発表

一般研究発表(ポスター)
1AM-037

瞑想経験とアクセプタンスの関係性の検討

[責任発表者] 嶋 大樹:1
[連名発表者] 灰谷 知純:1, [連名発表者] 川島 一朔:1, [連名発表者] 熊野 宏昭:2
1:早稲田大学, 2:早稲田大学人間科学学術院

目 的
 Acceptance and Commitment Therapy (ACT) では,価値づけされた目標にかなうように,現実の状況に基づき行動を変化させる能力を確立することを目的とする (Luoma et al., 2007 熊野他監訳, 2009)。ACTでは,アクセプタンスという行動的プロセスが最重視されており (武藤・高橋, 2002),その生起頻度を上昇させることが,上記目標の達成の前提となる。アクセプタンスは,“刻々と変化していく体験に対して,意識的に開かれていて,受容的で,柔軟な,そして批判的ではない姿勢を自発的にとること” (Hayes et al., 2012, p.272 武藤他監訳, 2014, p. 433) であり,ACTにおけるマインドフルネスの構成要素のひとつである (Fletcher & Hayes, 2005)。
 マインドフルネスとは,今の瞬間の現実に常に気づきを向け,その現実をあるがままに知覚し,それに対する思考や感情にはとらわれない状態であり (熊野, 2014),ACTではエクササイズや瞑想を用いて,その状態の実現を目指す (Hayes et al., 2012 武藤他監訳, 2014)。そのため,瞑想経験が長い者はアクセプタンスの生起頻度や狙いとする機能の達成度が高いと予想されるが,アクセプタンスのどのような形態,および機能で程度の高さが示されるかは不明確である。
 そこで本研究では,アクセプタンスを形態と機能の観点から測定する尺度を用いて,瞑想経験者と未経験者での得点の差異,および合計瞑想実施時間とアクセプタンスとの関連性を探索的に検討することを目的とする。

方 法
対象 瞑想経験者26名 (男性19名,女性7名,年齢 (平均 ± SD) 40.0 ± 8.6歳,瞑想実施 (平均 ± SD) 1946.2± 2270.9時間,〜999時間:13名,1000時間台:5名,2000時間台:3名,4000時間台:2名,5000時間台:2名,9000時間台:1名),瞑想未経験者21名 (男性14名,女性7名,年齢 (平均 ± SD) 41.3 ± 8.7歳)。
尺度 Acceptance Process Questionnaire (APQ; Shima et al., 2015; 嶋・熊野, 2015):アクセプタンスを形態と機能の観点から測定する,13項目の尺度である。4下位尺度 (形態下位尺度:私的出来事から回避しない選択・リアクションの停止,機能下位尺度:行動レパートリーの拡大・現実の感受) で構成され,形態下位尺度合計得点,機能下位尺度合計得点を算出することも可能である。
分析 瞑想経験の有無を独立変数,APQ合計得点および各下位尺度を従属変数とした独立標本のt検定を実施し,効果量 (Cohen’s d) を算出した。また,瞑想経験年数とAPQ合計得点および各下位尺度得点の相関係数を算出した。

結 果
t検定 瞑想経験の有無を独立変数,APQ合計得点および各下位尺度を従属変数とした独立標本のt検定を実施した。その結果,機能下位尺度では有意な差は示されなかった (行動レパートリーの拡大:t (45) = .175, p = .862, 95%CI [-2.718, 3.234],現実の感受:t (45) = .372, p = .712, 95%CI [-2.032, 2.952],機能下位尺度合計得点:t (45) = .288, p = .775, 95%CI [-4.306, 5.742],効果量は全てd < .10)。
一方,形態下位尺度得点はすべての指標で経験群の得点が有意に高いことが示され (私的出来事から回避しない選択:t (45) = 3.043, p = .004, 95%CI [1.304, 6.407],リアクションの停止:t (45) = 2.959, p = .005, 95%CI [1.168, 6.151],機能下位尺度合計得点:t (45) = 3.249, p = .002, 95%CI [2.857, 12.173]),大きな効果量が示された (順にd = .910,d = .890,d = .970)。また,APQ合計得点は有意傾向で経験群の得点が高いことが示され (t (45) = 1.826, p = .075, 95%CI [-.849, 17.315]),効果量は中程度であった (d = .550)。
相関分析 瞑想経験年数とAPQ合計得点および各下位尺度得点とのSpearmanの順位相関係数を算出した。その結果,APQ合計得点,形態下位尺度合計得点,機能下位尺度合計得点およびすべての下位尺度得点と瞑想経験年数の間には有意な相関は示されなかった (ρ = .038〜.323)。最も相関係数が高かったのは,形態下位尺度合計得点であった。

考 察
本研究では,瞑想経験によるアクセプタンスの程度の差異を検討することを目的とした。t検定の結果,機能下位尺度得点では群による差は認められなかったが,形態下位尺度得点は,経験群において有意に高いことが示された。経験群では,今の瞬間の現実に意識的に気づきを向ける瞑想を継続して実践しているため,それと同様のアクセプタンスの形態の得点は高くなったと考えられる。一方,今回の対象者には,経験が比較的浅い者が多く含まれており (瞑想経験時間500時間以内:8人),アクセプタンスの機能を日常的に実現するには至っていないために,差が認められなかった可能性がある。
また,瞑想経験年数とアクセプタンス指標とは有意な相関は示されなかった。アクセプタンスの機能と瞑想経験年数にほとんど相関がなかった一方で,有意ではないものの,形態下位尺度合計得点と経験年数の相関が一番大きかったことついては,群間差がなかったこと同様に,経験の浅さが関係した可能性がある。以上の結果より,瞑想がアクセプタンスの訓練として有効である可能性が示唆されたが,今後は瞑想経験時間がさらに長い被験者を対象にして,アクセプタンスとの関連について検討していくことが有効であろう。

主要引用文献
Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G. (2012). Acceptance and Commitment Therapy: The process and practice of mindful change. 2nd ed. New York: Guilford Press.

詳細検索
アプリバナー iPhone版,iPad版 Android版