捨てられ不安尺度(斎藤ほか,2012)は,「承認・注目欲求(8項目)」と「過剰な自己犠牲(7項目)」の2下位尺度,計15項目からなる。(b)本来感尺度(伊藤・小玉,2005)は,7項目で構成される。いずれも原版に準拠し,5件法で回答を求めた。
結 果
本来感尺度と見捨てられ不安尺度について回答の分布の確認後,最尤法promax回転にて因子分析を行なった。本来感尺度は1因子が抽出され,負荷量が.35以下の1項目を除外し,6項目で尺度得点を算出した。見捨てられ不安尺度は,回答の分布を確認したところ3項目が床効果を示したため除外して,因子分析を行なった。負荷量.35以下を示した2項目を除外し,抽出された2因子に対応させて「注目・承認欲求得点(4項目の合計)」と「過剰な自己犠牲得点(6項目の合計)」を算出した。各変数の男女の平均値差の検定を行ったところ,1%水準で「注目・承認欲求」と「過剰な自己犠牲」(t (296)=2.61,4.00)で有意差がみられたため,以降は男女別の検定を加えることとした。
相関係数においては,1%水準で,本来感と「注目・承認欲求」に弱い正の相関がみられ(r =.17),「過剰な自己犠牲得点」との間に中程度の負の相関関係がみられた(r =-.42)。また,「注目・承認欲求」と「過剰な自己犠牲」との間にも1%水準で,弱い正の相関が見られた(r =.28)。男性では,本来感と「注目・承認欲求」の間に相関はみられず(r =.12),1%水準で「過剰な自己犠牲得点」との間に弱い負の相関関係がみられた(r =-.38)。また,「注目・承認欲求」と「過剰な自己犠牲」との間に1%水準で弱い正の相関が見られた(r =.37)。女性では,1%水準で,本来感と「注目・承認欲求」の間に弱い正の相関関係がみられ(r =.29),「過剰な自己犠牲得点」との間に中程度の負の相関関係がみられた(r =-.53)。また,「注目・承認欲求」と「過剰な自己犠牲」との間には相関関係がみられなかった(r =.01)。
考 察
本研究結果からは「過剰な自己犠牲」が増えるほど本来感が低下する可能性が示唆された。益子(2010)の「他人によく思われようと努力したり自分を抑えたりする行動は本来感を減少させる」と合致する結果であった。一方「注目・承認欲求」は,本来感を上昇させる可能性が示唆された。この結果は,仮説と異なった。Kernis(2003)は,本来感を感じている者の特徴として,自己の感情を抑圧せず,その感情に気づく能力があること,自己の中核的な部分から自身をコントロールしていることを挙げている。「注目・承認欲求」尺度の項目は「気持ちが不安になると,友だちに自分の気持ちを大げさに話し,相談にのってもらう」「自分に注目して欲しいから,わざと気を引くような行動をする」などからなる。本研究で,「注目・承認欲求」と本来感に正の関連が見られたのは,自分が「不安になっている事」や「注目して欲しい事」に気づき,感情を抑圧せずに「大げさに話したり,わざと気を引く」といった事を対処行動として自ら取っているからかもしれない。
引用文献
伊藤正哉・小玉正博(2005).自分らしくある感覚(本来感)と自尊感情がwell-beingに及ぼす影響の検討 教育心理学研究,53,74-85.
Kernis,M.H.(2003).Toward a conceptualization of optimal self-esteem Psychological Inquiry,14,1-26.
益子洋人(2008).青年期の対人関係における過剰適応傾向と,性格特性,見捨てられ不安,承認欲求との関連 カウンセリング研究 ,41,2,151-160.
益子洋人(2010).大学生の過剰な外的適応行動と内省傾向が本来感に及ぼす影響 学校メンタルヘル,13,1,19-26.
斎藤富由起・吉森丹衣子・守谷賢二・吉田梨乃・小野淳(2012).青年期における見捨てられ不安尺開発の試み その1—社会構造の変化を重視して— 千里金蘭大学紀要,9,13-20.

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